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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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12.まずは段取りから2

 ラビーナの討伐、この不安は杞憂だ。理由も明快、恐ろしく強い根拠がある。

 私はそれを知っている。だから、


「近藤、ラビーナの件はね――」


 そうして、自分の出した結論を口にしようとした時、


「ああ、その通り――ラビーナを仕留めることは"不可能"だ」


 割り込むような形で、近藤がそう言い切った。そして続ける。


「正確には不可能に近い、か。シンプルな話だが、もしんなことしようとしても鉄板でガルさんが阻止、というか"八つ裂きにされる"」


 やっぱり気付いてたんだ。

 それを知り私は腰を深く沈めた。

 そうだよね、観戦データ見てるんだから。

 近藤より二人に詳しい私もそう考える。

 直に多く接し、時間を共にしてきた私もそう思うんだ。

 幾分おかしな話になるのだが、姫に手を出すことをガルさんが許すはずはない。一番なんとかしたいと思ってるガルさんですらまだ手をつけてない、とか言うとなんか変な言い方になってしまうけど、とにかくラビーナはガルさんを狙っている。でも一方のガルさんはある意味ラビーナを守っている(・・・・・)んだ。監視という名目だが、護衛と呼んでも差し支えないだろう。だとすれば、そこになんの問題があるというのだ? むしろそれは、私からすれば歓迎出来る点でもあるわけだし。

 そうして首を傾げる中、近藤はまた口を開く。


「ここで分かるのは、ガルさんは絶対にラビーナを殺さないという点だが、そこはとりあえず置いておこう。問題はラビーナ掃討作戦的なものが実行された時だ。連中も馬鹿じゃない、さすがのラビーナも対策を打たれ、追い詰められた」


 どうだろう。難しいと思うが、絶対ないとも言い切れないか。だとしても、結末は決まっている。


「んでだ、はいさあ万事休す。ラビーナいざ覚悟! ってなった途端いきなりガルさんが現れる。異次元野郎に全力で阻止され死者多数。それはそれは見事なまでの死体の山が築かれましたとさ。問題になるのはこのパターン」

「ん?」


 いやだから、そんなの当たり前の話で――とそんな台詞が喉元まで出かかった時だった。

 唐突に、私の頭に全く違う絵が浮かんだのだ。

 そして一転「あぁ……そ、それは、いけないですよ……」そんな、呻き声のようなものが漏れていた。

 確かにあの人なら、(やっこ)さんなら"本当に全力"で殺りかねない。

 プレーヤーの断末魔広がる、とびきり悲惨な虐殺ショーが。

 もしそんなことが起きてしまったら……。

 状況を把握した私は、説明されるまでもなくその先を拾い上げた。


「私達はガルさんをラスボスにぶつけるつもりなんだ。なのに、ガルさんがプレーヤーに手を出すことでガルさん憎しみたいな状況が生まれちゃ困る」


 ただ強いだけのマイナーキャラ、現状ガルさんの位置づけはそうなっている。一部の人間、例えば先日私を襲ったピザデブの中村などは「ラスボスクラスの強さ」と認識していたようだが、一般的に知られているわけではない。後半におけるガルさんとの出会いはランダムで、しかも敵として登場するわけでもない。しかし、先の話が現実となれば状況は一変する。


「つまり、ラビーナどころかガルさんにまでマークがついて、"ハエみたいにたかられ"たら邪魔だしこっちの作戦ぶち壊しじゃねーかと、そういうことね」


 確信を持ったその問いかけに「仰せの通り」と返答があり、近藤は付け加える。


「こうなった時我々はいらん作業を強いられる。挙句、ラビーナの機嫌は底なしに悪くなるだろう、ただでさえ悪いのに。その結果、協力してもらおうと接触可能な段階まで持っていっても、話すら聴いてくれないなんてことも起こり得る」


 ええ、はい……姫は、あの子は機嫌悪くなるとすぐ拗ねるし逃げる……なんといってもまだ子供だし。一回死んでるけど。


「これじゃ何も進まない。とまあそんな事態を避けるため、例の等々力に出張ってもらうというわけだ。トカレスト最上級廃人やり込みプレーヤーに一仕事してもらうと、そういう段取りだな」

「はあ、なるほど、等々力さんですか……」


 とは言ったものの、何故その人の名前が出てくるのかが分からなかった。一体この人に何をさせようというのか。

 確かに、それなりに名の知られたプレーヤーなら影響力はあるだろう。しかし、私が知らない程度ではなあと考えれば、その点些か疑問に思う。ぶっちゃけ期待が持てない。結構頑張ってた私が知らないということは、恐らく私の周囲も知らないということであり、やはり知名度に関してはたかが知れているという話になってしまう。だとすればラビーナ討伐、或いはガルさんについて警告を出すようなことをしてもらっても効果は薄い。

 先刻承知、それでも尚なのか、それとも全く違うアプローチを取るのか。

 私なりに考えるが、話が見えなくなってきた。

 それに、近藤の顔が見えないから表情から読み取れない。こっちは今ちょっと、顔見られたくないってかさすがにお見せ出来ないのだが、近藤の顔は見たい。あいつは今どんな顔をしてこの話をしているんだろう?

 いや、それもあるが一番大切なのは……この等々力というプレーヤー、本当に信用出来るのか? 我々に手を貸すということは、金銭絡みのトラブルに首を突っ込むのと変わらない。それだけの信頼関係が、エネさんとはある?

 一通り考え、


「近藤、一仕事ってさ、具体的に何をしてもらうの? 私達も何かお手伝いするのかな? それと、その人巻き込んでいいの? 信用出来るのかい?」


 一連の流れには手応えがない、そんな感覚を滲ませ私は質問を並べ立てる。現状、安直に「よし分かったそれでいこう」とは言えないのだ。しかし、近藤はその問いの全てには答えてくれなかった。というより、


「いいや何もしない、ただし決めるのは加奈だ。加奈のGOサインさえ出れば即行動に移る」


 これでは無視されたようなものだ……人の話聞けよ……。


「い、いやあの、GOサインって何するかこっちは全然分かってないんですけど……」


 若干の間が出来「ま、そりゃそうだ」という相槌が聴こえた後、近藤は告げた。


「酷く単純な話だが計画はこうだ。廃人勇者等々力に、トカレスト世界の"ある一国を乗っ取ってもらう"」

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