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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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9.強者の理論

予定を変更してお送りしております

 長い沈黙が生まれていた。私は話すべきことが見出せず貝のようになり、近藤は全て話した、或いは鋭利な現実を突きつけたことにやや後ろめたいものがあるのだろうか。お互いが深く考え込むよう……私達はただ黙って、遠く離れた場所で向かい合っていた。

 それでもしばらく経った時のことだ。


「時間がな……」


 近藤がそう、やや小さな声を発した。確かに、このまま黙っていては肝心の攻略法について話し合えない。


「そだね……」


 ようやく、弱々しい返事をすると近藤が気を遣うようにまた話し始めた。

 先ほどまでの冷徹さは、もう消え失せている。


「加奈は強過ぎた。気付けなかったのは当然なんだ。お前は何も悪くない。自然なことだ、複数の問題を抱えていたわけだし」

「ありがと。でも情けないよ。もっと早く気付いてれば……」


 どうすればよかったのだろう? 見方によっては、クリア出来なくなった人達は、先導者、命の代理人としてプレーヤーをサポートしていたんだ。何もかも諦めて「頑張れ、俺らの分まで」そう、応援してくれていた。当然、それは有料なわけだけれど……。

 そうして、やはり沈み込む私に近藤が妙な例え話を持ち出してきた。


「なあ、こんな話がある。超大国の情報機関は弱い」

「ん? いやいや、そんなわけないじゃない。色んなとこに情報網巡らせて、監視して傍受して、それが問題になったことあるっしょ」

「いや、情報収集という意味じゃない。超大国は情報の精査が杜撰(ずさん)なんだよ。理由はさっき言った通り"最後は力でねじ伏せればいい"からだ。情報は確かに集める、けどその処理能力はどうしても弱くなる。必要ないからな。超大国は力の信奉者で、ベースはそこ。だから組み立てが強引で事故が起きる。結果非難されるんだよな、テメエらの判断はデタラメだったじゃねーか、と」

「じゃあ、私は超大国だったんだ」


 思わず笑って、


「それ脳筋って言ってるのと変わらないぞ」


 そんな自嘲も零れたが、近藤は気にもしない。


「逆に中堅、弱小国家にとって情報は命だ。収集も分析も徹底的にやる。まあ限界はあるし、得意不得意は出てくるが、情報が国の命運を左右すると自覚せざるを得ない。どこで何が起きて、誰が何を考えているのか。ま、国でなくても組織、或いは個人にも当てはまる話だけど」


 そういうもんなのか。「なんで近藤そんなこと知ってるの? 卓球選手じゃあないのかい?」なんて、苦笑すると、柔らかい口調が返ってきた。


「さあね。いやでも個人にも当てはまるつったろ?」


 なるほど確かに。


「この視点でいくと細かい事に気付かなかったり情報の精査が苦手なのは、強過ぎる者の宿命となる。加奈はそれだけ強くなった。逆に俺はトカレストプレーヤーとしては大したことないから細かいことに目敏くなった、そういうことかな」


 なんだか微妙なフォローだけど、


「あんがと。納得しておく。心強い相棒がいて、私は幸せだよ」


 幾分軽くなった気持ちのままを、口にしていた。事実、心は少し穏やかで、話すことも億劫ではなくなっていた。何せ、


「六英雄は、どこまでが本当でどこまでが嘘なんだろう」


 また話を蒸し返してしまうぐらいなんだから。怒られるかな、また呆れるのかな、そう思ったけれど「ほんと好きだなお前」そう言われた後は至って真面目に応えてくれた。


「正確には当然分からない。けど、最初あれだけ閉鎖的だったのには必ず理由がある。偽情報まで流して攻略サイトを成立させまいと腐心してたんだぜ。その後六英雄が生まれて不思議とオープンになった。情報の管理から既得権、権威が出来上がるなんてのは不自然に過ぎるかな」

「最初は情報が命だよね。でも一度出た情報は取り消せない。だから六英雄って象徴を創り出して、夢を見させる。で、情報の信憑性は六英雄ブランドが保証する、そういう流れなのかな」

「まあなあ。分からないのは六英雄ってのを誰が言い出したかだ。定着してから色んなプレーヤーがそれに便乗したのは事実だろうが、六英雄ですらそれに便乗していたのか。さて、真相はどうなんだろうな」


 徳永さんも甲斐田さんも、首謀者ではなくそれを利用した、か……。六英雄、トカレストプレーヤーの謎は深まるばかりだ……。


「とにかくあんま関係ないし、これから俺達が動くことで出くわす機会もあるかもしれない。当人か、関係者か。そん時分かるかもしれん」

「ほんと知りたいよ。話聞きたい」

「聞いてどうすんだ? 加奈は六英雄の恩恵受けてないだろ。ルートが違うんだ。それとも、自分のが強いからテメエら看板下ろせや、とでも言うつもりか?」

「いやいや、そんなわけないっしょ、ほんともう……」


 そうして笑うと、つられるように近藤も笑っていた。声にして、何故だか二人して必要以上に笑っていた。それは久しい感覚だ。再会以降、初めて二人一緒に、明るい雰囲気になれたような気がする。最初二人で旅を始めた時は、ずっとこんな感じだったっけなあ……なんだか懐かしいことを思い出してしまうよ。


「まあ、ほんと調子は戻ったみたいだな」


 近藤の口調からも柔らかなものが感じられる。

 私は少し微笑み、


「うん? そりゃもう。ごめんね手間かけさせて……」


 頭を掻いていた。


「何殊勝なこと言ってんだ。んじゃ本題なんだが……」


 その一言で「きたか」と咄嗟に身構え、クロマグロをそっと置く。

 自然と身体に力が入り、微笑みもどこかへと消えていった。

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