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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第六章:前夜
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7.六英雄の謎2

 またおかしなことを……甲斐田セイレーンが嵌められた? 誰に、ラビーナ? 違う、そんなのゲームの気まぐれじゃないか。ラビーナのイベントはランダムなんだ。近藤はそのことを知らないのか?


「Aとかいう奴がやられて、Bとかいう竜騎士がやられて、どーすんだとなった。そこで徳永が切れちまって突撃かました。最後だと知りもしないくせに。そしてAが挑戦した際、時間が空いた。その間四人は何をしてたんだろうな」


 レベル上げ、自己強化に決まってるじゃないか。私だってそうする。誰が昼寝などするものか。


「徳永が行って、ラビーナが現れた。甲斐田セイレーンは応戦の末敗北。何もかも失った。ありえない、嘘くさい」

「ごめん、口挟むけどどこが?」

「徳永は本当にラストダンジョンに挑んだのか? AもBもだ」


 えーっと……何言ってるんだ、この人は?


「音速のヴァルタンがなぜラビーナ如きを取り逃がしたのか」

「ラビーナは逃げ足が速いんだよ。ガルさんですら取り逃がしたじゃない、覚えてないの?」

「ヴァルタンはオート操作にしていた。ほんとか? 虫が嫌いだからってそんな事するか? ってか可能なのか?」

「ヴァルタン、というかCさんの強さを考えれば不自然じゃないし、実際出来てた」


 やはり、ついつい意見してしまうが近藤は歯牙にもかけなかった。


「そんな強い奴がなんで借金抱えてるんだ」

「トカレストに事故は付きものだよ……」

「"事故が付きものの世界で"ソロプレイ対策とはいえなんで仲間を放置した。実際万が一の事故で全てを失い、佐々木にトドメを刺されてしまった。これで甲斐田セイレーンは再起不能だ。トカレストの顔じゃねーのか」


 それはだから……混乱、していたんだ。慢心もあっただろう。それこそラビーナ如きに敗北するとは、ラジカル・セイクリッドを以ってネクロマンサーに後れを取るなんて思わない。実際、アドナイさえ召喚していなければ……敗北はなかった。

 いや、そうじゃない。なんか違う、おかしい。今私の中に少しの疑問が、猜疑心が芽生え始めている。確かに事故を起こしてはならない。たった一つの命、その自覚は、光の勇者の条件を確かめてしまえばもう言い逃れが出来ない。

 じゃあ私は近藤の言うことを受け入れるというのか? それも違う。なんだ、分からなくなってきた。混乱しているのは私? 待った、大丈夫、もう私は大丈夫なんだ。いつの間にか、汗ばんでいた掌を寝巻きに擦りつけ、それから深呼吸。そのタイミングで、近藤が問いかけてきた。


「一つ確認してもいいかな。光の勇者ってのは八十人近くいるんだよな」

「……私が八十一人目だよ」

「ナンバーでも付いてるのか」

「付いてないけど……ついてたらおかしいでしょ?」

「二十人近くがラスボスに挑戦して戦死した。誰が数えてんだ」

「えっと、誰かは知らないけどカウントしてる人がいるんだ」

「当然運営じゃないよな。誰だよそれ」

「ちょっと待って、近藤は何もかも否定するつもり? 映像が残ってるんだよ?」

「映像なんていくらでも加工出来る。実際俺もこないだやっただろう」


 え……近藤が加工していた? どこで! 唐突な告白に思わず力が入り、クロマグロにチョークをかけてしまう。


「レベル42。あんなの嘘だ。あれは俺のトカレストネーム(・・・・・・・・)であって、実際のレベルじゃない」

「…………マジで!?」


 じ、じゃ、私にも嘘ついてたってこと? こ、こいつ、信用ならない!


「ちょい待ちだいぶ待て! 実際はいくつなのさ!」

「えーと、43か4だな」


 一つ二つ誤魔化してるだけかよ! なんの意味があんだそれ! と、これにはさすがに突っ込んだ。


「見抜けるか否かを試してるだけ。俺にレベルは関係ない。そういうスタイルじゃないから」

「何それ……ってか、それと映像の加工とは違うじゃない。それは誤認させてるだけでしょ!?」

儚さの寓意(ヴァニタス)、陰影、雲隠れ、あれは映像の加工だ。観戦モードは開放されているだろうという前提で、実際にやったこととは違うものを見せた。幻を見せていたのは事実だが、フェイクも込みだよ」


 手の内を晒したくなかったからな、と近藤は続けた。けどそれ、私も見抜けなかった。何それ、たかがレベル42のプレーヤーのやり口を最強のヴァルキリーが見抜けなかった? そんな馬鹿な。


「甲斐田セイレーンは嵌められた可能性がある。だとしたら犯人は、多分身内だろう。或いは、ノームに護られていた三人かもしれない」


 ……なんで、そんなことになる。ちょっと待って、そこじゃない。


「違う視点もある。甲斐田が演技している可能性だ。奴自身が主犯というパターン。考え出すとキリがないが、結局六英雄絡みで絶対にこうだと言えることは、そこそこ出来るプレーヤーなんだろうな、ぐらいじゃないか。何も全員が架空の存在だとは言ってない。一人か二人か。まあ結局あんなものデカイ釣り針にしか見えない、俺には。という話だよ」

「待って。どうしてそんな釣り針が必要なの。近藤の言ってることは陰謀論みたいなものだ。それと、近藤はトカレストに復帰してから何してたんだ。自分でこんなこと言いたくないけど、私に見抜けないスキル使ってたなんて信じられない」


 もう何度「待って」と言っただろう。近藤の言うことは一々理解に苦しむ、いやトカレストの定説から遠過ぎる。これを信じろと言われ、はいそうですかと言える範疇を超えている。だが返事は、言葉ではなくデータとして送られてきた。


「なに、これ?」

「俺の観戦、戦闘データ。大して長くないから好きな時に目通せばいい」

「もしかして全部!?」

「そうだよ。大して長くないし、大したこともしてない。ただ、観てあまり気分のいいものじゃない」


 いや、そういうことではなく……そんな簡単に晒せるものなの? そりゃ、私と近藤の仲だと言ってしまえばそれまでだし、私のデータは送ったんだからこれで平等と言えばそうだけど……。


「ほんとに観るよ。ほんとに観るぞ、いいの?」


 そんな風におっかなびっくり尋ねると「この話はこれで終わり。話が進まない」つまらなさそうに彼は言った。

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