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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第一章:トカレストストーリー
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第十一話:ビッグ・アイ

 テラスから宮殿最上階の広間へと足を踏み入れる。薄暗い広間は、天井が高く、異様に広々としている。しかし、なぜか圧迫感があり妙な重圧を感じずにはいられない。

 ……よし、やっと、やっとRPGらしくなってきたぞ! そう考えると連戦もなんだかいい演出に思えてくる。私はそんな興奮を味わいつつ完全戦闘モードで広間の中央に立った。隣には近藤も臨戦態勢で構えている。

 その刹那――「ゴゴゴゴゴ」というSEと同時にテラスから気配がし、人が飛び込んできた。二人は咄嗟に振り向き防御態勢を取る。

「む、この奥か」と人影は声を上げた。あれ、見たことあるなこの人。白い鎧に白いマント、少し汚れてはいるけれど真っ白なその姿。無精ひげを生やしてなんともダンディなその顔は、


「ガルバルディのおっさん!」


 私は思わず大声で指差した。


「君たちか、ここは頼む。私は姫の救出に行く。頼むぞ!」


 なんと! 反乱を鎮圧してここまで駆けつけたのか!

 しかも、あの崖を飛び降りて、ここまでやってきたんだ!

 さすが聖剣士! さすが婚約者! 団長、かっきぃっす!

 聖剣士ガルバルディは颯爽と奥の間へと走り去っていった。

 私は思わず手を振って、頑張ってねーと声をかけていた。


「呑気だな、くるぞ」

「分かってらあ! いい演出だったから楽しんだだけさ!」


 私はすっかり物語に酔っていた。


「逃げ場なし、強制戦闘だ」


 背後の扉は閉じられて、テラスへのルートは遮断されている。覚悟の上、構やしない。上等だよ!

 ゴゴゴゴゴゴ、というSEはずっと鳴り続けていた。ガルバルディさんの登場とは関係ない。つまり、敵が鳴らしている音か。しかし、周囲を見渡してもまだ何も見えない。その時――


「佐々木上だ!」


 上田佐々木のように言われて、誰そいつらとも思ったが近藤に突き飛ばされて私は広間中央から弾かれた。また、また突き飛ばしたこの野郎! うつ伏せ大の字状態からズタッと立ち上がり、


「てめーこんどぉー!」


 そう叫んだが、あるのは白い塊だけだ。うん? 近藤さん?


「佐々木! こいつだ! お前は二階に上がれ!」


 近藤の叫び声が聞こえる。どこ? 二階? あいたた、と思いながら巨大な白い塊から離れていく。二階はどこって二階か、あった。階段がありそこを駆け上る。既に戦闘は始まっているようで、バキッ、ガキッ、という打音が広間に響く。


「でかっ! いたっ! なぬ?」


 近藤の声が聞こえるが、白い塊と何をしているのか分からない。


「こんどぉーどこー私も参加していいのー」

「舐めてんのか! よく見ろ、敵名表示されてんだろ!」


 目を凝らし白い塊をよくよく確かめると、確かに名前らしきものが表示されていた。


「ビッグ・アイ?」

「撃て、佐々木! ちょっとまずい!」


 ピンチか! なんか分からんがとりあえず撃つ! 矢を番えギリギリと弦を引く。おもいっきり放つと白い塊が一瞬赤く染まった。着弾、よし。


「これでいいのー?」「よくやった気をつけろ!」


 その近藤の声と同じくして白い塊が向きを変えた。標的をこちらに変えたのか。上等、こいよ! ぐるりと完全に向きを変えて、ようやく把握した。そのままだ、こいつ、名前の通りだ。


「でかい目! 眼球そのまんまですか!」


 ぎょろりと睨まれて私は一瞬身がすくむ思いがした。 キモイ! そのまま取り出したような眼球に神経がひらひらとくっついている。いや、神経ではないのか? 足? 四本足? なんだそれは!

 バッ、という音と共に水の塊が飛んできた。ひいっ、と情けない声を出したが運よくそれた。だが壁に穴があいている。怖い! おっかないよ! 初めてまともに攻撃されたかもしれない!


「そいつの遠距離攻撃だ! 俺は脚をやる! お前は……」

「どこ狙えばいいのさ!」

「目だ」


 大体全部目だよ。


「走りながら狙え! 相手は中央からそう動けん!」


 そっか、こっちはぐるりと二階を駆け巡りながら狙えばいいんだ。なるほど、でかすぎる自分を後悔するんだな目玉野郎! 私は駆け出しビッグ・アイの視界から逃れようとする。黒目が私を追うがズバッという切り裂く音が聞こえると黒目は反対側へと移動する。見えないが、近藤の攻撃に反応したのだろう。

 背中、ってか眼球丸見えだ馬鹿野郎! 戦場で敵に背を向けるとは愚かなり! パシュッという音と共に矢を放ち、また眼球が赤く染まる。そうして黒目が再びこちらを向くと涙のような水滴が飛んでくる。しかし、あまり命中精度が高くない。あらぬ方向に飛んでまた壁に穴を開けた。

 根競べだ、ブループラネットを温存して戦うならそれしかない! 私が走り、近藤は切りつける。広すぎる広間を三週ほど回った頃だろうか、耳に入る音が変化し、切り裂き音から打撃音に変わった。ハンマーに持ち替えたか。そう思った矢先、ズドン! という轟音が鳴ってビッグ・アイが態勢を崩した。


「弱った?」

「違う、油断するな、続けろ!」


 じゃなんで態勢崩したのさ。そう思いながらも私はまた走り出し矢を番える。そうして一周しようとした時、


「おーい、佐々木ーいいぞー降りて来いー」

「え?」


 広間を見下ろすと、でかすぎる眼球がコロコロ、ゴロゴロと転がっている。


「何これ、気持ち悪い。こんどー倒したのこれー」


 階段を下りながら声をかけると転がるビッグ・アイの向こうに近藤の姿が見えた。ハンマーを背負って、息を切らしている。


「倒してはいない。ただ……はあ、はあ」


 大丈夫かな。随分疲れてる。私もだけど、で何があったの? 近藤が息を整えるまで待って尋ねた。


「ああ、倒してないけど、足全部切ったった」


 切ったった? 切る? 足ないのもう? それで転がってるのか!


「おかしいなと思ったんだ。死霊系だと思って銀の短剣で斬りつけてたんだけど、あんま効かないんだよな。で、ハンマーでフルスイングしたら痛そうに目染めるから、ああって」


 なるほど、死霊系モンスターじゃないのこいつ。じゃなんだろ。


「で、まあさすがに疲れたんでむかついてきてな……。剛力のスキル使ったった」


 使ったった。はい、何に?


「足下に穴あけたった」

「そしたらはまったった?」

「そう、それでバランス崩したんだ」


 ああ……そんなことが下では。私は感心して転がるビッグ・アイに冷めた視線を送った。これじゃただの玉だ。


「足全部切っただけだから死んではいない。でも水滴あるから黒目には近づくなよ」


 うん……で、どうしようこれ。もう一方的で終わってんじゃないの? 足ないと動けない目って何って話だけど事実動けないし。だが近藤は私とは視点の違うことを考えていた。


「なあ、これいいサンドバッグだよな……どうせとどめ刺さないと先に進めないんだろうしよ、有効に使おうぜ……」

「え?」

「レベル上がるのは仕方ないとして、攻撃しまくってスキルポイントここで稼ぐんだよ。主にお前が。俺は足りてる」


 それ、物凄い弱いものいじめじゃ……さすがに眉をひそめてしまう。


「やなら俺がやる。どっちみち殺さないと進めない。作業だな」


 目玉をサンドバッグにして潰す作業は小一時間続けられた――。

 疑問だ。疑問がある。いくら中ボスとはいえ殺しきるのに小一時間はかかりすぎではないのか。完全に作業だったのに。もしかして、レベル足りない。あ、いや正確にはパラメーターが足りないんじゃ。チームの頭脳にそう尋ねたいが、正直声をかけづらかった。


「くっくっくっくっ……はっはっはっはっ、カーカッカッ!」


 ビッグ・アイからの返り血で全身を赤く染めた近藤が怪しいんだか高笑いなんだかよく分からない有様で、話しかけづらいのだ。血染めのウォリーアーはひとしきり笑い終えると、こちらを向いた。


「佐々木、やったぞ、こんなに美味しい奴だと思ってなかった。手強いと思ってたのにただのボーナスステージだ」


 言ってることは分かるけど、怖いです。苦笑いを浮かべるしかない。


「見てみろ、俺のステータス。戦闘パラメーターをよ!」


 をよ、って言われても。二人とも倒した時点でレベルが上がってしまって、私は四つ上がってアーチャーで8。近藤は五つも上がってウォーリアーで同じくレベル8。美味しくないよ、こんなに上がって。


「基礎は損した。けどな、スキルポイント稼いだ結果、これもんよ」


 じっくりと近藤が表示した戦闘パラメーターに目を向ける。


「こ、攻撃力250! 防御力も200! っていうか、全部200近くはあるじゃない!」

「そうよ、こいつのお陰でな」


 近藤は消えてなくなったビッグ・アイが最後に倒れた場所に視線を送った。


「これって、レベルで言うとどれぐらい?」

「低レベル攻略なしで考えれば30近くはあるだろうな。ただし攻撃力は倍のスキルだから、レベル10超えたら弱体化する。まあでもいいんだ、随分と稼がせてもらった。全パラメーターを強化した上まだ残ってる」


 確かに稼げた、私もまあ相当強くなった気はする。射撃の攻撃力に影響する器用さだけで言えば、近藤以上だ。しかもブループラネット持ち。


「でもさ、今まではやっぱり弱かったのかな私達。時間かかりすぎじゃない、作業だったのに」


 そんな疑問に近藤がにやりと笑みをつくる。


「違う、お前銀の弓使ってたろ。あれ大して効かない」


 ああ、死霊系じゃなかった。早く言えよー……って忘れてた私が悪いのか。


「それに俺は銀の短剣で攻撃しまくってたんだよ。攻撃回数を稼ぐためにね。なるべく長生きしてもらうためにな」


 こ、こいつ……血染めになりながらそんな計算まで!


「それだけじゃない、攻撃力倍のスキルを外して弱体化させて作業してたんだ。そりゃ時間もかかるってもんよ。俺達が弱いんじゃない、わざと弱くなってんだ」


 その冷静さ、感服するが血染めの姿が超怖い。まるで悪役だ。そんな近藤の計算高さから我々は相当強化された。次のボス戦もこれなら軽くいけるかもしれない。けど、謎な点と疑問が二つ浮かんだ。


「二つ、聞いてもいいかな」


 近藤は屈伸しながら、頷いた。


「パラメーターの上限っていくつ? あたし達弱い?」


「基礎は99。今お前30台だろ。俺も似たようなもんだ。弱いな、はっきり。付け加えると、基礎パラメーターは99でカンストしても更に上がある。それぞれのジョブになっての話、戦闘パラメーターなら上限は999。これもカンストしても上がある。表示止まってるだけ」


 よく知ってる。ほんと物知りだ。もう一つ。


「ビッグ・アイは、本当に手強かったの?」


 近藤が屈伸をやめ、表情を歪ませた。


「状況による。普通にやってりゃ死ぬほど強い。あいつライフが減ると突然暴れだしてあちこち飛び跳ねるんだ。身体ごと体当たりだな。挙句に水滴攻撃を乱射する。悪夢みたいなもんだ。だからどうしても足を切りたかった。足切ったら、まあご覧の通り」


 ただの玉か……。普通にやってればここは惨劇の場と化していたのかもしれない。近藤、ほんとになんでも知ってる。私はいい加減それが不思議になってきた。メインストーリー派は閉鎖的……自分でそう言ってたじゃない。


「さあて、お楽しみのボス戦といこうか。ガルバルディのおっさんがどうなったか見たいだろう。あいつ、姫を助けに行くって言ってたからいるかもしんねえしな」


 そうだ! 近藤がどうやって調べているのか気になるけど、もっと気になるのはこの先の展開だ! ガルバルディさん小一時間も待たせてごめん! もう終わってるかもしんないけど、そこはRPG的世界の都合で長引かせてくれてるだろう。私は大きく声を上げた。


「ラビーナ姫を助けに行こう!」


 いたらの話な。近藤は苦笑いでそう呟いていた。

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