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トカレストストーリー  作者: 文字塚
第五章:六英雄の物語
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第九話「六英雄の物語・参」

 リーダー格の四名プラス頭脳役四名が、その二十人を見てまた会議を始めた。


「正直、お薦め出来る奴がいない……」

「待て待て、誰か選ばないとラスボス戦に挑めない」

「無理にでも、選ぶしかないか……」


 彼らの表情は、もう苦悩というレベルではなかった。誰かを選ばなければならないが、一応試練の場と記されている。とすると、この頼りない連中にまぐれ期待で行って来い、というより「逝って来い」と指示するのとなんら変わりない。そんな中、


「私やりたいんだけど」


 と、先ほどから目立つ女性プレーヤーが自ら名乗りを上げた。だが、ほぼ全員が首を捻る。


「君、ジョブは?」

「シンガーソングライター」

「パラメーターは平均いくつ」

「知らない」

「得意分野は」

「作詞」

「必殺技とかある?」

「物理で殴る。歌って踊る。主にJポップ。あと、色仕掛け」


 ――却下された。「なんで!」と彼女は憤るが、そもそも何故五体満足でここまで来れたのかが不思議だ。結局、消去法で三人が残った。

 一人はアーチャー。トカレスト上位ジョブにして、最強の武器弓とボーガンを使用出来る。


「後ろで適当にぱなしてただけですけど、それでもよければ……」


 一人は黒魔法師。魔術師系ジョブを転々としての黒魔法師なので、その分野ではしっかりと育てた方だろう。そして黒魔法の火力は高い。


「殴られたら即死するタイプだけど、どうしてもっていうんなら、いいよ」


 最後の一人は……ただのナイトだ。基本ジョブとして初期段階から使える、あまりにも貧弱なクラス。彼にしても、よくここまで無事に来れたものだと思う。そもそもナイトは前衛の壁役だ、真っ先に死んでいてもおかしくない。そこが、ポイントになった。


「君は死んだことがない?」

「みたいですね」

「ナイトなのに?」

「そうらしいです」

「自信ある?」

「全く分かりませんね」


 リーダー格の一人が、決断を下した。彼で行く、と。当然異論が上がる。


「ほんとにいいのか? ジョブランクでいやアーチャーと黒魔法師のが上だぜ?」

「そうだけど、プレイヤー性能は彼の方が優れているだろう。むしろ問題はダメだった時、彼に申し訳が……」

「あ、いやそれは別にいいですよ。皆さんと同じ立場になるだけですし、逝けと言われれば逝かねばならんでしょう。ここまで来れたの、みんなのお陰だし」


 その言葉に、チーム全員が救われる。そして再挑戦が、始まった。

 まずアシストにエース格を試したが、彼らはやはり入れなかった。

 やむなく消去法で残った二人、さらに立候補したシンガーソングライター、そして回復役としてプリーストが選ばれた。


「俺、回復しかマジ出来ないから! マジだから!」

「知ってるよ」「分かってる」「援護以外しなくていいから」


 と、皆でなだめ、不安ながらも一同は彼らを見送った。

 そうしてナイトの彼を筆頭に五人が、光の勇者試練の場へと、潜り込んだのだ――。


 観戦モードが開放されていることから、チーム全員で一行の様子を見守る形になった。


「大丈夫だろうか、彼らで……」

「今更、逝ってしまったものはもうしょうがない」

「それより、借金返す方法考えないとな……」

「金を稼ぐ方法が見当たらない。カジノにでも行くのか?」

「いや、正直スロットで勝ちまくっても足りない……」

「というより、金を稼げる方法が異様に少ないし、そもそも金は稼げないと思う」

「それでも、何かあるはずだ。じゃないと、勇者になれない」


 結論から言うと、ない(・・)。トカレストは異様に金を稼ぐ方法が少なく、あったとしても大した稼ぎにはならない。そして、高レベルの状態で戦闘不能に陥った者は少なく見積もっても億単位の借金をしているだろう。下手すれば、そこに0が一つ加わる。絶望的な額だ。


「いいんだってそれは。彼らが戻ってきてさえくれれば、どうでもいい話じゃないか。さっさとクリアして、サブクエストやりたいよ俺は」

「海戦とかあるらしいね。戦略シミュレーション的な、海軍の総督になった気分になれるらしい」

「そういうのは勝ってから話そう。まだ、条件も満たしてないんだ」

「どういう組み合わせで行く? いつものチームか、それとも最強編成で行くか」

「気持ちはいつものチームで、だけど全員で行ける可能性もある」


 そうして先のことを話し合う彼らの、空気が一変したのはモニターに映る五人の動向が怪しくなってのことだった。


「そいつは罠だ! 落とし穴だ! 重装備のナイトが落ちたら、絶対上れない!」


 ラストシーカーが罠を見抜き、そう叫ぶが五人には警戒する素振りがない。皆で指摘するが、反応もない。


「聞こえてないのか?」

「チャットは?」

「今打ったけどダメ、こっちから連絡取れない。多分向こうからも……」

「頼むぜおい……!」


 だが、彼らは罠が発動した瞬間に、それをよける芸当を見せた。先頭を行くのはナイトとシンガーソングライターの二人だ。


『あぶね』

『古典的だよねえ、このゲームさあ、工夫が足りないんだよ』


 たかがシンガーソングライターが、トカレストの難易度を言下に否定した。それを聴き、残った一同は目を見張る。


「なるほど、そういうことか……」

「プレーヤー性能と言えば聞こえはいいが、連中は異様に勘がいいんだ」

「危険を察知する能力が高い」

「意外に、これはいけるかもしれないな……」

「なあ、限定一人だろ? 最低四回、下手すれば五回チャレンジ出来るかもしれないってことだよな」

「いいね、先陣を切る第一隊は、情報収集の意味合いが強くなるけど」


 その頃、別の場所では違う議論が行われていた。エース格のプレーヤーが疑問を呈する。


「お前らなんで死んでねーんだ? 恐ろしい難易度だっただろ。一回も死なないとか、どうやったんだ?」

「いや、だって死んだら治療費取られるから絶対にお前らは死ぬなって、参謀役の人が」

「そう、そう言われたからいつも安全地帯で応援してたよ」


 ああ、という声が漏れ聞こえた。あの五人はともかく、他の面子は詰まるところ「財布」である。


 ――トカレスト内の時間にして一時間後、彼らは無事帰還した。


「これでいいのかな、ただの転職証に見えるんだけど」

「全く問題ない、無傷で良かった。うまく敵を避けてたね、感心したよ」

「だって戦って指でも怪我したら、ギター弾けないじゃん?」


 どうでもいい話はスルーされ、彼らは最後の会議に入った。


「ナイト君は光の勇者だから当然組み込む。で、パーティーの編成は……条件を確認してから最終的に決めるけど、いつも通りで行こうと思う」


 光の勇者になりえるプレーヤーはまだいる。そして、試練の場の難易度はたかがしれている。これなら、複数回挑戦出来る。そう考えての、結論だった。ここまで共に旅をしてきた仲間と一緒に最後の戦いに臨める、その事実が彼らを高揚させ、そして一同は歓喜に沸いた。


 ――そうして、光の勇者兼ナイトとなった彼を戦闘に、彼が所属していたチームがラストダンジョンへと近づく。

 ナイトの彼は、光の勇者になったにも関わらずパラメーターが700台という異様な低さ。だがそれでも、彼らは気にも留めなかった。皆でカバーし合えばなんとかなる。今までもそうしてきた。そして、次がその、最後の機会になるかもしれない……。


「じゃあ、とりあえず条件確認してきます」

「ああ、上限次第で、最終的な構成を決めるよ」


 ナイトがラストダンジョンの入り口に立つ。もう、それを防ぐ障壁は何もない。彼がそっと暗闇に触れると、またメッセージが表示された。


『光の勇者は最後の希望。最強にして最高の称号を手に入れた、あなたにはその資格がある。あなただけには(・・・・・・・)。ただ一人旅立つあなたに、幸運を。全ての光を背負いし運命を、託します』


 その文面を読んだ彼はしばらく沈黙した後、ゆっくりと手招きして、チームの面子だけでなく全員をそこに呼び寄せた。


「なんだ、どうかしたのか?」

「いえ、あの、これを」


 なんだなんだと、メッセージの前に人だかりが出来る。


「うん……? どういう意味だこれ。勇者の資格、は分かるんだが」

「全ての光を背負いし運命って、つまり(まと)は闇の存在?」

「いや待て……ちょっと待て、あなただけには……ってなんだ……」

「ただ一人……旅立つ……ただ一人!?」


 人だかりは順を追い、その文面に目を通していく。目を通した者は皆その意味するところを理解したことだろう。とても現実味のない、それを。そして集まった全員が目を通し、その意味を咀嚼し、その全て悟った――。


「ちょっと待ってくれ……ここはソロプレイ(・・・・・)なのか?」「そう、書いてある……ね」「いや、嘘だ、そんなはずない」「いや書いてある! ただ一人、あなただけにはって! そういうことなんだよ!」


 そして起きたのは、狂乱とも呼ぶべき、彼らの魂の叫び。


「冗談だろふざけんなマジ舐め過ぎだボケが!!」「ど、土壇場で強制ソロプレイ?」「今まで散々集団戦闘やらせといて、最後はソロ!?」「ぶっ殺すふざけんな!! 誰だこんなルール決めた奴は!!」「あなただけにはって、俺らは何?」「そもそも光の勇者ってなんだよ! 今時小学生でんなネーミングつかわねーよ!!」「神様……このクソゲーに天罰を……」「さすがに、冗談だろ。嘘に決まってる……」「バグだ、運営に連絡を……」「折れた、というか、何かが切れた」「やめる、俺このゲームやめるわ」


 皆の怒りと失望と憤り、私には分かる。完全には共有出来ないが、メイン派の一人として、理解出来る。このクソゲー、本当に救いようがない。今モニターを通して他人の過去振り返っているだけの私ですら、このモニターを破壊したい衝動に駆られる。


「なんか、正直こんなことになるんじゃないかと思ってたよ」


 シンガーソングライターの彼女はそう言って、失恋ソングを口ずさみつつ、入り口後に立ち去っていく。ナイトは目を細めその後姿を興味なさ気に見送るが、すぐに振り返った。そしてやや低いトーンで切り出した。


「つまり僕一人で行けと、そういうことらしいですね。ぶっちゃけ、意味ないです。勝てる気しません。ただついてきただけですし、僕」


 ナイトはそうして、あっけらかんと、まるで達観したかのように言い切る。だがエース格、ラストシーカーとリーダー格の二人は激しくかぶりを振った。そうじゃないんだ、と。そこではないんだ、と。


「ちげえ、ちげえよ、そういう問題じゃねーんだ……」

ここまでの道のり(・・・・・・・・)は一体なんだったんだって、そういう話なんだよ、ナイト君……」


 それを聞いたナイトは、俯きながらも周囲を見回した。皆、とても見ていられない惨状だ。ここに集う全てのプレイヤーの心の中には今「ムンクの叫び」が生まれ居座ってることだろう。


 ああ本当に、絵に描いたような、悪夢です。

・黒魔法師。RPGでお馴染みの黒魔導師とは一線を画す高火力魔法使い。黒魔導師よりも高火力な魔法を使えるが、その分耐久力、ライフ、防御力は豆腐クラス。超攻撃型魔法使い。

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