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□■第四話:−−居た。舞っている。哀しそうに。■□

ついに。見つけます。


 あれからどのくらい眠っていただろうか。部屋のドアをノックする音が聞こえるまで、俺は眠り続けていた。

「・・・はい」

俺は目を擦りながら、返事をした。かちゃりとドアが開き、先程宿をとったとき話した、宿の主人が入ってきた。

「よう。お疲れのところ悪いね。今から夜の祭が始まるもんで、ここ誰も居なくなるから閉めるんだけど」

「ああ。分かった。出よう」

「舞が終わったらまた開けるから。金はとらねぇよ。帰ってきたかったら帰って来い」

「ああ」

俺は、鞄を持って宿を出た。本音を言うと、別に祭なんか興味ない。

俺の国でも、多分今日同じような祭が行われているだろう。それどころか、今日は世界中で、ミール・ストーンの使い手を奉る祭があるだろう。ミール・ストーンは5つあり、使い手もそれぞれの国に1人ずつ居たのだから。ここの国からは・・・『テューサ』だったかな。この少女から始まったと云われている、世界を救う旅。

今は、色々な乗り物が発明されて、他国への移動が便利になったが、あの頃の世界にそんなものはなかったはずだ。

 俺は色々と祭について考え事をしながら歩いていた。気づくと、俺の歩いている道には、人一人としていない。俺はそのまま真っ直ぐ歩いた。城門前の、広い場所に出た。

 城の前は、普段はこれほど派手ではないだろうと思えるくらい、飾り付けされていた。あちこちの城壁から民家の屋根まで、綺麗な色のテープが張り巡らされ、また、空を見上げるとテープだけでなくカラフルな風船も括りつけられている。夜だというのに、多彩な電飾で昼の日光に負けないくらい、辺りは明るかった。

そして、そこにはたくさんの人だかりがあった。きっと皆ここに集まっているから、町の道路には誰も居ないのだろう。

 背伸びをして、人々が眼を見開いてのめり込んでいる舞を見てみた。

――ああ、綺麗だ。

 興味なかったはずの祭に、舞に俺は見惚れていた。銀のアクセサリーを身につけ、真っ白なワンピースを纏った少女。金色の長い髪を風に(なび)かせ、美しい舞を舞っている。

彼女から眼を離せなかった。彼女にはそんなチカラがあった。だからこそ、こんなにもの人々をここに集まらせている。しかし、どこか哀しげなところがある。美しいけど、哀しい。これは・・・。

 やっとこちらに彼女の顔が向けられた。四方八方を人々に囲まれているので、色々な場所を見つめて舞っている。笑ってはいなかった、その顔。しかし美しい舞。俺は、背筋がぞくりと波打った。

――あの()は・・・!!

 リューシャの妹。あの娘が、舞っている――! 城下町に入ったときに訊いた女性が、気に留めることがないわけだ。この町の、住人だったんだ・・・。しかし、それでは矛盾が生ずる。彼女は、リュクールの住人じゃなかったのか・・・?

 考えていると、彼女の舞は終わった。お辞儀をして、その場を離れる。何か、急いでいるようだった。俺は、彼女を追った。ここで、彼女を見失うわけにはいかない。走った。人込みをかき分けて、走った。

 彼女が歩いていった方へ、走り続けた。通り過ぎる人々は、何事かと俺を見てくる。ぶつかられて迷惑だ、という視線も、不思議そうに見つめてくる視線も、とにかく気にせずに、俺は走った。

 人込みから抜け出し、町の道路まで来た。しかし、彼女を見つけることは出来なかった。見失った。諦めずに裏道なども捜したが、居なかった。肩で息をして、苦しかった。

「・・・あんた。大丈夫かい? どうしたんだい?」

後ろから声をかけられ、ぎくりとした。振り返ると、先刻会話をした、あの太った女性が居た。

「あ・・・。・・・さっきの、舞を舞っていた娘はどこに行ったか知らないか!?」

無意識に声が大きくなる。俺の目の前に居る女性はびっくりして、少しの間口を(つぐ)んだ。俺は答えを待った。

「・・・ミュ、ミューシャちゃんのことかい?」

一人の名を出す。ミューシャというのか。確かに、リューシャと名が似ている。

「ミューシャは、今どこに?」

「着替えて・・・町を出たんじゃないかしら。何か忙しそうな感じだったから・・・」

「そうか・・・。有難う」

俺は礼を云って、その場を後にした。既に息は整っている。・・・走るか? ・・・走ろう。俺は軽く、一つ溜め息をつくと、駆け出した。

 まず、町を出るまでに、ミューシャは見なかった。周囲に眼を配りながら走る。

 町の出入り口まで来た。膝に手をついて、腰を曲げる。今日はたくさん走る・・・。疲労が溜まって、すぐに息が上がる。腰を曲げて膝に手をつきながらも、顔は上げて、辺りを見回す。

ポケットから時計を取り出した。銀色の鎖がついた、銀色の時計。俺の(てのひら)にすっぽりと収まる大きさの、時計。・・・誕生プレゼントだといって、リューシャから貰ったものだ。

 時刻を見ると、もう日が変わっていた。もうすぐ陽が昇る。俺は、身近にあった町の壁に背を預け、ずるずると座り込んだ。眠らず走り続けた所為か、すぐに眠りに落ちてしまった。


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