□■第二十一話:どうして。あなたはそんなに優しくするの?■□
あたしは、眼を覚ました。ゆっくりと開け、この眼に映った景色は、太陽が完全に真上
に昇り切った、眩しい景色だった。
「起きた?」
ふと、かけられた声。声の主の方へ、あたしは視線を向けてみる。誰のものなのかは分か
っていたけれど。
その声の主は、あたしを見てどこか哀しそうな顔をしていた。心配してるのかな、と思
ったが、それだけではない哀しい表情。
「大丈夫?」
もう一声。あたしは小さく、うん、と頷いた。彼は「そっか」とだけ言い、それでもまだ、
あの表情は崩さないで。
「歩ける?」
短く問いかける。あたしもまた同じように頷いて、ゆっくり躯を起こした。
そういえばここ何日か、あたしがずっと眠ったままだったから、一歩も前に進んでいな
い。それよりもまず、あたしはこの男に甘えていてもいいのだろうか。
あたしと居れば、必ず何らかのことに巻き込まれる。それが何なのかは、あたしもわか
らないけれど。たとえ彼が姉さんの友人だとしても、巻き込みたくないのはあたしの本望。
これ以上誰も、あたし以外傷つけちゃいけない。でも彼は、それを踏まえて、あたしの傍
に居てくれると言った。あたしはどうすればいいのだろう。
何の会話もないまま、歩き続けること数十分。サリナ国城下町に到着した。
彼はすぐに列車の手続きをしに、駅へ行った。
「こっち。ちゃんと着いてこいよ」
釘刺すように、ちゃんとあたしに言葉をかける。あたしもそれに従う。
彼が係の者と話し終えると、そのまま後ろの方で待っていたあたしに近寄ってきた。
「三日後に、アムタワへ出発だってさ。宿取って、のんびり観光でもするか・・・」
頭を掻きながら、彼は言った。そして、ずっと彼の顔を見つめていたあたしの視線に気づ
いたのか、彼は微笑んだ。
「どっか、行きたいとことかある?」
かけられた急な言葉に、あたしは少し驚いたが、ふるふると横に頭を振ると、「そっか」とだけ言って、彼は歩き出した。