□■第十九話:ごめんなさい。違うの、本当は−−!■□
――よくも、よくも私をこの世界から消滅してくれたわね・・・!
姉さんが、あたしを指差して、憎らしげに叫んでいる・・・。
――その上、キースまで私から盗ろうっていうの!?
『違うよ! あたし、リュクールが消滅えるのを望んだわけじゃないの!』
あたしも負けずと叫ぶけど、それは姉さんには届いてないようで。
――怨んでやる、憎んでやる! 一生ね・・・!!
『いやっ! 違うの、姉さん!! だからあたしは・・・! このチカラなんて、本当は要らなかったの・・・!』
ミューシャが目覚めるまで暇な俺は、近くを散歩してこようと思った。だが、立ち上がった途端、凭れていた木の後ろからミューシャの小さな悲鳴が聴こえた。
「や・・・! あたし、ちが・・・っ」
俺は何事かと、すぐさま彼女の様子を見るため、木の裏側を覗いた。
「どうした!?」
しかし、頭の中が混乱しているのか、俺の方に眼を向けることなく、頭を抱えて俯いている。がたがたと震えていて、その震えを止めてやりたい、なんて思った俺は、彼女を胸の中でぎゅっと抱きしめた。びくっと反応はするものの、拒否さえ出来ないような様子。
「やだ、やだよ・・・! ね、さんが・・・あたし、違うのにっ」
うわ言のような、誰かに訴えているような・・・そんなことをずっと繰り返し言っていた。俺は、そんな彼女に「落ち着け」としか言えなかった。
「チカラ・・・いらないっ・・・! 消滅えないでぇ・・・。ほんとは、ちが、のぉ・・・」
彼女のぽつり、ぽつりと発する言葉に、何か違和感を感じる。“消滅えないで”とはどういうことだろう? 自分の意志で、リュクールを消滅したのではなかったのだろうか? わけがわからなくなってきた俺は、彼女を抱きしめながら、頭を撫でてやった。
「やだよぉ・・・。も、ひ、独りにしな、でぇ・・・! ひとりぼっちはも・・・やだよぅ・・・」
暫くすると、ミューシャは命綱か何かを掴むように、俺の服をぎゅっ・・・と握り締めてきた。おまけに号泣している。女の子が泣いている、ましてやこんな号泣するような場面に、今まで生きてきて一度も経験したことがない俺は、内心どうすればよいのか戸惑っていた。俺が黙ってこいつの言うことに耳を傾けていると、もう一つ、興味深い言葉が。
「消滅す、つもり・・・なかっ・・・」
“消滅すつもりなかった”? さっきの“消滅えないで”と一緒に考えると、本当にこいつが自分で望んでチカラを手に入れたのではない、ということを想像できる。・・・じゃあ何故? 何故、リュクールは消滅したんだ・・・!? クラーヌの正体や、ミューシャを仲間にしようとしている目的が気になる。謎だらけだ。




