□■第一話:そして、君に出逢った。■□
荒野に佇む少女・・・。
リィル暦、917年――。ある国のある都市が、一つ消滅た。
サリナ国、リュクールの都市。文字通り、消滅た。
地図に載っている場所、現地地上には、ぽっかりと穴が空いたように、綺麗さっぱり、あるものを除いて、何もない。
すでに、あっけらかんとなってしまったリュクールに、一人の人間が立っていた。見た感じ、15・6の少女。金色の長い髪を風に靡かせている、細い躯。真っ白のワンピースを着ていて、その何もない荒野では、とても目立った。
「君は・・・?」
彼女に近づいてみて、ふいに尋ねてしまった。リュクールより100mほど離れていた俺は、突如起こった都消滅から免れていた。
何もなくなった場所に、一人ぽつんと突っ立っているのだから、どうなったのか訊きたくなるのも仕方ないと自分で思う。
声をかけられた少女は、ゆっくりと俺の方を振り返った。蒼い、哀しげな瞳を、俺に向けた。涙ののっていないその哀しげな瞳に、俺は釘付けになった。
「リュクールの、住人・・・?」
彼女は、俺が質問したのにも関わらず、逆に訊いてきた。でも、俺はむっとしなかった。瞳に心を奪われてしまって、同情してしまうほどだ。
俺が暫くぼーっとして答えを出さないでいると、彼女は前を向き、ここから去ろうとしていた。俺ははっと我に返り、走って彼女を止めた。
「ま、待て!! ・・・君は、いったい・・・?」
彼女の右腕を掴んで、歩みを止めた。彼女はその細い躯を、もう一度俺の方に正面がくるよう、くるりと回転させた。そして、もう一度俺に同じことを訊いた。
「貴方は、リュクールの住人・・・?」
俺は迷わず首を横に振った。そして蒼い瞳を見つめ直した。・・・未だ、哀しそうだ・・・。
「違う。アムタワ国から来た、ただの旅人さ。・・・リュクールに用があって来たんだけど・・・。」
「そう、残念ね・・・。たった今・・・」
彼女は無表情で喋った。でも眼はそのまま。哀しいのを、必死に堪えているかのようだった。俺は、言葉の続きが気になった。
「たった今・・・何があった!? 周りが、急に光って・・・」
そう、あの瞬間、辺り一面が輝いた。すぐ100m先に都が見えて、俺は、無事に着いた、と心を撫で下ろしたときだった。辺りが急に光り輝いて、腕で眼を塞いで光を遮ったんだ。次に腕を下ろして、眼を開いたときには、ついさっき一秒前まではあった都が消滅て、この少女が一人ここに立っていた。
そして、今に至る。
「見たんでしょ・・・? 消滅たのよ、リュクールを・・・」
「けし・・・た? 君が・・・?」
「ええ」
「なんで・・・? 住人の、都の皆は・・・?」
俺は落ち着きを取り戻せなかった。動揺を隠せなかった。確かに、この眼で見た。都が消滅たのを。でも、本当に起こったと云われて、頭の中が混乱する。彼女が、掴んでいる俺の手にそっと触れ、そこに視線を落とした。
「都と一緒に消滅たわ」
「なぜ・・・? なぜそんなことをっ!?」
ついに俺は怒鳴ってしまった。女の子一人を相手に。さらに怒鳴ったとき、触れている彼女の手を振り払って、距離を置いてしまった。無意識に、彼女を睨みつける。
「何故って・・・。こんな、ろくでもない奴等の溜まり場なんて、消滅てしまってもいいからよ」
「そんなこと云うな! ここの人たちは・・・! リューシャは・・・!!」
俺の苦し紛れに吐いた言葉に、彼女はぴくりと躯をふるわせた。俺はそのことに気づいていたが、それを訊くほど心にゆとりがなかった。でも、すぐに分かった。
「そう・・・。貴方、姉さんの知り合いなのね・・・。ごめんなさい・・・」
彼女は俺と会って初めて、素直な言葉を出した。俯いてしまったが、すぐに顔を上げ、くるりときびすを返し、歩き出した。
「君は・・・!? リューシャの、妹なのか!?」
「そんな、長い名前じゃない」
一言云って、彼女は東の方角へ歩いて行った。俺は、脱力してその場に座り込んでしまった。そのまま、俺は彼女の小さい背中を見送った。