□■第十四話:〜回想〜突然襲った悲劇とは。■□
前話から今話にかけて、ミューシャの幼いときの話を展開しています。
普段、あの森に獣など居なかった。ましてや、あの寒い時期では冬眠しているだろう。今でも一番不思議に思っていること。それは、あの獣は、自分の国でも近隣国でも図鑑でも、見たことのない獣だったということだ。
あたしは獣を指差して顔を引きつらせた。
『あ・・・あ・・・』
と泣きそうになっているあたしを見て、パパとママはやっと背後を振り返り、ぐるるるる・・・と唸っている獣に気がついた。見た瞬間から、パパとママも顔を強張らせて、がたがたと震えていた。ママはあたしの手を取り、
『に、逃げましょう!』
とパパに言って一目散に走った。パパも走る。あたしも手を引かれて走る。
しかし獣も当然追ってきて、まずパパを襲った。
『あなたーっ!!』
ママがそれを見て叫んだけど、獣にのしかかれたパパは逃げられぬことを悟ったのか、
『逃げろ!』
とだけ最期に叫んだ。すぐに獣に頭を踏みつけられ、ぶしゅっと周りの木に赤黒い血が飛び散った。瞬間、眼を閉じてその場面を見ないようにした。そしてすぐまたママがあたしを連れて走り出す。
幼いあたしにはわからなかったが、迂回しながら山菜を採っていたのだろう、森の入り口まで来た。助かった・・・。そうあたしは思ったが、後ろから追ってきていた先程の獣が、今度はママに激突してきた。ママに覆い被さったおかげで、あたしもバランスを崩し、その場に転ぶ。獣は鋭い目であたしを睨んできた。
『ママ、ママ・・・!』
ママの手をぎゅっと握りしめ、声をかけるが、すでに返事はなかった。あたしは冷たくなってゆくママの体と、獣に恐怖して、すぐさま立ち上がり逃げ出した。目の前が入り口で、すぐに森から出ることが出来たので、獣はあたしを追っては来なかった。
必死に走って、都の出入口の門番に泣きながら訴えた。
『パパと・・・ひっく、ひっ・・・ママが・・・っ』
小さな都なので、都中顔見知り。なので門番はあたしを見てすぐに何があったのかと心配してくれた。
『どうした、何があった、ミューシャちゃん?』
大声で泣き出すあたしの頭を撫でて、落ち着かせようとしていたが、あの時のあたしには無駄だった。・・・あんなグロテスクな場面を見てしまったんだもの。
『もり・・・で、おっきな、・・・ぅ、どーぶつさんがぁ・・・!』
そこまで言って、二人の門番は行動に移してくれた。一人は門の中の警備本部へ、あたしを連れて行き、援軍を無線で呼んだ後、そこに居た女の警備兵にあたしを預けた。その後多分戻ってさっきの門番と一緒に森へ行ったのだろう。女の警備兵は、パパとママの返り血で赤く染まっていたあたしを見て、びっくりしていた。すぐに姉さんの学校へ電話した。
先に着いたのは姉さんだった。息を切らせて、持ってった鞄も何も手ぶらで、必死に走ってきた様子だった。




