□■第十三話:〜回想〜楽しかったあの頃は。■□
ミューシャの回想です。
小さい頃に戻ります。
あれはあたしが六歳の時のこと。姉さんは十歳で、まだパパとママが生きていた頃。家族みんな仲良しで、姉さんもあたしを可愛がってくれた。でも、ある日突然事件は起きた。
その日は、雪降る季節の終わりがけで、暖かい時期から蓄えていた野菜が底を尽きかけてしまっていた。姉さんは学校があったので、仕事が休みだったパパとママとあたしの三人で、近くの森までその時期でも採れる山菜を摘みに行った。
お弁当を四人分作って、鞄に必要なものを詰めて、ママは姉さんに家の鍵を渡して。そして四人一緒に家を出た。出るときも、ママは姉さんに
『気をつけてね。もし早く帰っても、鍵はちゃんと閉めておくのよ』
って髪を梳きながら笑顔で言ってた。パパも
『知らない人についてっちゃ駄目だぞ』
って。姉さんは
『大丈夫よ、心配性なんだから』
ってパパの冗談めいた心配を笑顔で返してた。最後にあたしに
『ミューシャ、いい子でね。森は危ないから、気をつけるんだよ』
って頭を撫でながら言ってくれた。
今思えば、あたしに向けてくれた姉さんの笑顔は、あの日が最後だった。
互いに手を振りながら、あたしたちは都の門、出入口へ。姉さんは学校の方面へ。後ろを幾度となく振り返りながら、姉さんに手を振った。・・・姉さんも手を振ってくれた。
都を出ると、すぐ左側に森がある。都を出てそんなに時間が経たないところで、森へ着いた。
森の入り口でパパは鞄の中から、採った山菜を入れる袋を出した。ママとあたしはそれを見ていた。準備が出来ると、三人で中へ踏み込んでいった。つい先日雪が降ったせいで土はぬかるんでいたけれど、山菜取りには影響しない程度だった。
どんどん奥へ進んでいくと、寒い時期でも生えるキノコや菜っ葉を見つけることが出来た。それを小さいものは残し、ちょうどいいくらいにまで育ったものをパパの袋に入れていく。
『パパ、重い?』
とあたしが訊くと、
『いや、まだミューシャの方が重いな』
と笑顔で答えてくれた。まだこの時、あたしたちには何が起こるかわからなかった。・・・まだ、幸せだった。
突然、あたしたち三人の物音ではない、ガサッという音が背後で聞こえた。
『あれ、今のママか?』
と、パパがママに物音の犯人を尋ねる。ママは、違う、と首を横に振っていた。
−−そして、あたしは見てしまった。大きな大きな、獣を。