第6話 神秘的と反対語
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「なんでやねん?楽しくやってたやんか。なんでお母さん、時間減らそうとするん?」
「理由は……勉強をしっかりしなさいってことらしい。公演には参加させてもらえるみたいだけど、実際は、私がいわゆる“下級”の生徒たちと関わるのを嫌がってるんだと思う。」キリカは肩をすくめ、ドラムセットを軽く叩いた。
「だから、もし私の時間がこんなに減ったことを受け入れられへんちゅうなら、FAを辞めてもええで。」
その言葉に、部屋の空気が一瞬で変わった。
カガミはギターを置いた。「そんなん嫌や。引き返せへん。」
「キリカ、そんなこと言うなよ。」
「別に。最初から約束してたことやし。時間が減るなら、オマエらに迷惑かけるだけや。」
「迷惑やなんて思ったこと一回もないで。」
カガミの声が低くなった。普段あんなに騒がしいやつが、こんな真面目な顔するんやな。ハナルはそう思いながら、自分の言葉を探していた。
「それに、オレが決めたことや。オマエらに気を使う必要は——」
「キリカさん。」
ハナルが口を開いた。声は小さかったけど、はっきりしてた。
「わ、私たちは、キリカさんがいてくれるから、ここまでこれたんです。それは、時間が長いとか短いとか、そ、そういう問題じゃなくて……」
言葉が途中で詰まった。ハナルは一度深呼吸して、続けた。
「キリカさんが、私たちの仲間だから、です。」
キリカは何も言わなかった。ただ、床を見つめたままだった。
セイナが静かに言った。「私も同じ意見だよ。キリカがいなければ、今のFAはない。」
「……お前ら、甘いんちゃう。」
「甘くてええやん。」カガミが笑った。「それがオレたちやねんから。」
キリカはしばらく黙っていた。誰も言葉を発さなかった。ドラムのスティックが床に置かれたまま、動かない。
「……わかった。」
その声は、いつものツンツンした感じじゃなかった。
「約束、破らんでな。」
カガミは大きくうなずいた。ハナルはほっとして、小さく息をついた。セイナは何も言わなかったけど、口元が少し緩んでいた。
翌日、松園。練習室の中。
ハナルは発声練習をしていた。声が壁に当たって返ってくるのを確かめながら、何度も繰り返す。
カガミがドアを開けた。後ろに、見慣れない女の子が立ってた。ハナルより少し背が低い。バッグを斜めにかけて、部屋の中をぐるっと見回してる。
「ハナルちゃん!こいつ、オレが軽音部で知り合ったベースの川島有希や!」
「あ……こ、こんにちは。園部花露です……よ、よろしくお願いします……」
有希は「うん」と言って、それだけだった。部屋に入って、壁際に置いてあるアンプを眺めたり、窓の外を見たりしてる。別にわざと無視してるわけじゃなくて、ただ、そういうやつなんだろうなって感じだった。
「ここが、お前らの練習場所?」
「そうやで!オレたちみんなで一緒に掃除して片付けたんや。見て見て、けっこうきれいになったやろ?だからさ、ユキちゃん、うちのバンドに入らへん?」
「……」
有希はもう一回部屋の中を見渡した。それから、小さくうなずいた。
「いいよ。」
ハナルは少し気になった。何か変だな、と。でもカガミが連れてきたやつだし、悪い人じゃないやろ。そう思って、三人で練習を始めた。
有希のベースは上手かった。ちゃんとやってる感があった。ハナルには細かいことはわからんけど、今まで一緒にやってきた人たちとは、なんか違う感じがした。
「よし、これで次のライブに向けて準備するで。五人なら、新しい機材もそろえられるし、きっと浦和会長も認めてくれるはずや!そしたら、ここがオレたちの場所になるんや!」
カガミは楽しそうに話してた。手を動かしながら、目をキラキラさせて。
「アカウントあるの?」
有希が突然聞いた。
「もちろんあるで!でもファンはまだそんなにおらんねん。一回ライブやっただけで、フォロワー40人くらいしかおらんかったし……でもこれからや!」
「……ふうん。」
有希はそれだけ言って、またスマホを触り始めた。何考えてるかわかんない顔だった。
ハナルはなんとなく、有希の方を見た。有希はそれに気づいて、「別に。ちょっと気になっただけ」と言った。
その日のリハーサルは、思ってたよりもうまくいった。有希のベースが入ると、音に厚みが出た。キリカもセイナも、特に何も言わなかったけど、空気がよくなったのはわかった。
キリカの時間が減ったから、夜の19時半には帰らなきゃいけない。片付けながら、カガミが急に声をあげた。
「そうや!みんな、ネットで活動したらどうやと思う?」
「ネット?」
「そうや!インターネットでオレたちの曲を宣伝すれば、ファンも増えるはずやし!」
セイナが顔を上げた。「具体的にどうするの?」
「まずはコードネームを付けよう!」
「……コードネーム?」
キリカが嫌そうな顔をした。「そんな子供っぽいの、本気で言ってるの?」
「これはあんたのためなんやで!ツンデレお嬢様!」
「私?何でそうなるの?」
「考えてみ?アカウントでコードネーム使ったら、めっちゃクールやし、自分の名前も守れるやん?もし家族とかに見つかったら、もうロック続けられへんかもしれへんで?」
カガミは自分の髪を指さした。「オレからな。オレのコードネームは“スパークル”!ハナルちゃんは?」
「え?あ、あたし?」
「そう!めっちゃクールなやつ考えて!」
ハナルはしばらく考えたけど、何も浮かばなかった。顔を赤くして、困ったように笑った。
「あ、あたしには無理です……カガミさん、つけてください。」
「ええよ。任せとき。」
カガミは少し考えて、パッと顔を上げた。
「ハナルちゃんが歌うとき、いつも周りに安心感が漂うんよ。普段のハナルちゃんとは全然違う。だから“アウラ”はどうや?オレたちにオーラをくれるVo.って意味でな!」
ハナルは何度もうなずいた。珍しく、嬉しそうだった。
「私のは……“セルリー”でいい。昔飼ってた犬の名前。」
「ええやん!じゃあ、キリカちゃんは?」
「誰があんな子供っぽい遊びに付き合うもんか。絶対やらへん。」
「そっか~じゃあキリカちゃんのこと、守ってあげへんからね~」
「あんたなあ……」
キリカはドラムスティックを手に取ったけど、結局振り下ろさなかった。
「……コーラでいいわ。コーラ好きやし。」
「よっしゃ!ツンデレお嬢様!」
「うるさい。」
キリカはそう言って、そそくさと帰り支度を始めた。ドアのところで立ち止まって、振り返らずに言った。
「金、忘れんなよ。バカども。」
その背中が見えなくなってから、カガミは有希の方に向いた。
「ユキちゃんは?どんなのがいい?」
「別に。ユキでいい。」
有希はスマホをしまいながら言った。特にこだわりがあるわけでもなさそうだった。
「そっか。わかった!」
カガミはそれ以上は聞かなかった。
カガミは早速、Xで宣伝を始めた。練習の合間に撮った写真や、短い動画をアップしてる。フォロワーは100人くらい増えた。まだまだ少ないけど、反応がないわけじゃなかった。
コメントも少しずつつくようになった。応援してくれる人、からかう人、様々だった。
メンバー募集の告知も出した。キーボーディスト、それ以外にも「ロックに使える楽器」やってる人、誰でもいいから連絡ください、みたいな内容だった。宣伝動画はシンプルなやつで、五人で順番に自己紹介して、最後に「Escape From My Heart」のサビをちょっとだけ演奏した。特別に派手なものじゃなかったけど、なぜかそれがよかったのかもしれない。
雨が降っていた。それほど強くはなかった。
黒い傘をさした女の子が、道端で立ち止まった。
大阪の街は賑やかだった。カップルが寄り添い合い、傘を共有している。街角ではバンドが演奏していて、通行人が立ち止まって聴いている。
女の子は前歯で唇を噛んだ。そんな光景を見るたびに、胸の奥がぎゅっとなる。自分には関係のないものだと思いたかった。
でも、今日は違った。
ちょうどパフォーマンスを終えたバンドが、歩き始めたところだった。五人の女の子たちが肩を並べて歩いていて、時々振り返って話をしたり、誰かが転びそうになって笑い合ったりしていた。
女の子は知らないうちに、その五人のことを目で追っていた。彼女たちは楽しそうだった。無理して笑っているわけじゃなくて、自然に笑っていた。
(なんで、あんなに楽しそうなの。)
彼女は自分に問いかけた。答えは出なかった。でも、その五人の姿が、なんだかずっと目に残っていた。
彼女はしばらくそこに立っていた。雨の音だけが、静かに街に響いていた。
(From Dandy:
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