第3話 MOCAのKIRIKA
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「貼り終わった、行こう、次の店へ」と言いながら、カガミは汗を拭いた。
浦和会長の試練に応じるため、二人はメンバー募集から始め、そのうちにストリートライブをしてチップを稼ぐことにもなった。
幸い、浦和は外部のメンバーでもバンドメンバーとして認めると言ってくれた。そこでカガミとハナルは大阪中のカラオケやライブハウスを回って、募集のチラシを貼って回った。
「よし、次は次のライブハウス行こう!」カガミは伸びをして、やる気に満ち溢れていた。後ろにいるハナルも嬉しそうにうなずく。ハナルはもう迷っていなかった。このバンドが大好きだった。
その時、カガミのスマホが鳴った。
「あ、オレのパパや。ちょっと待ってな、ハナルちゃん」カガミが出る。「どうしたん、パパ。なんかあったん?」
「まだ外におるんか?」
「そうや、まだ募集のチラシ貼ってるわ。」
「お前が出かけるときに言い忘れたんやけど、父ちゃんが若い頃によく行ってたライブハウス、今でも結構人が来とるんや。そこに貼ったら、もっと目に留まるかもしれへんで。」
「ええな、どこそれ?」
「心斎橋の下の細い路地にある、ARTO MOCAってとこや。行ったらすぐわかるで。」
「わかった、すぐ行くわ。ありがとな、パパ。」
「それからな、父ちゃんまだ会員カード持ってるから、行ったらオレの電話番号を伝えて、友達と遊ばしてもらいや。」
心斎橋、THE LIVE HOUSE 「ARTO MOCA」。
「お邪魔します……」二人の女の子がドアを開けて入っていった。バーカウンターに座っていた店長は、とてもおしゃれな女性だった。
「こんばんは、お客さん。遊びに来たん?」
「あ、はい。これ、オレたちの会員カード番号なんですけど……」
女性は手際よく、カガミが言った電話番号をキーボードに入力した。
「ちょっと待ってな……この会員番号、岩橋さんとこですか?」
「はい、オレの父ちゃんです。」
「あらまあ、常連さんのお嬢さんやったんや。お父さん、若い頃ここでよう遊びに来てたんですよ。好きな部屋選んで、ゆっくりしていってな。」
2F、BOX B21。
ハナルは個室のソファに座っていた。午後中ずっと歩き回って、一度も中に入ることなく外でチラシを貼り続けていたので、とても疲れていた。
「このギター、めっちゃええわ。音聞いてみ?内装はちょっと古いけど、結構いい感じやで。」カガミはその精巧なギターをいじくり回していた。
「ドラマーが入ったらストリートライブ始めて、稼ぎながら新しいメンバーも募集できるよな。」二人はそう考えて、募集チラシにも「ドラマー急募」と大きく書いた。
花露は人前で歌うのはまだ恥ずかしかったので、鏡と一緒に出口の掲示板やフロントの壁に募集チラシを貼った。
店長さんはバーカウンターに座って、彼女がカラフルな募集チラシを壁に貼っていくのを見ていた。そして言った。
「ドラマー急募?岩橋さんもお父さんと同じでバンド組んどるん?」
「あ、もちろんですよ!オレのバンドにはめっちゃ上手いドラマーが必要なんです!!」
「やってみたかったら、一階のステージ近くの廊下にいっぱいあるで。スカウトしてみたら?」
それを聞いて、カガミは飛び上がらんばかりに喜んだ。彼女は二階に駆け上がり、ハナルを呼んで、店長さんの教えの通りに一階の廊下へ向かった。そこにはたくさんの人たちの自己紹介が貼られていた。
「トップクラスのドラマー、時給3000円……無理や、高すぎる……」
「け、経験豊富なトップクラス、時給2400円……」
「マジでバンド組みたい人、あんまおらんみたいやし、ドラマーなんてもっとおらんな……ほとんど金目当てやし、しかもめっちゃ高額や……」カガミはしょんぼりしていた。
その時、奥の個室のドアが開き、彼らより少し背が高く、白いツインテールの女の子が出てきた。とてもおしゃれな感じだった。
「寒川ちゃん、もう帰るん?」
「うん。今日は練習終わった。」
「そっか。気をつけてな。」
その寒川と呼ばれた女の子は急いでいる様子もなく、ゆっくりとバーカウンター横の求人広告でいっぱいの壁の前に立ち、それを見始めた。
「今日、ドラマーを募集してるバンドの貼り紙ってあります?」女の子の話し方はゆっくりしていた。
「あ、そういえば一つあったなあ。あのお嬢さんたち、まだ店におるよ。」
店長が立ち上がって、「岩橋さん?」と呼んだ。
「はい?なんですか?」
「さっき、めっちゃ上手いドラマーのお嬢さんが、あんたたちの募集に興味持ってくれてるみたいやで。早く寒川ちゃんのとこ行ってみい。」
カガミはすぐに元気を取り戻し、ハナルを引っ張って走り出した。
二人がバーカウンターにいた女の子を見ると、おしゃれという言葉以外に表現のしようがなかった。
「あ、あなたが、さ、寒川さんですか?」ハナルはどもりながら尋ねた。
「うん。そうですけど。ドラマー募集してるの?」
「はい!オレたち、フォルティシモ・アリーナって言うんです!」
「今、何人?」
「えっと……まだ始めたばかりなんで、今は二人だけです。でもそれもすぐにメンバー見つけますんで!」
「学生?」
「は、はい……」
「……」
寒川は黙った。じっと二人を見つめながら、少し考え込んでいるようだった。二人にはもうダメかと思われた。
「……まあ、やる気はあるみたいやね。じゃあ、特別に安くしとくわ。こうしようか、一日4000円で。」
「一日!?もうちょっと安くならへんかな……」
「これがギリギリや。前に頼まれたとこ、どこも1時間3000円やったしな。それ考えたら、かなり勉強してる方やで。」
カガミとハナルは何と言っていいかわからなかった。
「安心して。今日はサービスで見せてもらうわ。行こ、もうちょっと広い部屋行こう。」
三人は最初にいた二階のあの個室に戻った。
「じゃあ、自己紹介させてな。私、寒川桐香。百合泉の二年生。よろしく。」
「あ、はい!岩橋鏡です!こっちは園部花露。二人とも松園の一年生で、よろしくお願いします!キリカちゃん!」
桐香はその目でじっと二人を見つめた。
「あんたたち、思いつきでバンド始めるタイプには見えへんから、チャンスあげてるんや。でも、もしホンマに思いつきなら、早めに金払ってもらうからな。」
「もちろんや!キリカ、心配せんで!」
桐香は二人を見て、ふと笑った。
「とりあえず、あんたたちの歌、聴かせてみ。」
鏡と花露は一瞬見つめ合って、あの曲「Verge」を始めた。
「旅立つ時」
「一人、世界の中に」
「どこからだ」
……
ドン、ドンドン、ドン、ドンドンドン。
軽快なドラムのリズムが、二人が数節歌い終わらないうちに被さってきた。そのドラムのリズムは軽やかに、巧みに絡みつき、歌全体をぐっと引き締めた。
「悲しみなのだ」
「消し去らせないの」
「空虚……」
「寂しいの日常」
「あの、暗いの未来を」
「人生の縁でつかみたいの」
「でも、でも、でも」
「何も知らぬまま——」
サビに入ろうとした瞬間、それまで軽快だったドラムのリズムが、シンバルとバスドラムの一撃で勢いよく突き破った。長い間溜めていた怒りが一瞬で爆発したかのようで、聞く者の胸を打った。
「つまらないの」
「苦痛を作るの」
「全然捨てられないの——」
「彷徨い果てずよ」
「また『頑張れ』 ほら」
「明日、何も変わらずよ」
コーラスが終わり、桐香はドラムスティックを置いた。
「歌、めっちゃ上手いやん、あんた……ハナルやっけ。」
「ギターはちょっとミスあったから、帰ってもう一回練習しとき。」
そう言って桐香は立ち上がり、腰に手を当てた。
「わかった!キリカちゃん、これからどないしたらええん?」
桐香はまだそこに立ったまま、目を細め、顎を少し上げて、二人の女の子をじっと見つめていた。何も言わない。
ハナルは桐香が何を求めているのか、なんとなくわかった。
「き、桐香さんもすごいです!ド、ドラムの合わせ方、完璧でした!」
桐香は満足そうにうなずいた。
「そうそう、それそれ。こっちが褒めたら、あんたらも褒めなあかんで?」
三人は笑い合った。
「とりあえず、あんたらが思いつきじゃないって証明してくれな、ホンマに参加することはできへんわ。それまでは、一日4000円、払う約束してな。こっちは特別に、自分のギャラの半分以上も諦めてんねんで。がっかりさせんといてよ。」
言い終わると、桐香は去っていった。
桐香の姿が見えなくなった瞬間、カガミは小さくガッツポーズをした。
「よっしゃあ!ハナルちゃん、聞いたか!ドラマー、見つかったで!」
「う、うん……」ハナルも思わず笑顔になった。まだ実感が湧かないようで、少しぼんやりしていたが、その目は確かに喜んでいた。
「でも、一日4000円か……頑張って稼がなあかんな!」カガミはすでに次の課題に向けて頭を回し始めていた。
「そ、そうやな……」ハナルはうなずきながら、ふと桐香の最後の言葉を思い出した。『がっかりさせんといてよ』——あの口調には、どこか期待も込められているように感じた。
その夜、ハナルは布団の中で今日のことを思い返していた。桐香のドラム、あの軽やかでありながら力強い音。そして、自分たちの歌に合わせてくれた瞬間。
「もっと上手くなりたい……」
ハナルは初めて、そう強く思った。
(from Dandy:
I'm really grateful to those who've read and liked my work.
I hope you guys enjoy my work and love the characters.
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