表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

第18話 沈黙で爆発するよ

「何だって?あの小さな女の子が家から逃げ出すって?どうしてだよ、理由もなく?」マサルは娘の言葉を聞いて、少し理解できなかった。

「どうして理由もなく?家族は彼女にとても暴力的で、お金を稼ぐための道具として使おうとしている!」

「まさか?あの金持ちの家でもそんなことがあるの?」

「パパ、彼らがキリカに何をしたか知らないでしょう。キリカさんも我慢の限界に達しただけ……気持ちは分かるよ。」

「わかった。全力でサポート。何が必要か?」

「車で送ってもらうのはちょっと面倒かも。できるよね、パパ?」

「もちろんだ、父はただ者じゃない。」

その夜、それぞれの家で、別々の会話が繰り広げられていた。

百合泉。セイナの家。

リビングのソファに、セイナは背筋を伸ばして座っていた。向かいには父親が新聞を広げ、母親はテーブルの向こう側で花を生けている。

「……それで、今夜はお友達の家にお泊まりしたいんですけど。」セイナはなるべく冷静な声で言った。

「どこのお友達?」父親は新聞から顔も上げずに聞いた。

「学校の友達です。クラスの……女子の家に伺います。」

「クラスの?名前は?」母親が手を止めた。

「……お伝えしても、ご存じないと思いますので。ただのクラスメイトです。」

セイナはうつむいた。自分が嘘をついていることが、ひどく居心地悪かった。でも——キリカのことを考えると、それどころではなかった。

「……勉強だけ?」父親がようやく顔を上げた。

「はい。期末が近いので。」

「まあ、たまにはいいでしょう。ずっと家に閉じこもっていてはストレスがたまる一方だし。」母親が意外にも賛成した。

しかし父親は黙ったままだった。セイナの心臓がドキドキと鳴る。

「……何時に帰ってくるんだ?」

「明日の午前中には。」

「……わかった。行ってこい。ただし——」

「はい。」

「他のことはするなよ。わかってるな?」

セイナはこくんとうなずいた。父親の言葉には、何かを察しているようなニュアンスがあった。でも、それ以上は追及しなかった。

松園。ハナルの家。

「ただいま。」

ハナルが玄関を開けると、リビングから母親の声がした。「おかえり。ご飯は?」

「あ、あの……お母さん、ちょっと話があるんやけど。」

母親がキッチンから顔を出した。父親はソファでテレビを見ている。弟の菅太は自分の部屋から顔だけ出してこっちを見ていた。

「どしたん?そんな改まって。」

「き、今日……友達の家にお泊まりに行ってもいいかな?」

「え?どこ?」母親は意外そうな顔をした。

「か、カガミの家。バ、バンドの……メンバーなんやけど。」

「ああ、あの元気そうな子?」母親の顔がほころんだ。「前に学校で会ったことあるわ。すごくしっかりしてる子やった。」

「う、うん。それで……今夜、その……色々あって。」

父親がテレビを消した。「何かあったのか?」

ハナルは少し迷ったが、思い切って言った。「バ、バンドのドラムの子が、家を出ることになって……か、カガミの家に匿うことになったんや。オ、オレたちも手伝わなあかんくて。」

「家を出る?」母親の顔が曇った。「どういうこと?」

「……家でひどいことをされてるらしい。け、警察沙汰になるようなことやなくても、もう限界やと。」

父親は黙ってハナルを見ていた。そして、ゆっくりと言った。

「……その子を助けるために、お前たちは動いてるのか?」

「う、うん。」

「わかった。行ってこい。」

「え?」

「困ってる人がいるなら、助けるのが当たり前だ。お前にはそういう風に育ってほしいと思ってたからな。」

母親も微笑んだ。「気をつけて行ってらっしゃい。何かあったら連絡しなさい。」

「お姉ちゃん、頑張れよ。」菅太が階段の途中で言った。「もし何かあったら、オレも力になるから。」

ハナルは胸が熱くなった。「……ありがとう。みんな、ありがとう。」

彼女は軽く頭を下げて、玄関を飛び出した。その背中を見送りながら、菅太はスマホを取り出して何かを調べ始めた。もし姉たちがトラブルに巻き込まれたら、自分が動く番だ。

ひばりヶ丘。深夜十時五十分。

三つの人影が、街灯の少ない道を歩いていた。セイナ、カガミ、ハナル——三人とも真剣な表情で、声を潜めている。

「無線機、繋がるか?」カガミが小声で聞いた。

セイナがポケットから取り出して、ボタンを押す。

「キリカさん、聞こえますか?」

——少しの間の後、ノイズ混じりの声が返ってきた。

『……うん。今、廊下は静か。多分、みんな寝た。』

「わかりました。予定通り、十一時に。」

『……気をつけて。』

三人は屋敷の裏手に回った。高い壁の向こうに、ぽつんと灯りがついている窓が見える。二階の角——キリカの部屋だ。

「どうやって登るんや?」カガミが壁を見上げる。

その時、物陰からマサルが現れた。カガミがこっそり呼び出していたのだ。

「パパ!ここや!」

マサルは黙って壁の下にしゃがみ、自分の肩をポンと叩いた。「オレの肩、使え。」

カガミは遠慮なくマサルの肩に足をかけた。セイナとハナルが支える。

「もう少しで——」

その時、二階の窓がそっと開いた。キリカの顔が見える。『早く!』

カガミは窓枠に手をかけ、よじ登ろうとした——しかし、その瞬間、屋敷の中から足音が聞こえた。

キリカの顔が強張った。『……誰か来る。』

足音はゆっくりと、廊下を進んでいる。執事か、それとも——全員が息を殺した。

『……物音に気づいたのかもしれへん。』

キリカが小声で言う。カガミは窓枠にぶら下がったまま、動けなかった。

足音が近づく。止まった。ドアの前だ。

『……誰もいないな。気のせいか。』

執事の呟きが聞こえ、足音が遠ざかっていった。

キリカが小さく息を吐いた。『……今!』

カガミが一気によじ登り、窓の中に転がり込んだ。すぐにキリカが顔を出し、次にハナルを手招きする。ハナルは震える足でマサルの肩を踏みしめ、必死に手を伸ばした。キリカがその手首を掴む——引っ張り上げた。

「……セイナ、来い!」

セイナは一番冷静に、一番素早く登り切った。三人が窓の中に入った瞬間、キリカがリュックを背負い、窓の外を見下ろした。

「どうやって降りる?」カガミが聞いた。

「飛び降りるしかない。」キリカは覚悟を決めたように言った。

「バカ!危ないやろ!」

「オレが受け止める。」マサルが下から声をかけた。「おい、キリカちゃん、飛び込め!」

キリカは深呼吸を一つして、窓枠に足をかけた。そして——飛び込んだ。

マサルの腕が彼女を受け止めたが、勢い余って二人とも地面に倒れ込んだ。「いてて……」

「キリカちゃん!大丈夫か!」

「……うん。大丈夫。」

キリカは立ち上がり、自分の手足を確認した。擦り傷はあるが、骨は大丈夫そうだ。

「早く!」セイナが窓から顔を出して叫んだ。彼女とハナルも順番に飛び降りた。最後にカガミが窓枠を閉め——鍵はかけられなかったが、明日まで気づかれなければいい。

五人は無言で走った。屋敷の明かりが遠ざかるまで、ひたすら走った。

マサルの車が道端に停めてあった。全員が飛び乗り、エンジンが轟いた。

「シートベルト!」マサルが叫び、車は猛スピードで走り出した。

後ろを見ると、屋敷の灯りがどんどん小さくなっていく。誰も言葉を発しなかった。ただ、無事に逃げ切れたことへの安堵と、まだ残る緊張が車内を包んでいた。

車内の緊張を和らげるために、カガミはこっそりとピストルのポーズを取り、キリカに向けた。

「何をするつもりだ?」

「本当に大阪の人間なのか、ちょっと協力してくれよ。」

「誰がこんな子供っぽいゲームをするのよ!」

車内の温度が徐々に上がり、みんなも笑顔になった。多分、これがFAの存在意義なんだろう。

カガミの家。午前零時過ぎ。

玄関のドアを開けると、カガミの母がまだ起きていた。

「おかえり。無事か?」

「うん。母さん、ありがとう。」

カガミが振り返ってキリカを見た。「ここ、キリカちゃん。」

キリカは小さくお辞儀をした。「……迷惑かけます。」

「とんでもない。ゆっくり休み。部屋はもう準備してあるで。」

カガミの母はそう言って、キッチンへ向かった。温かいココアでも作るつもりだろう。

四人がカガミの部屋に入ると——ベッドの上に、アコが座っていた。まだ少し顔色は悪いけど、目はしっかりと開いている。

「……キリカさん。」

アコの声は掠れていた。

「アコ……」キリカは何て言っていいかわからなかった。

空気が一瞬で固まった。アコの目がキリカから外れて、床を見つめる。指がわずかに震えている——あの時のことを思い出しているのか。両親の前で自分の過去を暴かれたことを。

「あ、あの……アコさん、キリカさんが無事に帰ってきたよ。」ハナルが優しく言った。

「……うん。」

アコはそれだけ言って、何も続けなかった。

セイナがカガミと目配せした。四人は廊下に出た。

「……アコさん、まだあの時のこと、話せへんのかな。」カガミが小声で言った。

「無理もない。あんな形で自分の過去を暴露されたんだから。」セイナが答えた。

キリカは壁にもたれて、天井を見上げていた。

「……うちの親のせいや。」

「キリカさん——」

「事実や。」

キリカの声は静かだった。でも、その中に怒りと悲しみが混ざっているのがわかった。

「……キリカちゃん、もう戻る気、あるん?」カガミが思い切って聞いた。

キリカは顔を向けて、はっきりと言った。

「戻らん。あの家には、二度と。」

「でも、あんたはまだ十七——」

「十七でも、もう立派に自分で決められる。それに——」

キリカは自分のリュックを軽く叩いた。

「必要なもんは全部持ってきた。戻る必要なんてあらへん。」

カガミはうなずいた。「わかった。なら、ここにいればええ。ウチの親も承諾済みやし。」

「……ありがとう。」

その言葉は、キリカの口から出た。珍しく、素直な声だった。

セイナが時計を見た。午前一時。

「もう遅いし、今日は休もう。アコさんのこともあるし。」

「そうやな。」カガミがうなずいた。

四人が部屋に戻ると、アコはまだベッドに座ったままだった。ハナルがそっと近づいて、隣に座った。

「あ、アコさん、もう遅いから……休もっか?」

アコはうなずいた。でも、目はまだ開いていた。

顔を見合わせ、突然笑い出した。

「愛してるよ。チームメイトたち。」


(From Dandy:

Love you guys!Don't forget to leave a bookmark and comment!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ