第17話 もし沈黙で死ぬことはない
四人がカガミ家で休息を取り、アコが回復する間、キリカはそのスポーツカーの後部座席に座って黙っていた。左側にはボディーガードが、右側には母親がおり、二人がキリカを監視して、逃げ出そうとする動きを防いでいた。
そして父は向かい側に座り、怒りに満ちた目でキリカを見つめていた。
「そんなに多くの人の前で寒川家の恥をかかせるなんて、どうしてこんな反逆的な子を産んでしまったんだ!」
「反逆?何をしたか見てみろよ。最初に私を人形のように扱ったのはあなたたちだ。」
「話しかける際の言葉遣いに気をつけるよう警告する!口を慎め!ガキ!」
「嫌だ!」
「この小僧と何を言い争ってるんだ!さっさと叩け!」キリカの母が怒って、父に直接言った。
キリカの父も、娘のこのような行動にとっくに怒っていた。彼らはキリカが素直に自分たちが望むような人間になると思っていたが、まさかこんなに反抗的になるとは思わなかった。
「好きにしていいよ、怖くないから。」
「ドン!」という音と共に、キリカの言葉が終わる前に、すでにキリカの肩に衝撃が走った。
父からの一撃が、キリカの肩に強く当たった。
「くそっ……!痛い……」
キリカは自分の右肩を押さえていて、骨が折れそうなほどの痛みを感じていた。
その直後、彼女が反応する間もなく、頬に平手打ちを食らった。ハナルが受けた一撃ほど激しくはなかったが、それでもキリカを少し混乱させるのに十分だった。
日常茶飯事や。
もう慣れっこや。
むしろ、殴られへん方がおかしい言える。彼らには娘は必要ない、ただの都合の良い道具が欲しいだけだ。彼らの目には、キリカも自分たちの次の世代の後継者ではない。彼らはまた新しい子供を産むだろうし、この反抗的な少女は他の家族と交流する道具として扱われるだけだ。
子供の頃、キリカが言うことを聞かないとか、いわゆる「下級」と話すと、いつも叩かれていた。ただし、それは両親が執事に命令を下すだけだった。
「どうだ?わかったか?この小僧、もしまたこんなことをしたら、今日のように平手打ちで済ませてやるつもりはないぞ!」
「……やればええ。気にせえへんで。」
「まだ口答えするのか!」母は怒り、キリカの耳をつかんで時計回りにひねった。まるでキリカの耳を引きちぎりそうなほどだった。一回転させたが、キリカは泣かず、叫ばず、懇願もしなかった。ただ痛みに耐えているだけだった。
「どうしてこんなクズを産んでしまったのか!あの人たちの前であなたのためにそんなに弁護してあげたのに!少しは恥を知ると思っていたのに、あんな下層民を排除するのを手伝ってあげたのに、まだこんなに無情なんて!」
そんな風に、両親に途中で叱られながら、家に帰った。それは見た目に高貴な別荘で、3階建てだったが、キリカは2階の部屋に閉じ込められており、もう慣れっこだった。父親は相続人ではあるが、当主ではないため、祖父によって寒川家の主要な住居には住むことを禁じられていた。そこは主に祖父母が住んでいる場所だった。
キリカはほとんど強制的に連れて行かれた。そのボディーガードは彼女の後ろを歩き、彼女の一挙手一投足を常に監視していた。一方、両親は威張って胸を張りながら、キリカを一階のリビングルームに連れて行き、執事を呼んだ。
「身につけている通信機器を全部取り上げろ!外出禁止だ!部屋から一歩も出してはならない!毎日二食の食事を運んでこい!」
「はい。」
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カガミの家で、アコがベッドに横たわってから数時間が経った。ハナルはアコの隣に座り、時折彼女の額に手を当ててみるが、熱はない。ただ、目は開いたまま、天井の一点を見つめている。何度呼びかけても返事はなかった。
カガミはスマホを握りしめて、唇を噛んだ。「ダメだ……キリカちゃん、全然返事せえへん。」
セイナは窓の外を見ていた。もう夕暮れだ。
「ここで待っていても仕方ありません。私たちが探しに行きましょう。」
「でも、どこに探しに行くん?あの二人が連れて帰った場所なんて、わからへんやろ?」
セイナは少し考えて、言った。「前にキリカさんが『実家は緑地公園の近く』とおっしゃっていたのを覚えています。まずはそこへ行ってみましょう。」
三人はカガミの父、マサルに事情を話し、アコの様子を見ていてほしいと頼んだ。マサルは真剣な顔でうなずいた。「気をつけて行け。こっちは任せろ。」
その間、カガミの母は台所から出てきて、アコの手を握りながら、優しく語りかけた。「お嬢ちゃん、ここは安全な場所やで。誰も傷つけへん。ゆっくりでええから、自分の心の声を聞いてみ……」彼女はゆっくりと、まるで子守唄を歌うような口調で、アコのまぶたが微かに震えるのを待った。
カガミ、ハナル、セイナの三人は電車に乗り、緑地公園駅で降りた。辺りは静かな住宅街で、大きな家が並んでいる。セイナの曖昧な記憶を頼りにしばらく歩くと、立派な門構えの邸宅が見えてきた。門柱には「寒川」の表札。しかし中は暗く、誰もいないようだった。門は固く閉ざされている。
カガミが門の隙間から中を覗き込んだ。「誰もおらんみたいや……ここがキリカの家なんか?」
ハナルも不安そうに言った。「で、でも、電気もついとらんし、車も見えへん……」
セイナはスマホの明かりで門の郵便受けを確認した。「チラシが何日分も溜まっています。ここはしばらく誰も住んでいないようです。」
「じゃあ、キリカもここにはおらんのか……」カガミが肩を落とした。
その時、道の向こうから一人の老人が犬の散歩をしているのが見えた。セイナはすぐに駆け寄って、丁寧に声をかけた。
「すみません、ちょっとお伺いしてもよろしいでしょうか。この寒川さんのご自宅には、今どなたもお住まいではないのでしょうか?」
老人はセイナの百合泉の制服を見て、警戒を解いた。「ああ、ここは寒川のご老夫婦の家や。今は海外に行っとるはずやで。若いご夫婦は別のところに住んどるよ。この辺じゃなくて、もっと北の方の高級住宅街に別荘があるって聞いたわ。」
セイナの目が一瞬鋭くなった——が、口調は変わらず丁寧だった。「北の方の高級住宅街……具体的にはどちらでしょうか?」
「うーん、確か『ひばりヶ丘』とか言うとったかな。タクシーの運転手に聞いてみたらわかるで。」
セイナは深くお辞儀をした。「ありがとうございます。大変助かりました。」
三人はすぐにタクシーを拾い、『ひばりヶ丘』へ向かった。車窓の景色は次第に緑が多くなり、大きな邸宅が点在するエリアに入っていく。運転手が言った。「この辺りは大阪でも有数の高級住宅地でございますよ。寒川さんのお宅は、確かこの道を突き当たったところにあるはずです。」
やがてタクシーは一軒の洋館の前に止まった。周りから離れた、ひときわ大きな屋敷だ。灯りがついている。窓辺に人影が見えた気がした。
「あそこです!」セイナが小声で言った。
三人は車を降り、茂みの陰に身を隠した。カガミが息をひそめて言った。「ここやな……キリカちゃん、絶対ここにおるわ。」
セイナはハナルに目配せした。「無線機をお借りしてもよろしいですか。もしかしたらキリカさんが持っているかもしれません。」
ハナルがポケットから無線機を取り出した。あの時、キリカが貸してくれたものだ。セイナは小さな声で呼びかけた。「キリカさん、聞こえますか。」
——沈黙。もう一度。三度目。
その時、ノイズ混じりの声が返ってきた。
『……誰?』
「セイナです。キリカさん、ご無事ですか?」
『……セイナ。』キリカの声は掠れていたが、少しだけ安堵が混じっていた。『ここ……自分の部屋。窓から庭が見える。』
セイナは続けて尋ねた。「周りの状況を教えていただけますか?鍵は?見張りは?ご両親は?」
キリカは手短に説明した。二階の角部屋。窓の下は庭だが高い壁がある。一階には執事とボディーガードが二人。両親はリビングにいる。鍵は内側から開けられるが、外に出た後の逃げ道がないことと、すぐに気づかれることが問題だった。
セイナは黙って聞いた後、丁寧に言った。「わかりました。いったん戻って作戦を練ります。それまでどうかご無理なさらないでください。必ず助けに参りますので。」
『……うん。気をつけて。無線機の設定を5キロメートルの距離に調整するので、同じように設定を変更して。』
通話を切ると、三人はその場を離れた。
家に戻ると、アコはまだベッドに横たわっていた。しかしカガミの母がそばに座り、アコの手を握りながら、穏やかな声で語りかけていた。
「……今、あなたはとても安全な場所にいます。ここにはあなたを傷つける人は誰もいません。ゆっくりでいいから、呼吸を感じて。この部屋の温もりを感じて……」
アコのまぶたが微かに震えた。ハナルが息を呑んだ。
カガミの母は声のトーンを変えずに続けた。「あなたは一人じゃない。ここに家族がいる。あなたを待っている人がいる。過去はもう終わったこと。今はただ、この瞬間だけを感じて……」
不思議なことに、アコの呼吸が次第に整っていった。指がわずかに動いた。
「……ヒデミ?」
掠れた声が漏れた。
「ヒ、ヒデミさんは今ここにはいません。で、でも、アコさんのことを待っています。み、みんな待っていますよ。」ハナルが前に進み出て、アコに微笑みかけた。
カガミの母はゆっくりとアコの手を離し、そっとアコの髪を撫でた。
アコの目が開いた。最初はぼんやりとしていたが、徐々に焦点が合ってきた。
「……ここは?」
「カガミの家。ご安心ください。」
ハナルが駆け寄って、アコの手を握った。「あ、アコさん、よかった……」
アコはゆっくりと起き上がり、周りを見回した。カガミとセイナも部屋の中にいる。皆、心配そうな顔をしている。
「……キリカさんは?」
その質問に、空気が一瞬で沈んだ。カガミが歯を食いしばって言った。「キリカちゃんは今、自分の家に閉じ込められとる。でも、絶対助け出すから。」
アコの目に力が戻った。「わたしも……行く。」
「まだ無理です。まずはしっかりお休みになってください。」セイナが優しくもはっきりと言った。「作戦は私たちが立てます。アコさんはお元気になられたら、また一緒に演奏しましょう。」
アコはうなずいた。まだ少し顔色は悪いが、目はもう虚ろではなかった。
その夜、セイナはキッチンのテーブルに地図を広げ、カガミと一緒に作戦を練った。ハナルはアコのそばを離れず、時々キリカに無線機で短いメッセージを送った。返事は必ず来る。短いけど、生きている証拠だった。
カガミの母は皆に温かいココアを入れてくれた。マサルは「何か必要なものがあれば言え。工具ならなんでも揃う」と太鼓判を押した。
セイナはペンを回しながら、考え込むように言った。「明日の夜、行動に移りましょう。ただ——まずは中に侵入する方法を考えなければなりません。」
その時、無線機からキリカの声が聞こえた。
『……庭の裏手に、古い勝手口がある。多分、鍵は壊れている。でも、そこから入るには——誰かが中でドアを開けなければならない。』
カガミが顔を上げた。「それって……お前が自分で開けるってことか?」
『……そうなる。』
セイナが首を振った。「危険すぎます。もし見つかったら——」
『もう決めた。明日の夜、十一時。』
キリカの声は静かだったが、揺るがなかった。そして無線機はプツリと切れた。
(From Dandy:
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