表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

第12話 君気にしているから

みんなを愛してる!コメントを残してくださいね!

「……」

個室の中は沈黙に満ちていた。

ハナルは傷ついたアコを慰めに行きたかったが、アコがあんな風に座っていると、まるで何かが切れたみたいで、声をかけることすら怖かった。

セイナはさっきユキの話を聞いて、彼女が自分を嫌っているわけではないことは理解した。でも……もし自分の実力がもう少し強ければ、ユキもあんな言い方しなかったんじゃないか?アコもあんなに悲しまなかったんじゃないか?

「アコさん……」ハナルは勇気を出して、亜子の美しい髪をそっと撫でた。セイナも何かしたくて、お菓子の山からとても甘そうなフルーツキャンディーを見つけて、彼女の前に置こうとした。

アコは動かなかった。髪を撫でられても、キャンディーを置かれても、何も感じていないみたいだった。

キリカはカガミに目配せをして、一緒に外に出るように合図した。


廊下に出ると、キリカは小声で言った。

「前回アコと一緒に来たあの女の子に連絡取れるか?」

「え?何するん?」

「彼女に電話して。アコが帰った時に崩れ落ちたりせんように、迎えに来てもらおうと思うねん。あの様子を見ると……アコ、あのまま一人にしたらあかん気がする。」

カガミは頷き、自分のスマホを取り出して探し始めた。しばらくすると、あの時厚かましくも教えてもらった連絡先を見つけた。今日、それが役に立つとは思わなかった。

その番号に電話をかけると、何度もコール音が鳴った後で、やっと通話がつながった。

「もしもし。」

「あ、あの……えっと、アコちゃんの友達さんですよね?」

「そうやけど。」

「オレ、アコちゃんのバンドメイトのカガミなんですけど、アコさんの様子がちょっと……その、あんまり良くなくて……」

ヒデミは一瞬沈黙した。スマホを持つ手を変えて、口調は相変わらずだるそうだった。

「……場所、送れや。」

「え?あ、はい!」


通話が切れた。カガミはスマホを握りしめて、キリカを見た。

「来てくれるって。」

「……そうか。」

キリカはそれだけ言って、個室のドアを見つめた。その目には、何とも言えない色が浮かんでいた。


ヒデミはスマホを放り投げるようにベッドの上に置き、だらりと伸びをした。

「……しゃあないなあ。」

窓の外はもう暗くなりかけている。和歌山の夕暮れは、大阪より少し早い気がする。彼女はジャケットを引っ掴み、鍵をポケットに突っ込んだ。廊下を歩く足音は遅い。でも、止まらない。

アパートの外、月極駐車場に停めてある一台の古い軽自動車。父ちゃんの車や。いつも「ガソリン代くらい自分で払え」って怒られるけど、今日は怒られてもしゃあない。

車に乗り込み、エンジンをかける。ナビをセットすると、和歌山から大阪まで高速使えば一時間ちょっと。

「めんどくさいなあ……」

そう呟きながらも、アクセルはしっかり踏んでいた。


それから一時間以上が経った。

個室のドアがノックもなしに開いた。

「よっ。」

全員の視線が一斉にドアに向いた。そこに立っていたのは、だらしなく髪を結った大学生。腰には例の黄黒チェックのシャツを巻いている。少しだけ息が上がっているように見えたが、表情は相変わらずだるそうだ。

ヒデミは部屋の中をひと回り見渡して、鍵盤の前に座ったまま動かないアコを確認した。それから、だるそうに手を上げた。

「迎えに来たで。」

「ヒ、ヒデミさん……」カガミが立ち上がる。「その、わざわざ和歌山から……」

「別に。暇やったし。」

彼女はそう言って、アコのそばに歩いていった。鍵盤の上に置かれた手が、かすかに震えている。アコは目を開けているのに、どこも見ていない。何か言おうとして、唇が少しだけ動いたけど、声は出なかった。

ヒデミはため息をついて、腰をかがめた。アコの目線の高さに合わせるようにして、声は相変わらずだるそうに。

「な、帰ろか。」

アコは動かなかった。

ヒデミはもう一度言った。今度は、もっとゆっくり。

「帰ろ。」

その言葉で、アコの目がようやく動いた。ゆっくりと、ヒデミの顔を見上げる。目は真っ赤で、涙はもう枯れたのか、新しい涙は出てこなかった。

ヒデミは手を差し出した。何も言わなかった。

アコはその手を見つめて、そっと握った。その手は、冷たかった。

「鍵盤、持って帰らなあかんやろ。」

「うちが持ったるわ。」

そう言って、ヒデミはキーボードのバッグを肩にかけた。重さに一瞬よろめいたけど、顔には出さなかった。

「あ、あの!」カガミが駆け寄る。「オレも手伝う!」

「ええよ。あんたら、もう帰り。」ヒデミは振り返らずに言った。「こんな時間までうろついたら、親が心配するで。」

カガミは口を開けたまま、何も言えなかった。

アコはゆっくりと立ち上がった。鍵盤を見て、それからヒデミの背中を見た。ヒデミはドアのところで立ち止まって待っている。振り返らないけど、ちゃんと待っている。

アコは足を動かした。一歩。また一歩。

ヒデミの背中に追いついたとき、ヒデミはようやく横を向いた。

「行こか。」

アコはうなずいた。声は出なかったけど、足は動いていた。

ドアを出る直前、アコは振り返った。部屋の中に残された四人を見た。カガミ、キリカ、セイナ、ハナル。みんな、泣きそうな顔で彼女を見ている。

アコの目から、涙がぽたりと落ちた。

「……ごめんな。」

それだけ言って、彼女は振り返った。

その背中は、誰も声をかけられないほど——小さく見えた。


廊下に出ると、ヒデミが壁に寄りかかって待っていた。キーボードのバッグを足元に置いて、スマホをいじっている。

「遅い。」

アコは何も言わなかった。近づいて、自分のキーボードのバッグを拾おうとした。

「ええわ。持ったる。」

「……」

「ほら、行くで。」

ヒデミはそう言って、また歩き出した。アコは黙ってその後ろをついていく。

駐車場に出ると、ボロい軽自動車が一台だけ残っていた。ヒデミはトランクを開け、キーボードのバッグを積み込んだ。

「乗れや。」

アコは黙って助手席に乗った。シートベルトを締めようとして、手が震えてうまくはまらない。

ヒデミは何も言わなかった。ただ、そっと手を伸ばして、カチッと音を立てた。

エンジンがかかる。車が動き出す。


高速に入ってしばらくしてから、ヒデミは気づいた。

アコが震えている。暖房つけてるのに。

「……アコ?」

返事がない。横を向くと、アコは窓の外を見たまま、頬がほんのり赤い。さっきまでの冷たさじゃない。

ヒデミは右手を離して、アコの額に触れた。

「——熱あんねんけど。」

アコはようやく反応した。ぼんやりとヒデミを見て、何か言おうとしたけど、声にならなかった。

「ばかやろ。無理すんな。」

ヒデミはうつむいて、しばらく考えた。このままアコのアパートに送っても、誰もいない。薬もない。ご飯もない。

「……しゃあない。うちのとこ、行こ。」

次のインターで降りて、Uターンした。今度は和歌山方面。来た道を戻る形やけど、仕方ない。彼女の実家があるのは、和歌山の隣の町やった。

家に着いたのは、九時を回っていた。MOCAを出たのが七時過ぎ。和歌山まで一時間ちょっと、そこからまたアコのアパートがある方角とは逆に走って……もう、どっちがどっちやねん。ヒデミはハンドルを握りながら、ぼんやりと思った。結局、往復で二時間以上運転しとる。

玄関の灯りがついていて、まだ起きてるのがわかる。

ヒデミはエンジンを切り、深く息を吸った。それから助手席のドアを開けて、アコの肩を支えながら引きずり下ろす。アコはふらふらで、立っているのもやっとやった。

「……立てるか?」

「うん……ごめん、ちょっと……」

返事の途中で、アコの体がぐらりと傾いだ。ヒデミは咄嗟に腕を伸ばして、そのまま抱え上げた。姫だっこ。重い。めっちゃ重い。鍵盤も積んだままやし、なんでうちがこんなこと——

でも、アコはもう抵抗する力もないみたいで、だらりとヒデミの腕に身を預けている。顔が近くて、熱い。呼吸も荒い。

「……しゃあないなあ。」

ヒデミはそう呟いて、玄関へ向かった。鍵を開けると、中から母親の声がした。

「英美?遅かったね。ご飯は——」

母ちゃんが廊下に出てきて、言葉を止めた。娘が知らない女の子を抱きかかえて立っている。その子は真っ赤な顔で、目もうつろだ。

「ちょっと、ヒデミ!この子は……?どうしたん?」

「友達。熱出してもうて。一人暮らしやから、しゃーなし連れて帰ってきた。」

ヒデミはそう言いながら、アコを自分の部屋に運ぼうとする。

「ちょっと待ちなさい!」母ちゃんが後ろから追いかける。「お風呂入ったの?ご飯は?病院は?」

「さっきまで大阪におったから、まだなんも。あとでなんか食べさせますわ。」

「あとで、じゃなくて——」

その時、リビングから父ちゃんも出てきた。テレビの音量が小さくなった気がする。

「おいおい、ヒデミ。どういうことや?」

「だから、友達が熱出してん。寝かせるだけやから。うるさくせんといて。」

ヒデミはアコを自分の部屋に運び込み、ベッドにそっと下ろした。アコはそのままぐったりと横になった。

振り返ると、母ちゃんがドアのところに立っていた。

「あの子、ちゃんと食べられそうなん?」

「わからへんけど。とりあいず、病院は……多分、ゆっくり寝たら治る熱やと思う。」

「そう……じゃあ、お粥、炊いとくわ。」

母ちゃんはそう言ってキッチンへ向かった。父ちゃんはリビングに戻ったけど、テレビの音はずっと小さいままやった。

ヒデミはアコのスマホを手に取った。画面には店長からの着信が何度か表示されている。

通話ボタンを押す。しばらくして、店長の声が聞こえた。

『あ、アコさん?』

「アコちゃう。友達の英美。アコ、熱出して寝てもうてん。」

『え?熱?大丈夫ですか?』

「ちょっと見てもらった方がええかな。ビデオ、つけてもええ?」

ヒデミはビデオ通話に切り替えた。画面に映ったのは、いつもカウンターにいる店長の顔。彼女はアコの状態を一目見て、すぐに表情を変えた。

『ああ……これはしんどそうですね。』

その時、店長の目がヒデミに止まった。少し考え込むように、首をかしげる。

『あら?あなた、うちの店によく来てる子と違います?』

「あ、はい。アフォガードばっか食べてる常連です。」

店長はくすっと笑った。

『そうでしたか。それで、アコさんと知り合いだったんですね。』

「まあ、そんなとこです。」

『わかりました。ゆっくり休ませてあげてください。仕事のことは気にしないで。』

「すみません。ありがとうございます。」

通話を切って、スマホを机の上に置く。母ちゃんがお粥とスポーツドリンクを持ってきてくれた。

「これ、食べられそうなら食べさせて。薬は?」

「冷蔵庫にあったから、さっき飲ませた。」

「そう。無理はさせんといてな。」

「うん。」

母ちゃんが出ていくと、部屋には二人だけになった。


この時、ヒデミはアコの隣に座り、スマホを開いて冷却パックの使い方を調べようとしていたが、画面ロック解除時に表示されたメッセージがヒデミの目を引いた。それは、アコを応援するためにフォローしていたFAの公式アカウントからのものだった。

ヒデミは顔を変えた。スマホを覗き込む。

【公式】Fortissimo Arena @FA_official

皆さんに大切なお知らせがあります。

このたび、ベーシストの泉佐野有希ユキが、フォルティシモ・アリーナを脱退することになりました。

今まで応援してくださったファンの皆さん、ありがとうございました。

新しいベーシストについては、決まり次第お知らせします。

これからもFAの応援、よろしくお願いします。


リプライは、すぐにたくさん届いていた。

『えっ!?ユキさん脱退するの!?』

『ベースいなくなっちゃうの…寂しい』

『新しい人誰になるんだろう』

『ユキさんのベース、すごく好きだったのに…』

『バンドって辞めるの早いよね、またか』

『またメンバー変わるの?ちょっと不安』

『次のベーシスト、早く決まってほしい』

『ユキさん、次の場所でも頑張ってください』

『FA、大丈夫なん?』

『またライブ見たかったなあ』

『脱退って、なんかあったんかな…』


(From Dandy:

I'm really busy these days, so I might only be able to update once a day in these days. Sorry about that.But if you guys like this story and are looking forward to it, please leave a comment for me.)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ