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第9話 逃げ場のない選択

森の中を、全力で駆ける。


後ろから、足音が迫ってくる。


「はっ……はっ……!」


息が苦しい。


でも、止まれない。


「ねえ、何が起きてるの!?」


クレアが叫ぶ。


説明している余裕はない。


「……後で話す!」


それだけ返す。


後ろから、声が飛ぶ。


「逃がすな!」


完全に狙われている。


——俺が。


『いいね』


頭の奥で、声が笑う。


『ちゃんと追われてる』


「……黙れ」


吐き捨てる。


『でもこのままだとさ』


少しだけ、声が低くなる。


『追いつかれるよ?』


分かっている。


このままじゃ、いずれ——


「……くそっ」


歯を食いしばる。


そのとき。


前方に、開けた場所が見えた。


「……行くぞ!」


クレアの手を引く。


森を抜ける。


だが——


「囲まれてる……!」


クレアが息を呑む。


前方にも、男たちがいた。


完全に挟まれている。


「……終わりかよ」


思わず呟く。


『いや?』


声が楽しそうに響く。


『ここからでしょ』


「……っ」


クレアが前に出る。


剣を構える。


「時間、稼ぐから」


「やめろ!」


即座に止める。


「無理だ!」


相手は複数。


しかも、明らかに手練れだ。


「でも——」


「いいから下がれ!」


強く言う。


クレアが歯を食いしばる。


それでも、下がった。


——正しい判断だ。


でも。


それでどうする?


この状況で。


『簡単だよ』


声が囁く。


『使えばいい』


「……使わない」


即答する。


『ほんとに?』


楽しそうな声。


『あの子、死ぬかもよ?』


「……っ!!」


心臓が跳ねる。


見る。


クレア。


剣を握っている。


震えている。


それでも。


逃げない。


「……っ」


迷いが、揺れる。


『ほら』


優しく。


甘く。


『選んで』


その声が、頭の奥に響く。


——守るか。


——守り方を選ぶか。


「……くそっ!!」


気づけば、動いていた。


男たちに向かって。


踏み込む。


「来たぞ!」


声が飛ぶ。


剣が振り下ろされる。


避ける。


だが——


数が多い。


捌ききれない。


「っ……!」


一人の攻撃を受ける。


体勢が崩れる。


その瞬間。


どくん。


胸が、大きく脈打つ。


『ほら』


すぐそこにいる。


『今だよ』


——分かっている。


これを使えば。


助かる。


でも。


「……全部じゃなくていい」


小さく呟く。


『ん?』


声が少し驚く。


「少しだけなら……いいだろ」


自分に言い聞かせるように。


手を伸ばす。


一人の男へ。


触れる。


——繋がる。


冷たい感覚。


だが。


沈みすぎないように、意識を保つ。


「……止まれ」


短く命じる。


男の動きが、一瞬止まる。


「なに!?」


周囲がざわつく。


その隙に。


クレアの手を掴む。


「走るぞ!」


全力で駆ける。


今度こそ。


森の奥へ。


「さっきの……」


クレアが息を切らしながら言う。


「……今はいい」


答えを濁す。


止まらない。


止まれない。


『へえ』


声が、少し楽しそうに。


『加減できるんだ』


「……うるさい」


『でもさ』


少しだけ、優しく。


『もう戻れないよ』


その言葉に。


何も言い返せなかった。


ただ。


分かっていた。


——一線は、もう越えている。


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