第8話 狙われる力
その日の午後。
俺とクレアは、いつもより少し遠くまで足を伸ばしていた。
「最近、ちょっと強くなってきた気がする」
クレアが剣を振りながら言う。
確かに、その動きは前よりも安定していた。
「……そうだな」
短く答える。
胸の奥の違和感は、相変わらず消えない。
むしろ、少しずつ強くなっている気がする。
——そのとき。
「……誰かいる」
クレアが小さく呟く。
気配。
魔物じゃない。
人間。
「隠れろ」
咄嗟に言う。
近くの木陰に身を潜める。
足音が近づいてくる。
複数。
「この辺りで間違いないのか?」
低い男の声。
「報告では、この付近で異常な魔物の動きが確認されています」
別の声。
「異常、ねえ……」
最初の男が、少し笑う。
「従属させられたような個体、だったか」
——心臓が、跳ねる。
「……っ」
思わず息を止める。
『へえ』
頭の奥で、声が笑う。
『バレてるじゃん』
「……黙れ」
小さく呟く。
「え?」
クレアが不思議そうに見る。
「……なんでもない」
目を逸らす。
「で、どうする?」
別の男が言う。
「決まってるだろ」
最初の男が、迷いなく答える。
「原因を見つけて——確保する」
確保。
その言葉に、背筋が冷える。
「抵抗した場合は?」
「処理だ」
淡々とした声。
迷いがない。
「……物騒だね」
クレアが小さく呟く。
その顔は、真剣だった。
「……関係ない」
そう言いかけて——
止まる。
本当に、関係ないのか?
『あるよ』
声が囁く。
『むしろ、ど真ん中』
「……っ」
「どうしたの?」
クレアが覗き込む。
「……いや」
ごまかす。
でも、もう分かっている。
あいつらが探しているのは——
俺だ。
「……離れた方がいい」
小さく言う。
「え?」
「ここ、危ない」
クレアが少し考える。
そして——
首を振った。
「一緒に帰る」
即答だった。
「……は?」
「危ないなら、なおさら一緒でしょ」
まっすぐな目。
迷いがない。
「……お前な」
言葉に詰まる。
「一人で行かせる方が怖いよ」
少しだけ、笑う。
その言葉に。
何も言えなくなる。
『いいねえ』
頭の奥の声が、楽しそうに響く。
『ほんと、いい子』
「……黙れ」
小さく吐き捨てる。
『でもさ』
声が少し低くなる。
『その子、巻き込むよ?』
「……っ」
言葉が詰まる。
『君のせいで』
その一言が、重くのしかかる。
「……帰るぞ」
短く言う。
クレアが頷く。
できるだけ気配を消して、その場を離れる。
でも——
「……あれ?」
クレアが足を止める。
「どうした」
「今、こっち見てた気がする」
心臓が止まりそうになる。
振り返る。
木々の隙間。
男の一人が——
こちらを見ていた。
目が合う。
一瞬の静止。
そして。
「いたぞ」
低い声が、はっきりと響いた。
——最悪だ。
「走れ!」
クレアの手を掴む。
全力で駆け出す。
後ろから、足音。
追ってきている。
「ちょ、ちょっと!?」
クレアが驚く。
説明している余裕はない。
『ほら』
声が楽しそうに言う。
『来たね』
「……くそ」
歯を食いしばる。
『どうする?』
甘い囁き。
『また使う?』
——その選択が。
すぐそこまで迫っていた。




