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第7話 近づく距離、見えないズレ

翌日。


目が覚めたとき、体がやけに重かった。


「……最悪だ」


ほとんど眠れていない。


胸の奥の違和感も、そのままだ。


それでも——


行かないわけにはいかなかった。


外に出ると、クレアが待っていた。


「おはよ」


いつも通りの笑顔。


それだけで、少しだけ安心する。


「……おはよう」


ぎこちなく返す。


少し、間が空く。


「昨日のことだけど」


クレアが切り出す。


「……ああ」


「やっぱり、無理してたよね」


核心を突かれる。


「別に——」


否定しようとして、言葉が止まる。


「嘘つかなくていいよ」


優しい声。


でも、逃げ場がない。


「……ちょっとだけな」


観念して答える。


クレアは少しだけ安心したように笑う。


「やっぱり」


その反応が、少しだけ嬉しかった。


「でもさ」


クレアが一歩近づく。


「無理するくらいなら、ちゃんと頼ってよ」


その言葉に、思考が止まる。


「……は?」


「一人で抱え込まないでほしい」


まっすぐな目。


逃げられない。


「俺は——」


言いかけて、止まる。


“言えない”。


あの力のこと。


あの声のこと。


全部。


「……大丈夫だ」


結局、それしか言えなかった。


一瞬だけ。


クレアの表情が曇る。


でも、すぐに消えた。


「そっか」


それ以上は、踏み込んでこなかった。


その優しさが、逆に刺さる。


——そのとき。


どくん。


胸の奥が、また脈打つ。


『いいね』


声が響く。


「……っ」


『あの子』


楽しそうに。


『優しいね』


「……黙れ」


小さく呟く。


「え?」


「なんでもない」


ごまかす。


『でもさ』


声が、少しだけ低くなる。


『距離、近いよね』


「……だからなんだ」


『気に入らないな』


その一言で、空気が変わる。


「……は?」


『君はさ』


静かに。


でも、はっきりと。


『僕だけ見てればいいのに』


——ぞくり。


背筋が凍る。


「……ふざけるな」


思わず吐き捨てる。


『ふざけてないよ』


声は、真剣だった。


『だって君』


『僕のだし』


その言葉に、言葉を失う。


「……違う」


絞り出す。


『違わないよ』


即答。


『契約したでしょ?』


「……それは」


言い返せない。


『だから』


優しく。


でも、逃げ場なく。


『ちゃんと見ててよ』


『僕のこと』


「……断る」


即答する。


沈黙。


一瞬。


そして——


『そっか』


あっさりとした声。


でも。


『じゃあ、しょうがないね』


その一言が、やけに重く残った。


「……何がだよ」


返事はない。


気配だけが、残る。


「……くそ」


小さく吐き捨てる。


クレアが、こちらを見ていた。


「……ほんとに大丈夫?」


さっきよりも、少しだけ強い不安の色。


「……ああ」


また、同じ答え。


その瞬間。


クレアが一歩近づいてきた。


そして。


手を、取る。


「っ……!?」


驚く。


でも。


振り払えない。


「一人で無理するなって言ったでしょ」


少しだけ、拗ねたような声。


「……俺は」


言葉が出ない。


クレアは、そのまま笑う。


「大丈夫」


その一言。


その温かさに。


少しだけ、救われる。


——でも同時に。


胸の奥で。


“何か”が、静かにざわついていた。


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