第11話 交わらない視線
夜。
簡単に火を起こし、最低限の休息を取ることにした。
「……で」
クレアが、じっと少女を見ている。
「ほんとに一緒にいるの?」
露骨に警戒した声。
当然だ。
「問題ない」
少女は、まったく気にした様子もなく答える。
「敵対しない限り、危害は加えない」
「それが信用できないって言ってるの」
クレアの声が少し強くなる。
空気が、張り詰める。
「……落ち着け」
間に入る。
「落ち着いてるよ」
クレアはそう言うが、視線は鋭いままだ。
「ただ、この人が危ないって分かってるだけ」
はっきりと言い切る。
少女は、その言葉に少しだけ目を細める。
「正しい認識」
あっさりと肯定した。
「だからこそ、監視している」
「それをやめてって言ってるの!」
クレアが一歩前に出る。
「……クレア」
制止する。
だが、止まらない。
「この人は——」
言いかけて、止まる。
“何か”に気づいたように。
ゆっくりと、こちらを見る。
「……ねえ」
不安そうな声。
「さっきから、変だよ」
心臓が、強く跳ねる。
「何がだ」
できるだけ平静に返す。
「一人で喋ってるみたいなとき、ある」
——ばれている。
「……気のせいだ」
即座に否定する。
「ほんとに?」
疑う目。
逃げ場がない。
『バレてるね』
頭の奥で、声が笑う。
『どうする?』
「……黙れ」
小さく呟く。
「やっぱり!」
クレアが声を上げる。
「今、誰かと話してるでしょ!?」
「違うって——」
言いかけて。
言葉が詰まる。
——誤魔化せない。
「……誰?」
クレアの声が、少し震える。
そのとき。
「内部干渉型か」
少女が、ぽつりと呟いた。
「……は?」
思わず聞き返す。
「精神領域に直接存在するタイプ」
淡々とした分析。
「珍しいが、あり得る」
「ちょっと待って!」
クレアが声を上げる。
「何それ!?どういうこと!?」
少女は、クレアを見る。
そして——
「簡単に言うと」
少しだけ間を置いて。
「その人の中に、別の何かがいる」
空気が、凍る。
「……っ」
クレアの視線が、ゆっくりとこちらに向く。
「……ほんと?」
その目は。
怖がっていた。
「……」
答えられない。
答えたくない。
『言えばいいのに』
声が囁く。
『どうせ離れないよ』
「……黙れ」
小さく吐き捨てる。
「やっぱりいるんだ……」
クレアが、一歩下がる。
その動きが。
胸に刺さる。
「……違う」
反射的に言う。
「危ないやつじゃない」
——嘘だ。
自分でも分かっている。
「……ほんとに?」
クレアの声が揺れる。
「……ああ」
言い切る。
その瞬間。
『ひどいなあ』
声が、少し低くなる。
『僕のこと、そんなふうに言うんだ』
「……っ」
胸がざわつく。
少女は、その様子をじっと見ていた。
「危険度は高い」
冷静な判断。
「制御できていない」
「ちょっと!」
クレアが反論する。
「勝手に決めつけないで!」
「事実を言っているだけ」
少女は淡々と返す。
「このままでは、周囲に被害が出る可能性がある」
その言葉に。
クレアが、はっとする。
そして——
もう一度、こちらを見る。
「……本当に、大丈夫?」
その問いは。
今までで一番重かった。
「……ああ」
それでも、そう答えるしかなかった。
沈黙が落ちる。
火の音だけが、静かに響く。
『ねえ』
声が、優しく囁く。
『あの子、揺れてるよ』
やめろ。
『壊れるかもね』
やめろ。
『そしたらさ』
少しだけ、楽しそうに。
『僕だけになるね』
「……ふざけるな」
低く呟く。
クレアがびくっとする。
「……やっぱり」
小さく呟く。
「なんでもない」
無理やり言う。
でも。
もう、誤魔化せない。
この関係は——
確実に、歪み始めていた。




