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第10話 追跡者

どれくらい走ったか、分からない。


気づけば、完全に日が落ちていた。


「……ここまで来れば、大丈夫か」


息を整えながら、周囲を見渡す。


気配はない。


追ってくる音も、もう聞こえない。


「はぁ……はぁ……」


クレアも、その場に座り込む。


「さすがに……疲れた……」


「……ああ」


同じだった。


体も、頭も、限界に近い。


「ねえ」


クレアが、こちらを見る。


「そろそろ、話してくれる?」


静かな声だった。


逃げられない。


「……あれは」


言いかけて——


言葉が止まる。


どこまで話す?


全部か?


それとも——


『やめときなよ』


声が囁く。


『どうせ怖がられる』


「……っ」


歯を食いしばる。


「俺は——」


そのとき。


「その先は、私も気になる」


——凍りついた。


声。


すぐ近く。


でも、気配はなかったはず。


振り向く。


そこにいたのは。


一人の少女だった。


月明かりに照らされて、静かに立っている。


長い髪。


整った顔立ち。


感情の読めない目。


「……誰だ」


自然と、声が低くなる。


少女は、一歩も動かずに答える。


「追っていた側」


あまりにもあっさりと。


「……っ」


クレアが立ち上がる。


剣を構える。


「下がれ」


小さく言う。


目の前の少女。


——ただ者じゃない。


「警戒しなくていい」


少女は淡々と言う。


「今は戦うつもりはない」


「信用できるか」


即答する。


少女は、少しだけ考えるように目を細めて——


「できないと思う」


正直すぎる答えだった。


一瞬、言葉に詰まる。


「……目的は」


問いかける。


少女は、まっすぐこちらを見る。


「あなた」


迷いのない視線。


「正確には、その力」


心臓が、嫌な音を立てる。


『ほら』


頭の奥で声が笑う。


『来た』


「……何の話だ」


とぼける。


少女は、一歩だけ近づく。


「魔物を従属させた」


断定だった。


「あり得ない現象」


「……」


言い返せない。


「だから調べた」


静かな声。


「そして、見つけた」


まっすぐ、俺を見る。


逃げ場はない。


「あなたは、危険」


その言葉に。


クレアが一歩前に出る。


「そんな言い方——」


「事実」


少女は遮る。


「放置すれば、被害が出る」


淡々とした言葉。


感情がない。


「だから」


一瞬、間が空く。


「本来は、排除対象」


空気が凍る。


「……っ」


クレアが剣を握る。


俺は、動けない。


『いいねえ』


頭の奥で、声が楽しそうに。


『やっちゃう?』


「……黙れ」


小さく呟く。


「え?」


クレアがこちらを見る。


「……なんでもない」


ごまかす。


少女は、その様子をじっと見ていた。


「でも」


ぽつりと。


「少し、気が変わった」


「……は?」


思わず聞き返す。


少女は、ゆっくりと口を開く。


「興味がある」


その言葉に。


嫌な予感が、強くなる。


「あなたが、何なのか」


静かな声。


でも、確実に——


こちらを逃がす気はない。


「だから」


一歩、近づく。


距離が縮まる。


「しばらく、観察する」


あまりにも勝手な宣言。


「……断る」


即答する。


少女は、少しだけ首を傾げて。


「拒否権はない」


さらっと言った。


「なっ——」


クレアが声を上げる。


その瞬間。


少女の姿が、消えた。


「え——」


気づいたときには。


すぐ目の前にいた。


「っ!?」


反応できない。


速すぎる。


「安心して」


淡々とした声。


「敵対しない限り、何もしない」


——信用できるはずがない。


でも。


力の差は、明らかだった。


『気に入らないなあ』


頭の奥の声が、低くなる。


『あいつ』


「……勝手にしろ」


吐き捨てる。


これ以上の衝突は危険だ。


少女は、小さく頷いた。


「理解が早くて助かる」


そして——


少しだけ、こちらを見る。


「名前」


「……は?」


「呼び方が必要」


事務的な口調。


「……好きに呼べ」


投げやりに言う。


少女は、ほんの一瞬だけ考えて。


「じゃあ」


静かに告げる。


「観察対象」


「……ふざけんな」


思わず言い返す。


クレアが、少しだけ吹き出しそうになる。


少女は、気にした様子もなく。


「よろしく」


そう言った。


その瞬間。


確信する。


——こいつは。


一番厄介な相手だ。


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