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【書籍化決定】身籠った男装令嬢は逃げ出したい~悪女な私も王太子に溺愛されてたなんて知りませんっ!~  作者: 鈴木 桜
第2章

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第14話 情報操作


 この晩餐会では、新たな情報を得ることができた。

 というのも、晩餐会の後にエーベンハルト伯爵から王子とゆっくり話をしたいという申し出があったのだ。といっても最初は大仰な雰囲気ではなく、『昨年狩った熊の毛皮でつくった敷物が出来上がってきたので、ぜひご覧に入れたい』という、ごく気楽な誘いだった。


 王子が快くこの申し出を受けると、件の敷物は家族が普段使っている居間に敷いてあるということで、伯爵は屋敷の奥へ王子とレイリアを案内した。

 その際、レイリアはさっさと帰りたいと王子に小言で告げたのだが、伯爵がしつこく誘うので渋々応じる形になった。


 居間に到着して扉が閉まって伯爵と伯爵夫人、王子とレイリアの四人だけになると、それまで人好きのする笑顔を浮かべていた伯爵の表情が一変した。


「殿下、硝石の件でお伝えしなければならないことがございます」


 まさか向こうから核心に迫る話題が上がるとは思わなかった二人だったが、気を引き締めて伯爵の話に耳を傾けた。


「硝石の一部の行方が分からなくなっています」


 国内にいくつか存在している鉱山から採掘される硝石は、国の機関と事業者らで組織される管理組合の倉庫で保管される。そこから、あらかじめ議会で決められた量の硝石だけが各事業者に配分される。また、それらの運搬にも定期的に国の監査が入っている。


 鉱山から運び出された硝石の行方が分からなくなるなど、本来起こり得ないことなのだ。


「どういうことだ」


 王子の問いに、伯爵は渋い表情を浮かべた。


「組合の倉庫から硝石の一部が消えていたことが分かったのです」


 伯爵は管理組合の責任者でもあるため、その報告を受けたのだろう。だとすれば、こんな形で報告をしてきたのは妙な話だ。すぐにでも国の機関に連絡すべき事案なのに。


「硝石の一部が消えていることに気づいたのは、五日前のことです。鉱山の採掘量と火薬の製造量がかみ合わないのではないかと疑いを持ち、倉庫の在庫と出納台帳を調べたところ、発覚しました。ところが、その数時間後に組合職員の一人が首を吊って自殺しているのが発見されました」


 これで二人目だ。この件に関わった人間が死ぬのは。今回は自殺ではあるが、本当に自殺であるかどうかは怪しいところだ。


「自殺した職員は目先の利益に目がくらんで横流しをしたという遺書を残しています。ただし、火薬の原料としてではなく、肥料としてオルファニア王国に売り払ったと書かれていました」


 オルファニア王国は東に位置する農業大国だ。肥料として硝石の需要が非常に高いため、遺書の証言には信憑性がある。


 だが、どうやら伯爵はこの証言を信じていないらしい。


「オルファニアへの流通も調べましたが、硝石が運搬された痕跡は見つけられませんでした。もちろん、巧妙に隠されている可能性もあります。しかし、私は東ではなく西に運ばれたのではないかと……」


 農業国家の多い東ではなく、紛争の絶えない西側諸国に硝石が運ばれたということは、つまり、火薬の原料として横流しされたのだと、そう疑っているのだ。


「……そうか」


 おそらく、この件の黒幕はとてつもなく耳が早い。密輸に関する情報が漏れた可能性を察すると、すぐに証人を殺して口を封じる。さらに証言を捏造し、調査をかく乱している。これだけ周到に情報操作されれば、真実にたどり着くのは至難の業だ。


 だから伯爵は、こうして回りくどい手段を使ってひそかに王子に連絡したのだ。伯爵から王子に情報が渡ったことが黒幕に知られれば、また対応されて証拠を隠滅されてしまうから。


 王子もレイリアと同じことを考えているのだろう、顎に手を当てて深く考え込んでいる。


「この件は、自殺した職員の証言通りに報告を上げてくれ」


 伯爵が確と頷いた。彼は王子のとって重要な情報源となる。


「何か分かったら……」


 王子は一度言葉を切って、レイリアの方をチラリと見た。


「奥方からレイリア嬢への手紙という形で連絡してくれ」


 これには、レイリアは面倒だと言わんばかりに顔をしかめた。


「それがいい。レイリア様からルーク様にお伝えいただければ、確実に情報をお渡しすることができますな。今日の晩餐会で二人が意気投合したことにするのがよいでしょう」


 伯爵が半ば強引にこの場にレイリアを誘ったのは、これが狙いだったようだ。抜け目のない人だとレイリアは内心で舌を巻いた。


 ところが、それを聞いた伯爵夫人は苦笑いを浮かべている。彼女はレイリアとは正反対に、おっとりとした雰囲気の婦人だ。今日も菫色の柔らかい色合いのドレスを着て、かわいらしい小花をかたどったネックレスを身に着けている。服の趣味からしても、レイリアと話しが合うとはとても思えない。それに気づいて、伯爵も眉尻を下げた。


 部屋の中に気まずい空気が流れる。

 その沈黙を破ったのはレイリアのため息だった。


「セラド織の件で私がお誘いしたことにしてはどうですか?」


 レイリアは自分のドレスのスカートをつまんで見せた。


「王子殿下からいただいたドレスが珍しく気に入ったので、自分でもセラド織のドレスを仕立てることにした。そのために自宅に商人呼ぶ。……晩餐会で私が自慢げに話をして、その流れで夫人をわが家にお招きすることになった、という流れではどうでしょうか?」


 彼女ならば、おおいにあり得る話だ。王子も伯爵も納得して頷いている。


「後日、実際に商人を呼びましょう」


 いやいやだと言う感情を隠しもせずに言うレイリアに、伯爵夫人も頷いた。


「今夜のドレスは本当に素敵ですから、私もセラド織のドレスが欲しいと思っていたところでした! とても嬉しいわ。……せっかくですから、うちの娘を連れて行っても?」

「……結構ですわ。情報交換の隠れ蓑にもなりますから、他のお友達もお誘いください」


 レイリアが淡々と言うと、伯爵夫人が手を叩いて喜びを表す。妙に温度差の大きいやり取りに伯爵は呆れつつも、確実な情報伝達経路が確保できたことにホッと胸をなでおろしたのだった。王子の方は相変わらずの無表情ではあったが、頭の中では既に次の動きについて考えているだろうと、レイリアには分かっていた。


 今回もたらされた情報によって、火薬の密売が行われていることが、ほぼ確実となったのだ。


 レイリアは、もう一度気を引き締めたのだった。




 この晩餐会を皮切りに、レイリアと王子は様々な場所に二人そろって顔を出すようになった。


 その中で、噂程度の話ではあるがラングレット侯爵について様々なことが分かった。


 彼が違法賭博を主催するようになったのは約半年前で、自ら賭博に参加することもあり、相当羽振りの良い様子だと。また、グスタフ・フォン=マルテンとラングレット侯爵が親しくなったのも半年ほど前からのことであり、彼が侯爵を唆したのではないかと囁かれている。さらに、ここに小麦の売買で成功したオットー・フリーデン男爵が参加し、違法賭博の規模が大きくなっていったという。


 だが、社交界の調査で分かることは違法賭博のことばかりで、火薬の密売に関することをほとんど耳にすることはなかった。


 さらに、この調査自体によって、レイリアにとって非常に都合の悪い変化が起こり始めていた。




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