ドラクロアとユリシア
ドラクロアはまんじりともせずキッチンにいた。
冥界のゲートは閉じてしまい、大村ユウジがその後どうなったかはわからない。
夜明けからしばらくののち、魔法で破壊され、逆再生で元通りになったキッチンの扉の向こうで物音がした。ゲートキーパーがきたのだろう。
「さて…どうなってることやら…。」
ゲートキーパーに変化はあるのか?変化がなければ自分はまた魔法で攻撃されるだろう。どちらにしても大村ユウジはどうなったのか?失敗していたらそのまままたここに戻ってくるのか?じゃあ成功してたら…?様々な考えが頭に浮かび、ドラクロアは一瞬視界が眩んだ。ドアの向こうでは足音が徐々に大きくなってきていた。ゲートキーパーが近づいてきている。足音が止み、ドアノブがゆっくりと回った。ドラクロアは慌てて物陰に隠れた。
ゲートキーパーだった。
「ドラクロアさん、いるんでしょ?」
俺の名を呼んだ?ドラクロアはその違いにすぐに気がついたが、それでも恐る恐る声をかけた。
「ゲートキーパーくん…なのか?」
「そうです…いや、正確には違います。」
ドラクロアは警戒して身を固くする。
「俺はあなたの世界線のゲートキーパーです…が、大村ユウジの干渉により大村ユウジの世界線のゲートキーパーの持っていた心を獲得しました。ここはあなたのいた世界の世界線です。」
そうか、さっきの目眩は緊張感じゃなくて世界線を転移したってことかとドラクロアは思った。
「あなたをユリシアの生きている世界線に転生させます…ユリシアを止めてください。」
ゲートキーパーの言葉を聞いたドラクロアは、その言葉が何を現しているのかすぐには思い至らなかったが、頭が理解するよりも前に感情が理解し、目から涙が零れ落ちた。
「大村…。」
ドラクロアは、自分の生前の後悔が精算できることを理解したと同時に、大村ユウジが成功したらどうなるのかを理解したのだ。
「大村ユウジは…?」
ドラクロアはゲートキーパーに訊ねた。
「俺にはわかりません。ただ悲しい気持ちがあるだけです。」
そう言うとゲートキーパーは魔法陣を杖でついた。
ユリシアは目を覚ました。
「どうして…?」
自分は自殺するつもりで毒を全て飲み干した。それなのに目が覚めた。生きている。
「マリア!馬車を出してちょうだい!」
ユリシアはドラクロアの元へ向かった。
「やあ!豪胆なお嬢様。」
ドラクロアはクローゼットの全てが部屋の床に散らばっている部屋でユリシアを迎えた。
「あなた、私に何を売りつけたの?」
ユリシアはドラクロアを睨みつけた。
「毒さ!1日6リットルくらい摂取したら命に関わるものだからね。」
「ふざけないで!何だったの?!」
ユリシアの剣幕をいなすように軽い口調でドラクロアは答えた。
「ただの水だよ。」
ドラクロアの言葉にユリシアは愕然とした。
「そんな…じゃあ私の計画はどうなるの?これじゃあお父様は…。」
「ユリシア。」
ドラクロアはユリシアの肩に優しく手を置き声をかけた。
「あんたは知らないかもしれないけど、俺は…あんたに助けられたんだ。」
「何を言ってるの?」
戸惑うユリシアを顧みずドラクロアは続けた。
「だから俺はあんたを助けたい。借りを作りっぱなしにしておくのは…友達…いや」
ドラクロアは大村ユウジに想いを馳せ言い直した。
「大切な人に、借りを返さないような人間でいたくないから。」
そしてユリシアに口付けをした。
「あの…えっ…はい?」
大村ユウジにキスをした時と同じリアクションのユリシアを見てドラクロアは思わず吹き出した。
「二人で、これからどうしたらいいか考えていこう。」




