第4話:焚き火の夜、言えなかった言葉
焚き火の明かりが、静寂の森にゆらゆらと揺れていた。
ふたりでいるのに、言葉はなかった。
けれど、それは気まずい沈黙ではなかった。
心の奥が、ぽたぽたと静かにあたたまっていくような、そんな時間。
「……不思議ね」
私がぽつりと言うと、レオがこちらを見た。
「どうしてかわからないけれど、あなたといると、泣きたくなるときがあるの」
「でも、それは悲しいからじゃなくて、心が……満ちていくような、そんな感じ」
レオは少しだけ目を伏せ、焚き火の火を見つめた。
「君の中には、たくさんの言葉がある。けれど今は、それをまだ口にしないでいるだけだよ」
「思い出せないことがあるのは、悪いことじゃない。むしろ、忘れてくれてよかったと……僕は思ってる」
私は驚いて彼を見る。
彼の横顔には、微笑にも似た、やさしい静けさが宿っていた。
「君が“今”を生きているなら、それでいい。
無理に過去を呼び戻さなくても、ここでこうしていてくれたら……僕は、それでいいんだ」
彼の声は、とても遠くて、でもとても近かった。
私は火の音に耳を澄ませながら、静かに目を閉じる。
“何か”を取り戻したわけじゃない。
けれど、“何か”が、確かにここにあると感じていた。
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