第2話:あの人の声を、私は知っている気がする
彼は、自分の名を「レオ」と名乗った。
背は高く、けれど威圧感はなく、森に似合わないほど整った外見をしていた。何より印象的だったのは、その瞳。私のことを、まるで知っているかのような眼差し。
「……ここに、ひとりで住んでいるのか?」
「猫たちと一緒に。……あなたこそ、どうしてこの森に?」
私の問いには答えず、レオは木々の揺れる音に耳を澄ませた。答えたくない、というよりも、何かを選んで黙っているように見えた。
「君のことを……探していた気がするんだ」
探していた“気がする”。
曖昧なその言葉に、私の胸は妙にざわついた。
私を知っているのか。
それとも、私が誰かに似ているだけなのか。
「私のこと、知ってるの?」
「……そうだったら、どうする?」
少し笑ったその表情が、ひどくやさしくて、私の中の何かが揺れた。
知らないはずの声。
でも、懐かしい気がする声。
「教えてほしい。……私が、どんな人だったのか」
そう言った私を、レオは見つめたまま答えなかった。
ただ静かに、ひとこと。
「今の君が、全部でいいと……僕は思ってる」
心の奥で、何かが溶けていくような気がした。
けれど、そのやさしさの奥に、なにか大きな嘘か、秘密があるような気もして。
私は、記憶をなくす前の自分が、
この声に恋をしていたんじゃないか――そんな予感に怯えた。
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