あなたの頭が悪いのは、あなたのせいであって私のせいではありません。【婿入り編】
ソネット男爵令嬢は、金色のドレスで現れました。
結婚式は白、披露宴は青、そして晩餐会は……と。
本日3度。
わたくしと被りの色のドレスに、お色直しをしておりました。
しかも晩餐会の衣装は、わたくしとほぼ同じデザインな上、ソネット男爵令嬢の方が派手というか目がチカチカする仕様となっておりました。
招待客も終始、戸惑った表情でした。
前代未聞でございます。
彼女は新婦ではありません。
しかし妊婦ではありました。
ポッコリした腹を、これ見よがしに抱えてノッソノッソと近付いて来ます。
きっと彼女を見るたび視力が低下するのは、金ピカドレスの面積が多いからでしょう。
この半年で横幅が2倍になられました。
隣にはセルジュ元王子をぶら下げて(比喩)います。
わたくしは招待客の見送りを終え、休憩のためバルコニーにおりました。実家です。
我が家に婿入りしたセルジュは、王子から公爵子息になり、わたくしは公爵子息夫人となりました。
「あなたは子供を産まなくていいわ。
私が跡取りを産むから。
その代わり、セルジュ様の分の仕事もやってちょうだい」
「今日から俺が当主でメリアンが女主人、おま──ローズハートは使用人だ。
間違えるなよ?」
このドヤ芸人達には、何からツッコんでいいのかわかりません。
わたくしが黙っているのを了承と受け取ったのか。
「せいぜい夫婦の寝室で、1人寂しく待ってなさい。
後で私達が行って『お前を愛することはない』宣言してあげるわ。
ウフフフフ。あ~楽しみぃ~」
「宣言が終わったら俺達で寝室を使うから、おま──ローズハートは使用人部屋で寝るがいい。
最低限の荷物は後で運んでやる。
ああ、分不相応のものはメリアンにやるからな。
今後は使用人として生きるのだから、宝石をつけることなど許さん」
「殿下ぁ~嬉しいけどぉ~、この人のお古は嫌よぉ~」
すでにその男が、わたくしのお古ですよ。
「そうだな。
じゃあ売って新しく買おう」
「やったぁ~」
「おい明日、商会を呼ぶ手配をしておけ。
わかったな」
「俺に、こんなことしてタダで済むと思ってるのか?!」
鉄格子越しに喚くのは、戸籍上の夫セルジュです。
場所は、使用人部屋エリアの中でも最奥の懲罰房。
窓に格子が嵌まっており、ドアは外からのみ鍵をかけられる仕組みになっています。
広さは2平米でベッドとオマルがあります。他は何もありません。
服は荷物運搬用の麻袋を切って作った薄茶のワンピースで、下着は支給しませんでした。
従ってノーパンで騒いでいます。
「逆に聞きますが、どうしてこうならないと思っていたのですか?」
不思議すぎます。
「俺は王族だぞ?!
こんなこと母上が知ったら、お前なんか処刑だからな! ただ殺したんじゃ足りないから拷問し──ああああああっ」
格子を掴んでいた手に、熱した石を押し付けたら喋らなくなりました。
その代わり呻いているようです。
それとソネット男爵令嬢の荷物が何故か我が家に送られてきたので、セルジュの物と一緒に売り払いました。
不貞と侮辱と乗っ取り計画の慰謝料には足りなかったので、今後は働いていただきましょう。
5年後。
「この資料を明朝までに、まとめてちょうだい」
金髪を7:3に分けた眼鏡の従僕が、紙束を受け取ります。
「はい、奥様。
明日の会議は11時からで昼食を挟みます。
お疲れでしょうから、甘いサンドイッチを用意しましょうか?」
「そうね。ありがとう。
気が利くわ、セルジュ」
「いえ、この程度、当然のことです」
わたくしの執務室で補佐を務めるのは、元王子セルジュです。
懲罰房で3年。
ひたすら作業を極めた彼は、この世の真理に目覚めたそうです。
というのも、禁書・閉架図書・絶版書籍など印刷所に持っていけない物を1000冊ほど書き写させた結果、ハイレベルなインテリになりました。
城で彼についていた教師陣は、王族に忖度して彼を甘やかし、ろくに勉強させなかったようですね。
今となっては、わたくしの立派な右腕です。
表向きは夫となっていますが、実質は下僕です。
ソネット男爵令嬢は、赤子の授乳期が終わると同時に処分しました。
産まれた男児は王家直系の血をひきますので、彼女を生かしておくと将来、国母になってしまう可能性があります。
もし、そんなことになれば国は破綻するでしょう。
わたくしは2人目の子を妊娠中です。男児なら、将来ウィルネス公爵となります。
もちろん父親は、セルジュではありません。
□婿入り篇完□