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『レオス殿下はやがて聖女様を見いだされる・・・聖女様は、真実の愛に目覚めて覚醒するでしょう』
レオスが6歳の時、偉大なる預言者である全盲の大神官より授けられたそのお告げは、おそらくメルクリア王国の人間であれば誰もが誦んじてみせるほどに有名な文言である。
聖女を見つけ出す為、レオスは何人もの女性と恋仲となり別れを繰り返してきた。
別離を突き付けられた女性は聖女ではないと判断され、真実の愛を見いだせなかったレオスはまた別の女性に聖女としての可能性を見出さなければならない。いつしか誰かが悲劇の王子と呼ぶようになった。
この一連の流れは果たして、本当に神のお告げに従っただけの行為だったのか。
もしも、アンシィが尋ねた問いかけに、否と答えが出ているとしたら?
誰もが固唾をのんでアンシィの次の言葉を待ち望んだ。永遠にも感じられる一瞬を経て、アンシィは告げた。
「『わからない』大神官様はそうおっしゃいました。『レオス殿下であるかもしれないし、他の方であるかもしれない・・・神はそれを明らかにはされようとしなかった』と」
どこからともなく深く息を吐く音がいくつも聞こえる。レオスは早鐘のように鳴り響いていた鼓動をなんとか落ち着かせると、気を取り直したように口を開いた。
「む、無用な問いかけだったのだな、アンシィ・・・そうだ。私の背負った宿命と、いままで苦悩し傷つきつつも成し遂げてきたことは無駄ではなかったんだ。何故なら、何人もの女性と出会い縁を結んだからこそ、私はアンシィへの真実の愛に辿り着けた。アンシィ?もしかしてだが、最初から聖女である君を忘れて、他の女性たちと仲を深めた私に悋気を起こしているのか?それにしてもこんな」
「そのような覚えは一切ございませんわ」
ピシャリと跳ね除けたアンシィもまた、張り詰めていたのか息を小さく吐き出すと、
「私にとって、大神官様のお答えは決して無用などではありませんでした。確かに、殿下は聖女を見つけ出す才を神より与えられておりましょう。しかし、その聖女の真実の愛で結ばれる相手が、殿下であるとは限らなかったのです。現に私が心よりお慕い申し上げているのはゼノン様であり、殿下への気持ちは・・・欠片たりともございませんもの」
「!!!」
冷たいアンシィの言葉が響く。
あまりのショックに、レオスはその場に膝を突いてしまった。
「そ、そんな、馬鹿な・・・」
アンシィはレオスのことを愛してはいなかった。聖女の覚醒に必要とされる真実の愛とは、相手がレオスでなくてもよかったのだ。
「そ、それでは・・・私が今までしてきたことは?こんなにも苦しんできたのは、なんの為だったと言うのか」
これまでの出来事が走馬灯のように頭を駆け巡り、レオスの美しいサファイアブルーの瞳から堪えきれずに涙が溢れる。
聖女を、真実の愛を探し求め、宿命に翻弄されたまさに悲劇の王子のようだと、見ていた一部の夫人や令嬢たちは少なからず思ったのかもしれない。痛ましげな視線がいくつかレオスに注がれたが、
「ああ、気分が悪いこと。これ以上は見ていられませんわ」
その時、ゼノンとアンシィの背後から、高らかな声を上げて一人の女性が現れた。
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