表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/34

2




レオス・メルクリア第4王子とかの伯爵令嬢の破局の事実は瞬く間に王国中を駆け巡った。




今年で20歳となるレオスが恋人と別れるという出来事は、テオドラ嬢で通算6度目になる。

それを聞いた王国に住まう者たちは一様に失望し、また深い落胆を覚えた。


王族でありながら平民のような自由恋愛を公然と繰り返すレオスに対してではない。


どちらかといえばテオドラ嬢にであり、更に厳密に言うなら彼女が()()()()()()()という事実にショックを受けたのだ。このメルクリア王国に聖女がまだ現れない、という悲しき現実に。



聖女とは命ある全てのものを癒す神の御使い。


人々の苦しみや悲しみの声が大きく世界を満たすとき、神が救済のために遣わしてくれる奇跡の存在である、と古くから信じられている。


怪我や病を治し、どんな猛獣とも心を通わせ、天候を自在に操り、植物の成長にすら干渉できる・・・まさに神のような力をもつといわれる聖女。

メルクリア王国ではここ十数年、幾度となく各地で大規模な天災被害に見舞われており、長雨や干ばつの影響で歴史的不作を記録する年が何度もあった。

それらの度に生活の困窮を経験してきた者たちは何よりも聖女の出現を今か今かと渇望していた。



レオスが6歳のとき。彼は偉大な預言者として知られる全盲の大神官より神のお告げを授かった。



『レオス殿下はやがて聖女様を見いだされる・・・聖女様は、真実の愛に目覚めて覚醒するでしょう』


『聖女さま・・・ぼくが?』


その瞬間、レオスの人生は激変した。


現メルクリア王の4番目の王子として生まれたレオスは、当時あまり気にかけられるような王子ではなかった。

天使のように美しい容姿をしていたが、それ以外特に秀でたところはなく、歳の離れた出来の良い兄たちが既にいたこともあり、国王はもとより誰からも期待されることなく隅に放られていたような存在だった。


レオスの母が貧乏な男爵家出の第二側妃ということも大きな要因だろう。


第二側妃である母ロメーラは国王がまだ王太子にして王立学園の学生であった頃、恋仲となった女性である。


当時、2人はいくつもの障害を乗り越え身も心も深く結ばれたものの、ロメーラに国母となる資質はなく、それでもロメーラを王太子妃へ押し上げられるほどの後ろ盾となる実家の力もないも同然だった。

彼らが恋仲になる前から婚約者であった公爵令嬢が予定通り王太子妃となり、先王が大病を患って寝たきりになってしまったのを機に王が即位するとそのまま王妃へ。


その後、まだ存命だった先王の厳命により国王と王妃との間に王子が生まれるまでロメーラを側妃として召し上げることは禁じられた。


即位して数年、なかなか子を授からない王妃に国王は側妃を持つことを半ば強引に決定したが、側妃となったのはロメーラではなく王妃の父である宰相一派が推挙した侯爵令嬢であった。

側妃の元に長子である王女が生まれ、それから間も無くして王妃がついに王子を産んだ。

ロメーラが側妃となるまでに、彼女が恋に落ちた時から実に10年の歳月が流れていた。


それほどの年月を経てもなお、国王はロメーラをいつまでも強く想い続け切望し、これこそが真実の愛である、と久方ぶりに閨を共にしたロメーラに熱く語ったという。



『やっぱり、あたしと陛下は真実の愛で結ばれてたんだ・・・』


レオスが授かったお告げを聞き、ロメーラは歓喜に打ち震え、一度も祈ったことのない神に心からの感謝を捧げた。



離宮から王宮へ母と共に居を移され、父である国王は『これでようやく愛する家族が水入らずに暮らせる』とロメーラと熱い口づけと抱擁を交わし、レオスを『お前は私の自慢の息子だ』と生まれて初めて頭を撫でてくれた。

王子とはいえ質素な離宮での暮らしとは比べ物にならないほど贅を尽くした生活が始まり、上の兄達と同等の教師陣が用意され、レオスは手厚い教育を受けるようになった。


また、新たに名門のプネウーア侯爵家がレオスの後見役に名乗り出た。

かの家は代々神官を多く輩出してきた一族であり、神の御使いである聖女に対しての信仰心は殊更篤い。

それに伴いレオスと同い年の侯爵家長女・アンシィが婚約者として選ばれた。


初めて対面したアンシィは真っ白な肌に透けるようなブロンドヘアと菫色の瞳を持つ儚げな風貌の美少女で、どこか恥じらうように微笑むアンシィがレオスの目にはキラキラと輝いて見えた。

レオスは誰に言われずとも()()()()



(この子が大きくなったら・・・聖女になるんだ)


それから順調に交流を重ねていった二人であったが、レオスは年を経るごとに違和感を抱くようになった。


(アンシィが、ぼくの()()()()で結ばれた人なんだろうか?)


いつもレオスを気にかけ、何事も上手く運ぶよう多方面に配慮してくれる幼いながらによく出来たアンシィに、レオスは確かに好感を持っているが、それが果たして真実の愛といえるのだろうか、と。


(父上と母上の燃え上がる様な愛はよく知っている・・・幾多の困難の末にぼくを授かった、父上も母上もそれこそが真実の愛であり、奇跡というけど・・・ぼくとアンシィの間には、そんな運命的なものはない)


レオスは愕然とした。それでは真実の愛には辿り着けない。真実の愛がなければ聖女が覚醒することはできないのだから。



『・・・ねえアンシィ。君とは、真実の愛で結ばれていない、と思うんだ』


思い詰めたレオスは、アンシィに打ち明けてしまった。自分たちが両親のような仲にはなれないこと。燃えるような愛を育めないだろうことを。


普通の王子であれば、それでもいいのかもしれない。でもレオスは違う。

神のお告げを授った、この地に聖女が現れるためには()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな宿命を背負った王子なのだ。



『殿下の・・・お心に、従います』


しばらくの間を開けて、アンシィは悲しそうに、だがレオスの思いをいつものように従順に受け入れてくれた。


次いでレオスは両親にもそのことを伝えた。叱責されるだろうことを覚悟していたが、


『レオス・・・お前の決断を誇りに思う』

『そうだよ、さすがはあたしと陛下の息子よ・・・!レオス』


アンシィの父であるプネウーア侯爵もまたレオスの決断をすんなり承諾した。


『不肖の娘ではなるほど、殿下の()()()()により結ばれる相手としてふさわしくはありますまい。・・・いや、どうかお気になさらず。我らは変わらずレオス殿下をお支えしていく所存。殿下がやがて見いだされる聖女様こそ、この地に住まうものの悲願なのですから』



それから、レオスの聖女を探すための、()()()()()()()()()()()と巡り合うための日々が始まったのだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ