悲劇の王子レオス・メルクリア
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「テオドラ・・・君との交際を終わりにしたい」
テオドラの幸せそうな笑みが不自然に固まる。
巷で王都一と評判のカフェ。
賓客専用の個室に呼び出されウキウキと弾むような心持でやって来たというのに、恋人であるレオスより別れを切り出されたのは、席に案内され二人きりになってすぐの事だった。
「レ、レオス様?・・・一体なにを?あ、わ、わたくしの聞き間違いでしょうか?」
「だってそんなはず」おどけたように必死に続けた言葉をレオスは冷たく遮った。
「聞き間違いではない。私は君と別れる」
「っ!!」
決定事項として告げたレオスに、テオドラは鋭く息を呑んだ。
いつもはうっとりと見惚れるはずのレオスが持つ王家特有のサファイアブルーの双眸も、見たこともない凍てついた光を宿しているよう。
しかし、こんな風に別れを切り出される訳がテオドラには全く思い当たらなった。
別れを告げられた今この瞬間まで、王国の誰よりも熱く愛し合う仲だとテオドラは信じていたのだから。
遠く住み飽きた領地を離れ王都にある貴族女学院に通い始めた15歳の春。伯爵令嬢のテオドラがレオスと出会ったのは王立美術館を訪れていたときのこと。
『―きみは、真実の愛を信じる?』
ふとかけられた美声に振り返ると、そこにいたのは我らがメルクリア王国第4王子のレオスであった。
かつて幾度か遠くから見たことのある高貴なる御方が目の前にいる。テオドラは信じられない思いで高鳴る胸を抑えた。
絹のようなプラチナブロンドの髪にメルクリア王家の証・サファイアブルーの瞳。均整の取れた肢体に精緻な顔立ち。
それまで鑑賞していた美麗で荘厳な天使画から抜け出してきたような、神秘的な美しさを持つレオスにテオドラは陶然としたまま頷きを返し、
『ええ。あなた様が・・・そうなのですね?』
差し出された手に震えながらもそっと手を重ねた・・・あの日から約半年。
二人の仲が深く確かなものになっていく幸せな日々。
贈られる高価なプレゼントの数々、惜しみなく与えられる愛の言葉。
お茶会や夜会に二人で仲睦まじく参加しては、年ごろの令嬢たちをはじめとした多くの貴族たちに羨望と嫉妬の眼差しを向けられどれほど自尊心が満たされたことか。
テオドラの両親もレオスに選ばれた娘を大いに誉めそやし、期待していた。つい先日などはそろそろ婚約でも・・・と話していたというのに。
(なにより・・・っ)
テオドラは挫けそうになる気持ちを奮い立たせてキッとレオスを見つめ返すと、
「あ、あんまりなお言葉でございます・・・レオス様!わたくしは、レオス様を真に愛しているからこそ、先日あなたさまにっ」
だが、そんな必死の言葉もまたレオスは冷静に遮った。
「君が今更何を言おうと、変わらない。私と君は別れる。いや、別れなければならないんだ」
「なにを」
「私にはわかってしまったんだ・・・・・・・・・君が聖女ではないということが」
「・・・レオス、さま」
それまで熱くなっていた頭に冷水をかけられたようだ。
絶望に目を見開いたテオドラの頬に涙が一筋伝っていく。レオスの顔にも気付けば悲痛な色が浮かんでいた。
「どうかわかってくれ。これも私が背負う宿命なのだ・・・」
そう言い残して、レオスはテオドラを一瞥することなく去って行った。