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1kg_メタボリックシンドロームよ永遠なれ

気分転換に書いてみました。

どうぞゆっくり読んでいってください。

時は西暦2〇〇〇年。


突如現れた秘密結社メタボルン。


彼らは全ての人類をメタボリックシンドロームにするべく、征服した地域の人たちに塩分や脂肪分、糖分の過剰摂取を強要した。


その結果、世界人口の実に7割がメタボになるという未曽有の危機に見舞われた。


人類は全員メタボになるしかないのか。


誰もが諦めかけたその時、6人の男女が立ち上がった。


後に「スリムシェイプシックス」と呼ばれる彼らは独自のトレーニングと食事療法により、各地でメタボに苦しむ市民を健康体へと導いた。


同時にメタボルン構成員にフィットネスの良さを説いて回り、その勢力を抑え込んでいったのだった。




とある街にて。


「おら! マヨネーズを飲むんだ! あと10本だぞ!」

「ひいぃぃぃ! も、もう止めてくれぇぇぇ!」


「まだまだ足りないだろう? このショートケーキの”イチゴ無し・スポンジ抜き抜き”をもっと食べろ!」

「生クリームだけじゃ辛いわ……もう許して……」


「ハッハッハッ!!! もっとだ! もっと人類をメタボにするのだぁ!」


全身黒タイツ姿。

お腹がでっぷりと膨らみ、頭頂部のバーコード禿がてかり輝くこの人物こそ。、秘密結社メタボルンの総帥にしてメタボの頂点。


『オルガンス・ファットマン』


彼は、

「人類すべてがメタボになれば、健康診断で恥ずかしい思いをすることも無くなる」

という信条のもと、同士たる構成員達と共に、市民がメタボになるよう次々と肉体改造を施した。


今まさに、メタボルンによって不健康な食生活が強要されているこの街の住人も、全員メタボになる日は近い。

そう思われていた時だった。


「それ以上の狼藉は止めるんだ!」

「誰だ!」


どこからともなく現れた6人の影。


無駄な贅肉をそぎ落としたマッスル。


しなやかでスリムなボディ。


お腹に輝くシックスパック。


その健康的なシルエットは、まさにメタボルンにとって忌むべき存在。


「出たな。スリムシェイプシックス! 今日も俺たちの邪魔をする気だろうが、そうはいかんぞ! おい! お前達!」

「イー!」


スリムシェイプシックスの前に立ち塞がる、メタボルン構成員達。

彼らは横一列に並ぶと、ポッコリお腹を突き出した。

全員1ミリたりとも誤差が無い同じウエストサイズは、日々の鍛錬の賜物である。


「やーっておしまい!」

「イーーー!!!」


オルガンス・ファットマンの号令により、構成員達はお腹を揺らし、溢れる油汗を撒き散らしながら、スリムシェイプシックスに突撃する。


迫りくる構成員達に対して、スリムシェイプシックスは冷静に待ち構える。


そして。


「みんな! 今だ!」


リーダーであるレッドの呼びかけと同時に、メンバーがそれぞれ構えをとる。


「「「「「「脂肪吸引ビーーーーム!!!」」」」」」


「「「あびゃぁぁばばぁ!!!」」」

「え!? ちょ、ちょっとぉ! こっちに来ないでッアブゥ!!!」


スリムシェイプシックス達が放ったビームによりメタボルン構成員は吹き飛ばされ、そのうちの一人がオルガンス・ファットマンに直撃した。


脂肪吸引ビームの直撃により、メタボルン構成員たちのお腹に蓄えられた内臓脂肪はみるみる消滅してしまい、全員がエネルギー切れでまともに動けなくなってしまった。


「きょ、今日のところは見逃してやろう! 行くぞ! お前たち!」

「「「い、いーーー……」」」


オルガンス・ファットマンはメタボルン構成員達を抱えて逃げて行く。


突然の出来事に、街の住民たちは何が何やらといった様子だ。


「さぁ、皆さん。もう大丈夫ですよ!」


メタボルンが逃げ去り、スリムシェイプシックスメンバーの爽やかな笑顔を見た市民達は、ようやく街に平和が訪れたと安堵した。


「ありがとう! スリムシェイプシックス!」

「これでもう悪玉コレステロールとはおさらばだ!」


「みんな! これからは野菜をいっぱい食べてくれ! サラバだ!」


市民の完成を背に受け、スリムシェイプシックスは颯爽と去ってゆく。




市民の健康を取り戻したメンバーは、本拠地である「スリムシェイプシックス本部」へと戻ってきた。


その一室にメンバーが集合する。

リーダーのレッドは室内に入ると、ヘルメットを脱いで一息吐いた。


「ふぅ……あのさぁ、"2世さん"。やられた時にもうちょっとオーバーにリアクションとってよね? あれじゃあインパクトが足りないじゃん」

「あ、そ、その。すいません。次は、頑張りますんで……」


「てゆーか、メッチャ汗飛んでるんだけど? やめてよね? マジで」

「あ、は、はい。気をつけます……」


「"2世"さーん。サラダバーガーのセットを買ってきてよ。プロテインはバナナ味、バーガーはバンズ抜きでよろしくー」

「あ、え、えと。わかりました……」


かなり年下の若者にペコペコしている、うだつの上がらなさそうな中年男性が忙しなく動き回っている


衣装こそ違うが、頭頂部の光輝くバーコード。

内臓脂肪をたっぷりとため込んだでっぷりお腹。


そう。

この人物こそ、先ほどやられていた秘密結社"ネオ"・メタボルンの総帥にして、オルガンス・ファットマン"2世"だ。


そして、今は部屋の隅で縮こまっている彼に悪態をつく者達が、"新"・スリムシェイプシックスなのである。


なぜ敵同士であるはずの彼らが一緒にいるのか。

そしてなぜ、"2世"や"新"なのか。


それを説明するには、時間を遡る必要がある。




30年前。

先代のスリムシェイプシックスは、ついに秘密結社メタボルンの本拠地に突入し、壊滅的なダメージを与える事に成功していた。


秘密結社メタボルンは完全壊滅こそ免れたものの、資金、人員など全てにおいて枯渇し、もはや再起は不可能となった。

総帥である、オルガンス・ファットマン本人は捕らえられ、絶海の孤島にある「アブラトラズ監獄」にて、強制トレーニングと過酷な食事制限を科されていた。

実質的に秘密結社メタボルンはすでに壊滅しているのである。


だが。

人類の努力によりメタボ人口は減少を続けているものの、メタボルンが残した爪痕は深い。

歳月を重ねても、未だ世界人口のおよそ4割がメタボに苦しんでいた。


世界が元に戻るにはまだまだ時間が必要だったが、中にはメタボリックシンドロームの後遺症である”オイルショック”に苦しむ者も多い。

毎日のように食べる野菜だけのサラダとプロテイン、終わりの見えないトレーニングに、人々は心が折れそうになっていた。


人類には希望が必要だった。


そこで苦肉の策として考案されたのが、スリムシェイプシックスの復活である。


だが、当時活躍していたメンバーは、今や最も若い者で40代。

プロパガンダに利用するには年を取りすぎていた。


そこで、世界から選りすぐりのフィットネスを持つ男女6人が選ばれ、

「新・スリムシェイプシックス」としてデビューした。


それに合わせた敵役として、細々と活動を続けていた秘密結社メタボルンを、"秘密結社ネオ・メタボルン"として復活させ、新・スリムシェイプシックスの活躍を強調して人々のモチベーションを維持するため、各地でピエロを演じていたのである。


その秘密結社ネオ・メタボルンを統べる為、"オルガンス・ファットマン2世"に選ばれたのが、彼であったのだ。


田原たばる 丸男まるお

48歳

高卒

独身


高校卒業後に秘密結社メタボルンへ入社したものの、直後に結社が壊滅同然となり、夢の高給取りから一転。

初任給30万のはずが、13万。

成績次第では年収1000万も夢では無いと言われていたのは幻か、30年真面目に勤めた今まで昇給など一度もない。

イベントなどのヒーローショーで悪役として派遣される仕事だけを続けていた。


丸男のもとに、秘密結社ネオ・メタボルンとオルガンス・ファットマン2世の話が来たのは、そんな時だった。


しかしながら、今更悪の組織として真面目に活動する気力は無く、当初は断ろうとしていたものの、政府から圧力がかかった為、仕方なく悪役の活動を再開した。


1日5回の食事を、全てヴィーガンメニューに変えられるなど、たまったものではない。


だが待遇は秘密結社メタボルンに"ネオ"が付いた現在でも変わらない。

加えて、新・スリムシェイプシックスのメンバーは年収1000万超えであり、そんな若者達に顎で使われる毎日。


正直、丸男は限界を感じていた。


「とは言え。他に仕事の当てがある訳ないですし……」


転職をしようにも、自分がメタボルン勤務と知られるや、どの企業でも門前払いをされてしまう。

待遇に不満はあっても、丸男は今の仕事を続ける他なかった。


何度目かも分からない溜息を吐きつつ、丸男は静まり返った夜道を歩いていた。


と、その時。

道端に人が倒れているのを見つけた。

暗くて最初は分からなかったが、近づいてようやく分かったのだ。


「だ、大丈夫ですか!?」


丸男はその人物を助け起こそうと手を伸ばした。

しかし。


「マッソゥ!」

「どひょほほ!」


倒れていた人物がいきなり飛び起きた。

驚いた丸男は後ろへよろめき、その場に尻餅をついてしまう。


「いたたたた……」

「む? おぉ! これは失敬、驚かせてしまったな。大丈夫か?」


男性が差し出してくれた手を、丸男は自分の手汗を念入りに拭いてから掴み、立ち上がった。


「ど、とうもすいません。というか、あ、あなたこそ大丈夫ですか? 倒れていらっしゃいましたが……」

「倒れていた? ノンノン! 俺はマッソゥの鼓動を聴いていたのさ!」

「ま、まっそぅの鼓動?」


目の前のタンクトップ姿の男は、自らの隆々とした大胸筋をピクピクさせつつ、丸尾には到底理解できない話を始めた。

男の言っている事は全く理解できないが、丸男は適当に相槌を挟みつつ話を聞いてしまっていた。

早く帰りたいが、完全にタイミングを逃してしまった。

悲しいかな。

丸男は勢いに弱いのである。


「そう! 俺はこの大地が持つ、"マッソゥパワー"を全身に感じていたんだ」

「は、はぁ……」

「その鼓動から教えて貰ったんだ! 俺たちの新たなマッソゥメンバーが来ると!」

「そ、そうなんですね……」

「そうして俺たちは出会ったという訳だ!」

「な、なるほど……」

「よし! じゃあ行こうか!」

「え、えぇ。ではこれで失礼します……」


いつ帰るキッカケができるかと、頭の中でそれだけを考えていた丸男だったが、「行こう」という単語が聞こえた瞬間安堵し、そそくさと去ろうとした。


「どこに行くんだ? 君も一緒にくるんだよ」

「はぁ……え!? 何の事です!?」


いきなり話を振られて理解が追い付かず、思わず聞き返してしまった。


「おいおい……聞いていただろう? 君はもう俺たち”ダイナマイト・マッソウ”のメンバーだよ? もっと嬉しそうにしてくれても良いんじゃないかい?」

「い、いえ。私は……」

「遠慮するな! よし、行くぞ!」

「え!? ちょ!? どこへ行くんですか!? 止めて! 家に帰らせて下さーーーーーーーぃ……」


こうして丸男は、男の盛り上がった肩に軽々と担がれ、深夜の住宅街で拉致された。


丸男の悲壮な叫びだけが、静まり返った住宅街に響き渡る。

最後まで読んで頂きありがとうございます。


続きは考えておりませんが、評価を頂いたら書くこともあるかもしれません。

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