第5章 取材班、暴走
『なにぃ!? 水質などに異常はないから、もうキャディを解剖するしか事件の原因を探る方法はない!?』
連絡するなり、ウチのリーダーの大声が聞こえてきた。
ウチの団体が、かつて『地霊教団ガイア』と呼ばれていた頃から、現在の文明を崩壊させるため、改造されたEMP兵器などを使ったテロを計画していた過激派を止めんと、水面下で奮闘していた穏健派のトップである入野真司さんだ。
ちなみに、その事件は。
人類防衛機構が使う機器にも通用するEMP兵器を開発するために必要なデータを奪うため、人類防衛機構の使う機器を開発してる協力会社に侵入したが、残念な事に警備員に捕まってしまった……そんな同胞を救うために、俺や入野さんを始めとする穏健派を監禁した上で、改造EMP兵器を使ったテロを、前倒しという形で引き起こした過激派が、人類防衛機構の活躍により御用となった事で終結した。
そしてその後『地霊教団ガイア』は、入野さんを中心として、まずはこの地球の多くの事を知るための教団である『学術教団ガイア』に生まれ変わった。
そして今回俺は、再び起こったシーサーペント事件により、どんな反応をするか分からない、ガイアを始めとする環境保護団体の代表として、人類防衛機構に頼み込んで同席しているのだ。
支局長さんは渋い顔をしてたが、最終的には納得した。
人類防衛機構としては、一般人と揉め事を起こしたくない一方で、一般人を危険に晒したくないだろうから……そんな顔をするのも無理はない。
だけど世間には、餅は餅屋ということわざがある。
自然保護団体への説明は、同じ自然保護団体が、解りやすいようかみ砕いた上でした方がわだかまりが残りにくいのもまた事実、という事だ。
だからこそ、支局長は俺をこの場に置いているのだ。
「拠点にしてる仮設テントにいる学者がそう言ってました。キャディでなくクジラの話になりますが、クジラの迷い込みの原因の一つが寄生虫ですから、同じ原因でキャディが暴れている可能性もあるかもしれないそうです」
『…………そうか。ああくそッ! ウチはともかく……他の環境保護団体の中にはウチの前リーダーと同じ過激派な団体もあるってのに。どう説明をすれば人類防衛機構に喧嘩を売ろうだなんてアホな行動をせんようにできるんだッ!?』
人類防衛機構は、とても強力な組織だ。
今まで多くの犯罪組織……以前のガイアなどが、人類防衛機構にも多少の手痛い犠牲はあっただろうが、それでも最終的には犯罪組織が潰されている。
悪の栄えた試しはないと誰かが言っていたが、それを体現するかのような結果を人類防衛機構は連続で残しているのだ。
もはや人類防衛機構は、一部の犯罪組織にとっては恐怖の対象と言ってもいい。
そしてそれは、一度潰された経緯からウチの教団も重々承知しているのだが……一度痛い目を見なければそれを理解できないような過激派はまだ、いるのだ。
以前のガイアが起こした事件のせいで、ウチの教団は世間には危険視されているから……早いところ、俺や入野さんのような、この地球の事を真剣に考えている人もいるんだって事をみんなにも知ってほしいと思っているんだg――。
「…………ん?」
そして入野さんと一緒になって、そんな過激派――ウチとしては同胞とも言える環境保護団体をどう宥めるかを考えていた時だった。
地元のTV局のロゴがついたヘリコプターが浜名湖へ飛んでいくのが見えた。
※
「みなさん、ご覧ください! 昨年に現れたシーサーペントが、再び浜名湖に出現しています!」
私の名前は早出聖子。
浜松市某所にあるTV局のレポーターだ。
数分前に私は、私の情報源の一人である、浜名湖の近くに住んでいる方に、シーサーペント再来の報を聞かされ、チームを組んでいる撮影クルーと共にすぐに行動を起こした。
シーサーペントが最初に現れた昨年はなにやらいろいろあり、多くの情報が手に入らないまま事件が終わってしまったため、視聴者に事件の全貌をお伝えする事ができなかったが今回はそうはいかない。
いつシーサーペントが現れてもすぐに行動に移せるよう、浜名湖の近くに住む方に情報源になってもらい、そして一報が来るなりすぐ出発したのだ。
ウチのトップがカンカンかもしれんが知った事か。
視聴者はリアルタイムで明かされる真実を求めているんだ。
そして私は、その視聴者のために動いている。
人類防衛機構は場合によっては、視聴者の事を考えて情報操作をするようだが、真実を本気で求める視聴者にとってそれは余計なお世話。
そしてそんな視聴者がいるからこそ私は……より正確な情報を届けるために体を張っているんだ文句あるかこの野郎!?
「見たところ……人類防衛機構のみなさんがシーサーペントのヘイトを買う事で、浜名湖の魚介類へと攻撃が加えられないようにしているようですが、どうやらシーサーペントはシーサーペントでなかなか捕まらない模様です。さすがは、海の生態系の上位に存在しているとも言われているシーサーペントでしょう、か……あっ、みなさんご覧ください、シーサーペントの一匹がこちらに顔を向けています!」
おっと、レポートしているとシーサーペントの一匹が、幸運な事にウチのカメラに顔を向けたようだ。
顔より下の部分は水中にあるから……どんな姿形かは分からない。
だが、顔だけ見ると発足間もない映像制作会社『丸川プロダムション』がかつて英国と共同で作った映画『深海作戦ZERO』に登場したファシスト製のロボット兵器こと『鋼鉄海竜レヴィア』に似ている。
前にネットで画像検索して、その画像を見たから間違いない。
まさかそのレヴィアと同じくロボットじゃないだろうか……とふと思う。
いや、レヴィア同様ロボット……それもどこぞの犯罪組織が造った物であるならば、兵器の類が搭載されているハズ、だが……。
いやそんな議論はともかく。
当事者なシーサーペントの一匹がせっかくこちらに顔を向けたのだ。
「せっかくなので、少し近づいてみましょう!」
私は操縦士に提案した。
操縦士もまた私の仲間なのですぐに無言で頷く。
そして、ほんの少しだけシーサーペントにヘリを近づけた……その時だった。
謎の衝撃と共に。
視界が突如反転した。
※
「なぜここでTV局の取材班が出てくるッッッッ!?!?!?!?」
学術教団ガイアの代表者が外から帰ってくるなり告げた事実を、テント内にいる人間の内の数人が外に出て確認するなり……支局長の雷が落ちた。
その場にいる誰かへの怒りではない。
出るなと連絡したのに現場に出たTV局の人間への怒りだ。
「もしかすると、その連絡が届く前に出たのかもしれませんね」
八幡教授は、支局長の怒りを間近で見て顔を引きつらせながらもそう言った。
よくもまぁ、顔を引きつらせつつも意見が言えるな……八幡教授の精神性が特殊なせいか。
「そうすれば、もし後で注意を受けても言い訳できますし」
「フザけるな!! フェイクニュースが流れて市民が混乱する事態を避けるためにも連絡したのに!! 平口大佐、改めてあのヘリのロゴのTV局へ連絡を――」
そして再び、その場に雷が落ちた時だった。
突如そのヘリコプターが浜名湖へ墜ちた瞬間を見たのは。
私を含めたその場にいるみんなが思わず唖然とした。
だが支局長はいち早く我に返り「作戦行動中の局員へと、ヘリが墜ちた地点からキャディを引き離すよう指示を!」と指示を出した。
「手の空いた局員にただちに救助に向かわせる! それからキャディの近くでホバリングさせていたドローンのカメラ映像をすぐに確認しろ! あのTV局への連絡も忘れるな! 撮影した映像を記録しているかもしれん! もしかするとキャディの能力がカメラに映っている可能性もある!」
支局長の指示に、仮設テント内に残った防人の乙女達が「了解!」と答える。
そしてすぐに彼女達はそれらの指示を遂行し……五分と経たずに、まず人類防衛機構の使うドローンの方の映像が届いた。
外に出ていた私や支局長達が、仮設テント内にすぐに戻り映像を確認する。
結構遠くから撮影された映像だ。
人類防衛機構の使うカメラなのでそれなりに鮮明な映像が映っているが……それでも、遠くて墜落の前後で何が起こったのか分からない。
「三十秒戻せ。そこからスローで……キャディとヘリの間の空間をズーム。画像が荒いな」
支局長が、映像解析班に次々と指示を出す。
だがそれでも、ヘリがキャディに何をされたのか分からな――。
「支局長! 映像が届きました!」
するとその時、ようやくTV局の方から映像が届いた。
届いた事を報告した映像解析班の防人の乙女が、映像を再生する。
馬とラクダを足して二で割ったような顔がドアップで映っている。
そんなキャディが、口をほんの少しすぼめた直後に映像が反転して……。
「ああああーッ!!」
私は気づいてしまった。
そして同時に……アレをただのイメージ画像であると勘違いした自分の愚かさを自覚した。
ブッチャケ、早出聖子というのは某地獄のセールスレディのネーミングのノリで考えた名前です。
ただし、実在する地名とこれまで登場したキャラ関連の名前の組み合わせの名前ではありますが。
そして本作で登場する環境保護団体。
UMAも自然の一部で動物ですから、人類防衛機構が存在する世界線では、人類防衛機構の作戦次第では、ちょっかいを出してくるかもしれんなと思って作った、オリジナルの組織です。
本編で似たような組織が登場するかは不明です。