疑問
それはほんの些細な出来事だった。
誰かが街中でふいに「ええっ?」と疑問の悲鳴を上げた。
(なんだなんだ?)
(何かあったのか?)
(何に驚いているんだ?)
近くにいた人は、皆一様に頭に中に疑問符を浮かべた。
疑問は何か、という疑問が湧いた。
そして聞いた人もまた、疑問の声を上げた──「ん?」──と。
そしてそれを聞いたまた別の人が、疑問符を浮かべた。
そうやって疑問の連鎖はじわじわと広がり、いつしか国中が疑問の渦に巻き込まれた。
その果てには、ニュースで報道されるという事態にまでに辿り着いた。
『──ただいま各地で““疑問””が大量発生しています』
しかし誰一人、その疑問の正体を知らなかった。
皆が何に疑問を持っているのか?
何がわからないかがわからなかった。
わからないから「何が疑問なんですか?」と問われても答えることができず。
また「何が疑問なんですか?」と問うても、明確な答えは返ってこない。
だがある一人がついに気づいた。それはとても単純だった。誰もが気づくべきだった。疑問の正体──それは、“疑問”そのものだった。
「わかった! わかったんだ疑問の正体が!」
だが誰一人彼の声を聞こうとしなかった。
だからみんなでピザを焼いた。ピザはとてもおいしかった。
疑問はどこかへ吹き飛んでいった。