出禁
「それにしても出禁って変な言葉ですよね」
「どうして?」
「だって出るのが禁止って、普通は逆でしょ。店に入ることが禁止されているんだから、正しくは『入禁』ですよね。そうでしょ?」
「うーん、そうでもないと思うけど。ちょっとこっち来て」
「どういうこと?」
「まあ一般的にはそうかもしれないけど、うちの店の話では違うんだ。出禁にされた客でも入店はできる。だけど、強制的に店の奥の冷凍庫に移動させられるんだ」
──ドンドン! ドンドン! 出して! ここから出して!
「あの~、なんかあの扉の奥からなんか音がするんですけど」
い、いい、いいから出せっててて、いい言ってんだよ……!
「なんか声も聞こえてくるんですけど」
「あれが出禁者の末路だよ。でも仕方ないよ。出禁なんだから。──おーい、お前は出禁なんだから出せるわけがないだろ~」
──ふ、ふざけるな! さ、寒くて、ここ凍え死ぬだろうがッ!
「お前が出禁になるようなことするからだろ~」
「ねえちょっと、この扉の向こうの人は何をしたわけ?」
「なにって店員をナンパしたんだよ。そんなの出禁に決まってるだろ」
「まあ、出禁の理由ではよくある話だけど。でもこれはやりすぎでしょ」
「そうかあ? これを見てもまだ言えるのか?」
「なにこの写真。ていうか写ってるのは誰?」
「これはうちで一年前に働いていた店員の一人でね。店の金を横領していた」
「え?」
「だから出禁にした。それから一週間前に、この扉の向こうのやつがその店員にナンパしてきた。たぶん視えてたんだろうな。それであまりにもしつこいから、こいつも出禁にした」
「じゃあ、この扉の向こうには……」
「ほかにも大勢いるよ。万引きしたやつ。店員に罵声を浴びせて泣かせたやつ。それで泣いた無能な店員。会計をぜんぶ小銭で払ったやつ。商品にくしゃみを掛けて汚くしたやつ。かわいくない商品に「かわいい~」とか言ったブス。わたしの告白を断ったやつ。その彼氏。行方不明者を探しているとか言っていたジャーナリスト。家族。友人。警察官……。全員出禁にした」
「……」
「ああ、それからこんなやつもいた。出禁って変な言葉ですよねって言ったやつ」




