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頭の中の胡桃を取り出してバターを作ります。まずは材料です。狂気1g。暇な時間10㎏。  作者: 絢郷水沙


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つるつるの怨返し

 雪が多く降ったある冬の日のことです。お爺さんが町に出かけた帰りに、雪の中で、猟師が仕掛けた罠に引っ掛かっていた一羽の鶴を見つけました。お爺さんはその鶴をとても可哀そうに思ったので助けてやることにしました。決して見返りを求めていたとかそういうわけじゃなくて、いやマジで全然これっぽっちも思ってなくて、純粋に善意で助けたっていうか、マジで善人アピールしたかったからとかじゃなくて、本当の本当に下心なく鶴を罠から解放してあげました。マジで。


「お~い! もう二度と捕まるんじゃないぞ~。ああ、ちなみになんだけど~、わしの家はここから3キロ先の──」


 飛び立っていく鶴を見送って、お爺さんは家路に就きました。


 その日の夜のことです。お爺さんは、家の扉を叩く音で目を覚ましました。こんな真夜中に誰だろう、お爺さんがそう思いながら扉を開けると、扉の前には一人の()()()()()()()が立っていました。

 その時、お爺さんは心の中で思いました。


(おっほ、マジかよ! やっぱり来たよ! 鶴の恩返しじゃん! 進研ゼミでやったところじゃん! 知ってる。この後こいつが美しい布を織ってプレゼントしてくれるんだろ。で、そいつがこれまたバカ高く売れる代物ってわけで。うっほ、ぼろ儲けじゃんなあ。てかあいつ雄だったのかよ。まあこの際だから雄でも雌でもいいんだけどさあ。でもせっかくだったらまぶい女の子がよかったって思うのは欲が深すぎるって話かあ?)


 お爺さんが欲望に浸っていると、頭がつるつるのそのおっさんはお爺さんに言いました。


「おい! 俺が仕掛けた罠を壊して鶴を逃がしたのはテメェかこのヤロウ!!」

 

 なんということでしょう。その人は罠を仕掛けた猟師その人だったのです。激しい剣幕のおっさんに、お爺さんは悲鳴を上げたのですが──。



          ◆



 それから数時間後、一人のとても美しい姿の若い女性がお爺さんの家を訪ねました。


「あのう、夜分遅くにすみません。どなたかいらっしゃいませんか? 実はその、この大雪で道に迷ってしまったものでして、一晩だけでもいいのでこの家に泊めていただくことはできないでしょうか。あのー、すみません。どなたか……」


 女性は扉越しに声を掛けましたが、一向に返事はありませんでした。ふと扉の取っ手に手をかけると、鍵がかけられていませんでした。女性はゆっくりと扉を開けて、中へと入ろうとして一歩足を踏み入れました。

 すると、女性の足は何かを踏んづけてしまいました。女性が視線を下げると、土間の上に黒くて大きな何かが横たわっているのを確認しました。


 なにかが──()()がいる。


 初め女性は、その人物は寝ているのだろうと考えました。しかし、そんな呑気な考えは、数秒後に激しい後悔へと変化しました。

 

 お爺さんが殺されている。


 乾き始めている血の海で。

 溜まりに横たわるそれに生気はなく。

 開いた眼は閉じられぬまま、光を宿すことなく。

 代わりに黒い絶望を映していた。

 雪に反射した月明かりが死体を照らす。

 腹には深く突き刺さったままの一本の包丁。

 女性の脳には一つの可能性が浮かび上がっていた。


 自分が──自分のせいで、この人は──。


 ありえないほど強く打ち始める心臓。

 まさか。

 まさか。まさか。まさか。

 自分を助けたせいでこのお爺さんは殺されてしまったのではないか。

 


 ──と、そのときです。


 玄関からまっすぐ延びる廊下の先でなにかが揺らめいたように見えました。あそこに誰かがいるのでしょうか? たとえばこのお爺さんの妻のお婆さんとか……。しかし廊下の奥は暗く、はっきりとはなにも見えません。

 女性がその正体を掴もうと目を凝らしたときです。女性はあることに気づきました。廊下の手前から奥へと、赤黒い足跡が続いていたのです。


 (お爺さんを殺した人間の足跡……!)


 しかし、気づいたときにはもう遅すぎました。一発の銃声が響き渡りました──。

 




 廊下の奥の暗がりから誰かがのっそりと歩いてきます。その者は玄関に横たわる一羽の鶴を担ぎ上げると、どこかへと歩いていきました。

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因果応報  ナムー
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