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頭の中の胡桃を取り出してバターを作ります。まずは材料です。狂気1g。暇な時間10㎏。  作者: 絢郷水沙


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見たな。

 彼氏と同棲して半年くらいが経ったころだった。ある晴れた日の真夜中に、彼氏はどこかへと出かけていった。半分寝ていて半分起きていた私は、玄関が閉まる音でそのことに気が付いた。内緒ででかけるなんて、コンビニにでも行くのかな、などと思った私はこっそりと彼の後を追いかけた。後ろから声をかけて驚かせようと思ったのだ。


 十数メートル離れて追っていると、彼氏はコンビニに向かう道から外れた方向へと歩いていった。どこへ向かうというのだろう。しばらくすると、手入れされていない森の端までやって来た。獣道さえない木々の中を、彼氏はためらうことなくずんずんと進んでいく。その時の私は、声をかける余裕も勇気もなかった。こんな深夜にどうして手ぶらで、あんな人気のない場所へと入っていくのだろう。部屋に引き返すべきか、それともここで待っているべきなのか、あるいは勇気を出して追ってみるべきか。彼氏の携帯電話はリビングに置きっぱなしにされていた。どうしていいのか判断できずにその場で足踏みしていると、突然森の中から、彼氏の悲鳴のような叫び声が響いてきた。私はそれがたまらなく恐ろしく感じられて、彼の身に何かが起きたのかもしれないという可能性すら捨てて、ただ己の恐怖を回避するべく、すぐさま部屋に帰って、家に鍵をかけて、布団を頭からかぶって、そのまま朝までひたすら何かを願っていた。


 翌朝になると、彼氏は自分の布団で寝息を立てていた。いつも通りの時間に起きて、「おはよう」と爽やかな笑顔を作って、いつも通りの朝食を取っていた。なにもかもがいつもと同じ、正常な日常だった。でも、昨日見たあれはどこをどうみても異常だ。

 私は昨夜のことについて聞こうとしたけれど、声が喉の奥で引っかかって愛想笑いしかできなかった。聞いたら最後、取り返しのつかないことが起きそうな確かな予感があった。だから、黙っていようと思った。きっと何かの見間違いだと自分に言い聞かせようとした。……だが。


「ねえ、昨日の夜に……正確には今日の夜なんだけど、外に出たりした?」


 心臓が跳ね上がった。声が上ずっていた。


「ど、どうして?」

「もしかして、俺の後をつけてた?」


 この時の私は、返答次第では殺されるかもしれないと思った。昨夜聞いた彼氏のものとおぼしき悲鳴は、しかし彼氏のものだとするにはあまりにも聞いたことのない声音で、あれはもしかすると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という気がしてきたのだ。

 彼氏からの追及に耐えられなかった私は、その場を有耶無耶にして、数日後に別れを切り出した。彼氏はあっさりと受け入れてくれた。いまでは何事もなく平穏に暮らしている。だがもしかすれば、ある日突然彼氏が私の家にやってきて、私に何かするのかもしれない。そうと思うと、たびたび夜中に目が覚めてしまうのです。





          ◆




 俺の趣味は真夜中に、近所の人気のない森の中に入って、全裸で叫びながら踊ることだ。そうすると、この世の中のありとあらゆる嫌なことがすべて馬鹿らしく思えて、不安も恐怖もどっかへと吹き飛んでいくんだ。本当は平日の真昼間に大勢の前でやりたいところだけど、社会生活を送れなくなるのはさすがに困るので、今のところは控えている。だが、いずれはやるつもりだ。

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