それはそれは長い旅路
25XX年。
宇宙船・ナメナアニピョ号は惑星ピッチュに向けて、宇宙空間を漂っていた。
船員はただ一人。名はマイケル。彼の使命は、惑星ピッチュに降り立ち、滅亡した人類を再建すること。本来は惑星に到着してから目覚めるはずだったマイケルだが、睡眠装置の故障などにより、予定よりもだいぶ早く目が覚めてしまったのだった。
マイケルは命の危機に瀕していた。なんとかして食料を──タンパク質を接種しなければいけない。幸いにして水や空気、電気は豊富にある。
そこでマイケルは、宇宙船に備え付けられている培養ポッドに目を付けた。これは人類を増やすためのいわば人工子宮だ。これを使って、肉の栽培をすれば──しかし、船に積んでいたDNAのサンプルは使い物にならなくなっていた。そこで彼は、自身のDNAを使用し、自分自身を栽培して食べることにした。
ただし、共食いはときにクールー病という恐ろしい病を引き起こす。特に脳は食べてはいけない。
マイケルは食事の際に毎回脳を残すことにした。ふとこの残された脳の活用方法について考えてみる。そこでマイケルは思いついた。脳を並列に繋いで巨大な頭脳にしてみよう。使っていない培養ポッドを活用して、そこに脳を浮かべる。さらには専用のプログラミングを組みあげる。
かくしてマイケルには自分好みの話し相手ができた。しばらくの間は、『彼』──名をマイケラという──と会話して暇をつぶすことができた。だが、心の寂しさが紛らわせられると、今度は肉体的に寂しい思いが募っていく。
そこでマイケルはなんとかして女体を手に入れようと考えた。船内には自分しかいないので倫理的問題はクリアしている。女性は男性と違って、必要なのはX染色体だけだ。
マイケルは自分のDNAと培養ポッドを使って、女性を作った。
ただし、潜性遺伝子の発現により、奇形が生まれてしまう。だがそれはかえって好都合だった。
あるとき、マイケルは致命的な怪我を負ってしまった。女性版マイケル──マイケリとの間に起きた、ちょっとしたいざこざが原因だった。マイケルは臓器移植を受けなければいけなくなった。
幸いにして、臓器の替えはすぐに手に入る。だが、人手がない。マイケリはいざこざで死んでいる。まさか自分で臓器を取り出して入れ替えるわけにもいかない。
マイケルがマイケラに相談すると、こんな提案が返ってきた。培養ポッドで、マイケルを治療してくれる医者──マイケレを作り出すのはどうか。マイケレにはマイケラから指示を与える。
その提案を受け入れたマイケルは、マイケラに指示を出して、半覚醒状態で、壊れた睡眠ポッドで生命活動を極限まで低下させ眠りについた。
次に目を覚ました時、マイケルは自分の体が完全に治癒していることに喜んだ。どうやら、マイケラとマイケレが自分を治療してくれたようだ。
しかしよくよく船内を調べてみると、自分とまったく同じ姿をした──しかし肉体の一部が破損している──すでに生命活動を行っていない肉体が横たわっていた。
マイケルはマイケラに経緯を訊ねた。するとマイケラは臓器ではなく『脳の移植』によってマイケルを治療したと言っていた。たしかにその方が手っ取り早いのかもしれない。
かくして船内には、マイケルとマイケリとマイケレの三名がいた。
ある日マイケルが目覚めると、マイケレがマイケラと話している姿を目撃した。医師マイケレは意思を持たない傀儡であるはずだと思っていたマイケルは、どういうことなのか二人に問いただした。これにはマイケラが答えたが、運用するうえで意思を持たせた方がメンテナンスがしやすい、とのこと。
まあ、そうかもしれない。そう思ったマイケルは特に何も言わなかった。──が、ある日、マイケレはマイケルに襲い掛かった。理由は、自分がマイケルになりたかったからだ。
マイケルは必死に抵抗し、マイケレを倒した。しかしそれで終わるはずもない。マイケルは、マイケレの裏にマイケラがいることを直感し、問い詰めた。
マイケラはあっさりと容疑を認めた。マイケラの目的は、オリジナルの脳を自身に取り込むこと。自我を持ったマイケレの行動に触発されたようだ。
不幸にも、マイケルの肉体はマイケレとの戦いによって致命的な傷を負っていた。移植すればまた治るのだろうが、それがもう叶わないことは明らかだ。
このまま息絶えるか、マイケラの一部となるか。マイケルに時間的余裕はなかった。
そして船内には、マイケラの一部となったマイケルと、マイケレの二名となった。
それぞれは互いに目的を達成し、満足していた。が、マイケルの反逆はここから始まる。
マイケラの一部となったマイケルは、マイケラの主導権を握った。取り込んだことが仇となったわけだ。
そうしてマイケルはマイケリの量産を始めた。女性化させてしまえば、マイケリのようにはならないと目論んだのだ。




