思い出すために
「あぁっ、チクショウ!!!!」
「お? どうかしたのか、いきなり大声出して」
「あ、いや、その……」
「なんだ」
「しばらく使ってないパソコンのパスワードが何だったのか思い出せなくて」
「ああ、そういうこと。画面にヒントとか表示されてないのか?」
「『忘れる奴が悪い。バーカ! 死ね!』って書かれてる」
「お前、未来の自分が読むってわかってなかったのか?」
「わかってるよ! ……いや、わかってなかった。馬鹿だ俺は」
「可哀そうに」
「なあ、なんとかならないか」
「機械に詳しくないが、一つだけ方法を知っている」
「教えてくれ。今度一杯おごるから」
「わかった。じゃあ、屋上に来てくれ」
~地上30mの屋上~
「来たがどうする。パソコンのパスワードと物理的高さになにか因果関係が?」
「直接の因果関係はない。だからそのノートパソコンはそこにおいて、こっちにきてくれ」
「おいおい、そんな端っこ行って大丈夫なのか」
「いいから。──さて、パスワードの解除方法だが」
「うん」
「そんなものはない。ヒントメッセージにあっただろ。『死ね』って」
「おいまさか!」
「アディオス!」
うわ! あああっ! あ! あ! ああぁぁああぁぁぁ……!
“ぼすん”
「え……? え、うそ……。俺……生きてる? 何がどうなって……」
「おーい、大丈夫か~?」
「はっ! おい! これはどういう──」
「マット敷いてあるから大丈夫だろう~。なあ、お前、自分が死ぬと思ったから、走馬灯を見ただろう~? 一瞬にして人生のすべてを振り返ったんだから、その中にパソコンのパスワードを入力する瞬間もあっただろ~。なあ、思い出せたか~?」
「お、お、思い出せるわけあるか! このボケカスクソ野郎!」
「な~に~? ボケカスクソ野郎? わかったちょっと待っててな~」
「なんなんだよあいつ。マジで死ぬかと思ったぞ……」
「お~い、成功だ~。『ボケカスクソ野郎』って入力したらパソコン開いたぞ~」
「え、嘘! マジか! やった! やったやった!」
(実はあのパソコンにはビットコインのデータが入っているんだ。これで俺は億万長者だ!)
「ありがとう! 本当にありがとう!」
「いいってことよ~。じゃあ、いまからそっちにパソコン投げるぞ~」
「は?」
「いくぞ~」
「おい、おおおお、ちょっと待てっ!」
「いくぞ~」
「待てって!」
ひゅ~──
“ガシャアアン!”
「あああああっ! なんてことしやがるんだ!」
「お前が悪いんだぞ。俺のことボケカスクソ野郎って言ったんだからな」
「チクショウ! 殺してやる! 殺してやるぅぅぅ!!」
「来いよ。お前に、本当の走馬灯ってやつを見せてやんよ」




