脱糞したら1000万円。
A『もしもしそこのあなた』
C『はい。なんですか?』
A『いえなに。ちょっとした頼みごとを頼まれてはもらえないかなと』
C『どんな内容ですか?』
A『簡単なことです。そこの道の真ん中で脱糞してください』
C『な、なんで!?』
A『持って帰って食べるんですよ。もちろんタダでとは言いません。もしもやってくれたら現金で1000万円をさしあげますよ。これを見てください』
スーツケースを広げるAと、驚きと困惑の表情を浮かべるC。
C『ええっと……。本当にくれるんですか……?』
A『ええ。もちろん。いまなら私以外に人はいませんからやるなら今の内です』
C『たしかに。えぇ……でも』
A『嫌そうですね。無理は言いません。では、これにて』
C『待ってください。……わかりました。やります。その代わり、絶対にそのお金くださいよ!』
A『ええ、約束は絶対に守りますよ』
Cがズボンを脱いで、その場にしゃがむ。
ぷりぷりぷり……
──パシャッ。
C『え?』
A『いいですねぇ』
C『あ、ちょっと!』
パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ、パシャッ。
A『十一枚ほど写真を撮らせていただきました』
C『なに勝手に撮ってんだ!』
A『撮ってはいけないなんて言われてないので。ではこちら、報酬をどうぞ。あ、脱糞中にすみませんが、この写真をばら撒かれたくなければお金を払っていただけませんか?』
C『なにぃ!?』
A『そうですねえ。金額は1枚につき100万円でどうですか』
C『お前ぇ……ふざけるな!』
A『職場や近所にばら撒かれてもいいと言うならいいんですよ。ちなみに期限は今日中としましょう。なに、すでにあなたは1000万円ももっている。そこに100万円足すだけだ』
C『このやろう……』
A『特別におまけして、今ならトイレットペーパーを無料で差し上げますがいかがしますか? 嫌ならいいんですよ。ではこれにて』
C『待てっ! 払うから……払うから……』
三十分後、AとCは、100万円が足されたスーツケースと写真11枚を交換した。交換後、Cは罵詈雑言をAに浴びせながら、その場を立ち去った。
B『いやあ、陰から見てろって言われたから見てたけど、えげつねえことするな』
A『愉快痛快。こんなに面白いこともないよ。金のためにプライドを捨たのに、捨てたプライドのために得た以上の金を失う。愚かだねぇ』
B『ところで、1000万円なんて大金よく持ってたなあ。もしも写真をばら撒かれてもいいって言われてたら、お前が1000万円失ってたわけだろ。まさか、絶対に写真を買う根拠でもあったのか?』
A『根拠はないね』
B『じゃあ、こんなことのためだけに1000万円も失うリスクを負ってたっていうのか?』
A『そういうことになる。そんな狂気を楽しむのもまた一興──と言いたいところだけど、私にも1000万円は大金だ。でもさっき100万円もらっただろう。つまり、わかるかい?』
B『なるほど。どうりで手慣れていると思った。もう何回もこんなことしてたのか。その1000万円はそうやって巻き上げた金ってわけだ』
A『そう。いまは徐々に金額を上げていってる最中なんだ。ゆくゆくは一億円くらいを使って、旦那が金持ちなだけで自分には若さしか取り柄のないちょっと面のいい女とかに仕掛けてみようと思う』
B『えげつねえ』
そして、Aは道に落とされた男の糞を、持っていたビニール袋に入れ始めた。
B『おうおう、街の清掃とはご立派だねえ』
A『ペットの不始末を飼い主が処理するのと同じですよ。責任は取る。それに、街がキレイであればこそ、脱糞時に羞恥と葛藤がより際立つってものだ。もともと汚れていたものをさらに汚すのと、キレイだったものを汚すのでは同じ汚し具合でもその心境はまったく異なるだろう。これが私なりの美学だよ』
B『饒舌だねぇ。俺はてっきり本当に持って帰って食うのかと思っちまったぜ』
A『……』
B『おいおいおい、なぜ黙る。……まさか』
A『はっはっは。……そんなわけないだろう』
B『驚かすなよ』
A『……』
B『だから黙るなって!』