食育。
さあ、みんな。今日が何の日かわかるな。よし、じゃあ金子言ってみろ。
ふんふん。うん、そうだな。その通りだ。ありがとう金子。
いま金子が言ってくれたように、今日はクラスのみんなで育てた「豚九朗」を食べる日だ。
いいか、これは命の授業だ。みんなが普段何気なく食べているお肉は当然だが生きていたんだ。それを殺して、ばらばらになったものをみんなは口に運んでいる。これはけっして当たり前のことじゃあないんだぞ。
いまから豚九朗に最後の別れをした後に、みんなで解体作業を行っていく。おい泣くな金子。しゃんとしなさい。逆に小藪、きみは泣きなさい。
おいおいどうしたみんな。まさかとは思うが、殺すところは解体業者がやってくれると思っていたなんて、考えてないよな。
いいか、命の授業は自分たちの手で殺して初めて意味を持つ。命を頂くそのありがたみを身をもって知ることが大切なんだ。おいおい、鏑木まで泣くんじゃない。逆に小藪、きみは泣きなさい。
それじゃあ、みんな最期に一言ずつお別れの言葉を発表していきなさい。これが最期だということをしっかりと心に刻んでおくんだぞ。それじゃあ、まずは佐伯から。そのあとは席順に言っていきなさい。
ふんふん。いい発表だ。ありがとう。心に沁みるね。次。
おいおい、友枝よ、泣いてて何言ってるかわからんぞ。まあ、その気持ちもわからなくはないがな。先生だって本当は泣きたいくらい悲しい。でもな、もっと泣きたい奴がいるだろう。次。
ふんふん。うんうん。なるほど。
国木、いいこと言うじゃないか。たしか国木が「豚九朗」ってあだ名をつけたんだったよな。え? それは先生が勝手にそう呼び始めただって? おい、適当なこと言うんじゃないよ。まあ、そんなことはどうだっていい。次。
ふんふん。本当にそうだな。鈴橋の気持ちは先生も充分に理解しているぞ。たしかに悲しいな。でも食べるとは──生きるとはそういうことだ。これで鈴橋も少しは成長できたな。
うんうん。みんないい発表だった。どれもこれもみんなの成長を先生は感じたぞ。この授業を通して感じたことは君たちにとって大きな意味を持つと思う。その意味をこれからの人生でもっと深く深く考えていってほしい。
それじゃあ最後に「豚九朗」こと小藪から一言メッセージをもらったら、殺して解体することにしよう。小藪、立ってなんか言え。
「えー。クラスメイトの皆さん。いままでありがとうございました。まさか僕がクラスメイトのみんなに殺されて食べられてしまうなんて入学した当初はこれっぽっちも思っていませんでした。くじ引きで決まったのがせめてもの救いです。最初は投票で決めようとしていましたからね。あのとき一番太っている僕がいいんじゃないかと言ったのは誰でしたっけ?」
ああ、それは俺だ。
「ああ、先生でしたね。ショックですっかりと忘れてましたよ。それにしても先生も酷いですよ。僕の名前が小藪拓郎だからって、豚九朗なんてあだ名を勝手につけて。でもあれ? その名前ってたしか投票の話が出る前に言ってませんでしたっけ?」
ああ、言ったぞ。こいつしかいないって思ってた。
「そうですか。つまり最初から仕組まれていたってことなんですね」
それよりも早く、自分が食われる感想を言えよ。
「そうですね。すみません。実はそこまで悲しくないんですよ。なぜだか涙が出ないんです」
ッチ。
「あれ? 今舌打ちが聞こえたような気がするんですが気のせいですか? まあ、それはさておき、死ぬのはくじ引きで決まった日からわかっていたことなので、心の準備はできています。気持ち悪いことだとは思うのですが、僕がみんなに食べられてみんなの血肉になっていくことを想像すると、なんだか興奮してしまうんです。これって病気なんでしょうか。どうなんですか先生」
立派な病気だな。
「ありがとうございます。やっぱり僕は変だったのですね。心残りがなくなって、心置きなく旅立つことができると思います。それじゃあ最後にひとこと言わせてください。てめぇら地獄に落ちろ。以上です」
ありがとう小藪。もとい豚九朗。いい感想だった。先生、涙で前が見えんよ。
よし! じゃあみんな鉈を持て。一斉に行くぞ。せーのっ!
◆
おーし、みんな解体終わったか? これから先生、この肉を給食室に持っていって、ソーセージを作ってくる。出来上がるのに二時間か三時間くらいかかるから、その間に感想文を書いておくように。じゃあ、ちょっと待っててな。
◆
みんなすまん。小藪の肉から世にもおぞましい菌が発見されたから全部廃棄処分してきた。みんなソーセージ楽しみにしていたと思うが、がまんしてくれ。代わりと言っては何だが、スーパーで買ってきたシャウエッセンをみんなで食べよう。絶対そっちの方が旨い。
え? 小藪くんの人生が報われませんだって? そうだな御堂。そう思って先生、理科の富岡先生に頼んで骨格標本にしてもらうことにした。みんな、今日から小藪は理科室に置かれることになった。会いたくなったらいつでも富岡先生に声をかけるといい。いつでも鍵を開けて会わせてくれるよう、先生の方からお願いしておいたからな。