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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

追いかけた先には

作者: ゆりかもめ


1つの卵がまっすぐ転がっている。


その後を、長い髪を揺らしながらゆっくりとした足取りで少女が追いかける。


両目は髪の毛で隠れており、小さく薄い唇がわずかに見える程度。着用しているジャージの袖と裾からは、雪で覆われた細枝のような白い手足が伸びていて、ふらふらと動き続けている。


月明かりのない街灯が照らす夜。外には少女以外誰もおらず、聞こえてくるのは、舗装されたアスファルトがとめどなく降り注ぐ雨粒を弾く音だけだ。


そのうち、卵が少女の視界から消滅し、少女の体が急速に傾く。


どうやら、追いかけた先には大穴があり、それに落ちたようだ。現在少女は、頭を下にして卵と共に落下している。


この穴はどこかに繋がっているのだろう。


しかし、そう考えただけでいかなる反応も示さない。両目と唇を軽く閉じ、この落下に抵抗することなく身を預けている。


長いこと落ち続けているうちに、少女は卵を掴み、手に包み込んだ。


そして、雨でしっとりと濡れてひんやりと冷たくなった卵の表面を撫でまわす。


少女は知っている。この中から生命が誕生することは決してないことを。


この卵は、砕かれ潰され腐敗していくだけの存在だ。


そんな惨めな卵の運命について考えると同時に、少女はこれまでの自分の人生について思考を巡らせる。


大量の言葉を吐いて肉体を動かし、言葉を書き連ねながら長い年月を食い潰してきた。自分以外の誰かとの交流もしてきた。


だが、たったそれだけ。これらに意味があったとは到底思えない。


そうだとすれば、この卵のように自分が生誕する意味はどこにもなかったのではないだろうか。


手から卵が滑り落ちる。


卵は落下速度を上げていき、そのうち遠くから「グシャ」という音がかすかに聞こえてきた。うっすらと目を開いて穴の奥を見てみると、地面に衝突し、殻が砕けて中身が飛び出た卵が目に飛び込んでくる。


あの卵は、何かを成し遂げることなく潰れた。


そして、少女は自分がこの卵と同じ運命を辿ることになるのだろうと悟った。しかし、恐怖心は微塵も存在しなかった。


次の瞬間、頭に強い衝撃が走り、一瞬だけ轟音が響く。その後、全ての感覚を失うと同時に、長期に渡る無音が支配する。




一体どれほどの時間が経過したのだろうか。


ーーー血液に内蔵に肉片に・・・辺り一帯は少女だったもので埋め尽くされている。それでもなお、時間は冷酷に過ぎていき、雨は降り続けていった。

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