意外な事実
「「「カイン、どうしたんだ!?」」」
鍛冶屋に戻ると、父さんと兄さん鍛冶師の皆が僕の姿を見て、驚いた顔をして飛んできた。それはそうだよね。服はボロボロになって、スライム連れて帰ってきたんだもん。大丈夫だと思って送り出してくれたんだから、びっくりするのは当たり前だよね。まぁ、スライムを大切そうに抱きかかえているもんだから街の人もびっくりした顔してたっけ。
僕は皆に事情を説明した。道中で野党に襲われてボロボロになったところで意識を失ったけど、意識が戻ると目の前で野党が気絶していたこと。
「そうか、そのスライムがお前を守ってくれたってのか…。」
そう言って父さんはスライムを見て不思議そうな顔をしていた。スライムは正直に言って僕なんかにでも倒せてしまう最弱と言ってもいい魔物だ。そのスライムがある程度戦闘経験のある野党を倒すなんて考えられるのだろうかと言ったところだろうな。しかも、服の傷み具合に比して、僕は全く怪我をしていない。なんで回復したんだと思って当然だ。でも、僕にもはっきりとわからないんだからそれ以上追及のしようもなくて、父さんは黙り込んでしまう。
「とりあえずお前が無事で良かった。」
そう言って父さんは近くの椅子に力が抜けたように腰掛けた。本気で心配してくれていたんだと思うと、父さんには申し訳ないけど少し嬉しくなった。鍛冶屋を継ごうともしていない僕は兄さんに比べて、父さんにとっては大切な存在じゃないなんてことを思っていたからだ。父さん、そんなことを思って本当に御免なさい。
「心配させてごめんね。それで、ムスタさんから預かったものがあるんだ。」
僕は父さんにムスタさんから預かった封筒を手渡した。手紙を神妙な面持ちで読んでいる父さんは、一息溜息を吐いた。
「なるほどな、野党が恐らくミスリルを運んでいた冒険者を襲ってミスリルを奪ったって話だ。で、その野党にお前が襲われたってわけだ。しかし、俺が依頼している冒険者だってある程度腕の立つ奴らだったはずだ。それを倒す野党をスライムが倒したってか…。」
その話が真実味を増すほど、僕の手の中でプニプニしているスライムがその野党を倒したっていうことが信じられるわけもない。僕もそう思う。
「とりあえず冒険者に依頼して早急に野党討伐してもらわねぇとな。で、そのスライムどうするんだ?」
「なんか僕から離れてくれなくて…。多分誰にも危害は加えないと思うから、しばらく一緒に住ませてもいい?仕事で出た鉱石なんかも食べてくれると思うし…。」
僕が恐る恐る聞くと、父さんは口元をフッと緩ませた。
「ハハハ、例え魔物でもお前の命の恩人なんだろ?そいつに横暴なことはできねぇよ。そいつが気の済むまでお前の傍にいさせてやるといい。」
「あ、ありがとう!父さん!良かったなスライム!」
こんなにあっさりと許可してもらえると思わなかったから、思わず嬉しくてスライムをギュッと抱き締めた。スライムはびっくりしたのか激しくプニプニしていた。
「しかし、こんなに魔物が人に懐くなんて聞いたことがねぇ。お前、魔物使いかなんかの素質あるのかも知れねぇな。」
「魔物使い?」
「あぁ、昔の話だが魔物を使役して戦うブラック冒険者がいたそうだ。他の話を聞いたことがねぇから本当かどうかわからねぇがな。とりあえずお前は今日は休め。母さんも心配しているだろうしな。」
そう言って父さんは僕の頭を撫でて、皆とともに仕事に戻ろうとした。
「お疲れっす!今日体動かし足りなかったんで、鍛練場借りていいっすか!?お、カイン!って、ボロボロでどうしたんすか!?」
「おぉ、実はな…。」
父さんは依頼を終えて鍛冶屋に来たライダーさんに事の詳細を伝えた。
「なるほどっすね!それならその依頼、俺が受けるっすよ!指名依頼にしておいて下さいっす!」
「いいのか?まぁ、お前なら安心して任せられるが…。」
「問題ないっすよ!さくっと終わらせてやりますよ!」
そう言ってライダーさんは親指を立てた。実際、ライダーさんの冒険者としての腕前とかさっぱりわからない。父さんたちも知らないと言っていた。父さんは自分が気に入った人に悪い奴はいねぇみたいな考え方の人だ。だから、その人の素性など細かい詮索はしなかった。
「いやしかし、野党討伐でしかもゴールドを含んだパーティーを倒した奴らだってなるとプラチナ冒険者以上じゃなきゃ請け負えねぇぞ。」
そう言って父さんはまた考え込んでしまった。どうやら父さんの依頼していた冒険者はパーティーで請け負う、ゴールド冒険者一人を含む、などの細かい条件が設定されていたらしい。ミスリルはこの店の命とも言えるものだから、それくらい厳重なのは当たり前だろうとは思った。
「あぁ、大丈夫っすよ!俺、ブラック冒険者なんで!」
「そうか、ブラックか…。って、お前がブラックだってのか!?」
上の空で聞いていた父さんはまさかの返答に今まで見たこともないような表情で叫び、ライダーの肩を掴んで揺すっている。
「あばばばば…。そうっす、俺が漆黒の冒険者が一人、ライダーっす!」
「ま、マジかよ…!まさかこんな奴がうちにしょっちゅう顔を出していたとはな!」
揺する手を止めた父さんは、目を輝かせてライダーを見た。
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