命の裁定官ゼクト
なんだ?真っ暗だ。あぁ、そうか。
真っ暗闇の中目が覚めた。それと同時に今まで忘れていた記憶が蘇る。そう、これで俺はここに訪れたのは七回目…。この後の展開も大体予想が着く。
両側から順々に火が灯されていき周囲を明るくする灯篭。そして神殿のような景観が眼前に広がっていく。まるでゲームのラストボスと相見えるような光景だ。そこに待ち受けるのは…。
「我は命の裁定官ゼクトなり。貴様は…。はぁ、またか…。」
長い黒髪で際どい礼装に身を包んだ美しい女性は俺を一瞥して溜息を吐いた。そう、灯された灯篭の中心の華美な椅子に腰かけるこの女性。俺は彼女を知っている。彼女はゼクト、死する命のその後を決定する者だ。
しかしそんな嫌そうな顔をしなくても。俺は別に悪いことなんてしていない。
「何じゃ、貴様…。まるで悪いことなんかしていないって態度じゃな。」
ゼクトは俺の態度にその眼をさらに厳しくする。
そりゃそうだ、俺だって好きでこんなところに来たわけじゃない。毎度毎度こんな所に呼び出されて、こっちとしても願ったりだ。ここに来る度何度も過去の記憶が蘇るんだ。もうさすがに自覚しているさ。
「貴様!およそ百年で何度死んでるんじゃ!初めてじゃ、こんな奴!」
ゼクトはそれはもう耳が割れんばかりの大声で怒鳴り散らす。
そう、俺は死んだのだ。これでここに来るのは百年間で七回目。要するに七回死んだってことだ。
「普通はな!もっと命を大事にするもんじゃろうが!あぁ?それを貴様はいとも簡単に死によって!」
いやいや、確かに自死を選んだこともあったが俺だって好き好んで死んできたわけじゃないだろうが!あんな人生を与えた奴等に文句を言えってんだ!
「あ、貴様今自分の人生を恨んだな?じゃがな!それでも生きようとするのが生存本能というやつなのじゃ!それをまぁ、それを受け入れるかのように死に晒しよって!」
いや、生存本能あったよ?でもさ、どうしようもない時ってあるじゃん!あぁ、もうこれ詰んだみたいなさ!そんな状況ばっかりだったじゃん!
「それでもじゃ!それでもなんじゃ…!」
なんかゼクトさん必死なんだけど…。いや、時には諦めというのも大切なんですよ。と言ってみることにする。
「しかも今回のはどうじゃ…!せっかく死なぬように悪魔として命を与えたというのに…!」
そうなんだよね、七回目は死なないようにって俺を悪魔として転生させたらしいんだけどね。その悪魔ってのが当たり前に人の魂を食らうみたいな設定で、ずっと人間を食らえってまるで本能みたいに頭の中に響き渡るっていうか。
俺の中にも人間だった頃の記憶というか心があったのか、その本能に凄い不快な感情があった。それでもそんな俺の気持ちを無視して悪魔としての本能のまま人間を大量に殺して魂を食らったんだけど、充実感っていうのが全く無かった。そんな時、最後に滅ぼした村で命を奪った女性が身籠っていたんだよね。
こんなクソみたいな命なんていらねぇ!この下らない本能に逆らうのも一興!と思って、お腹の中にいた子に自分の生命の全てを譲渡したんだよね!自分の命と引き換えに。まぁ、その後その子がどうなったかは知らんが、俺は死んだってわけだ。
死なないっていうのと死にたくないっていうのは違う気がするが、この人はそれを多分わかってくれないだろうし、この先一生わからないんだろうな。多分、この人の価値基準はしっかりと生存本能に従って、命を全うするってところにある。
だからもうどうでもいい。別に生に興味も無い。そこまで貴方の思いを冒涜するような行為をしたというのなら、いっそもう無にでも返してくれたらいい。寧ろ、それの方が何ももう考えないで済む。
「貴様、今我に対して反抗的な思考を持ったな?」
ゼクトが不敵な笑みを浮かべて言った。ヤバい、これはなんかとてつもなく狂ったことを言い出しそうな気しかしない。絶対また無理やり使命みたいなもんを負わせて転生させる流れっぽい。
「いいだろう…。それでは貴様には天寿を全うするまで死ぬことができない不死を与えよう。」
ほれきた!というか、は?死なない?それって骸骨とか死霊とかそういうの?それだったら、クソみたいな人生ならさっさと除霊とか浄化とかみたいなもんしてもらえば終わりじゃん!
「ふん、なんか安易な考えを持っておる様じゃが、安心するがよい。与えられた百年ならば百年、死に相当する被害を受けても絶対死ねないということじゃ。故にアンデッドみたいなもんになることはない!」
やっぱりほとんど考え読めてんじゃん…。しかしこの人、結構な性格してるな~。だから別に命与えてくれなくていいんだって…。
「いや、駄目じゃ!この世は輪廻転生を繰り返すことによって、そのバランスが保たれておるのじゃ!お主をここで無に返すこと、それはそのバランスを一気に崩すことになるのじゃ!」
凄い力説されても俺にはあまり関係無いんだけど…。正直、ここでこの世とか言われてもはっきり言ってどうでもいい。そう言うんなら、せめて死なないで済むような人生歩ませてくれたらそれで良かったんだよ。
「ぐすっ…、ぐすっ…。もう転生させるからの?」
なんか泣き出したよこの人!都合が悪いと泣き出す典型的なやつじゃん!ああぁぁぁぁ、もう!いいよ、好きにすればいい!与えられた寿命全うすればいいんだろ?やってやる!
「流石私の見込んだ者じゃ!」
うわめっちゃ都合いい。まぁいいや。もう無理そうだし。その代わり今度こそ死んだ時は俺を無に返してくれよ?いや、ください。
そうでなければ…。
「うぅぅぅぅ。わかった、次の人生全うしたらお主のできる限り望む状況にしよう。それでは新たな人生を歩むがよい!行くがよい!」
はぁ、結局受け入れちまったよ。まぁどうせ埒が明かなかったしな。それにしても泣き真似とかずるくない?まぁあんな状態でも涙に負けちゃう俺も俺だけどさ。
さてと、とりあえず次の人生行ってみましょうか…。面倒くさいものじゃありません様に。
そんなことを考えていると段々と意識が遠のいていった。
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