ロゴ付きだそうです
その後、わたし達は家の中を確認して回った。
1階にはリビングにキッチン、ダイニング、トイレ、書斎など全員で使うための部屋が調えられている。
2階は個人の部屋になっており、ビジネスホテルのような内装になっていた。
ありがたい事に各部屋にトイレ付きのユニットバスがあり、朝のトイレ渋滞は避けられそうだ。
1日1回という制限がある以上、何らかの理由でお風呂に入りたくなった際は重宝するだろう。
万が一、万が一にも血まみれのままベッドに入るとかは考えたくもない。
2階には他に、休憩所がわりの共用部分があってそこにソファとテーブルが置いてある。
部屋の中をひと通り見てすぐ、わたしはその共用部分へ向かった。
どんなに安全だと分かっていても1人ではいたくない。
他の3人の女性達もそうだったようで、わたし達は互いに顔を見合わせて小さく笑った。
そこから出られるベランダから覗くと、外はかなり遠くまで草原が続いていて、その先は森になっている。
ゾンビが草原をウロウロしているのを見て、椚さんがぼそりと言った。
「あれって人の死体じゃなくて人工生命体なんですよね。洋服とかどうしてるんでしょう。自分で着てるのってちょっと変ですよね」
「確かに」
「早川さんにお願いして聞いてもらいましょうか」
女神様に気軽に質問するのもどうかと思うが、気になるものは気になる。
答えがもらえるとは限らないなら、訊くくらいはいいんじゃないだろうかと、わたし達は早川さんを探した。
「ゾンビの服、ですか?」
早川さんはすぐに見つかった。
男性陣は個人の部屋を割り当てると、さっさと自室で過ごしていた。
「ええ。よければ訊いてみていただけませんか」
「確かに変ですね。人としての意識はないはずなのに」
早川さんがメモを取り出すと、何も書かないうちにピカリと光る。
一瞬わたし達は固まったが、早川さんはすぐに立ち直り、何も言わずに淡々とメモを開いた。
「ああなるほど、分かりましたよ。彼らの体はいくつかのパターンで作られているそうで、機械の外へ出す前にそれぞれの服を着せているそうです。……中にはその……戦闘服を着せた状態で覚醒させる機械も……うん、あんまり知りたくなかったですね、これは」
暗い表情になってしまったわたし達に、早川さんは弱々しく笑う。
「あと追加で彼らについて書かれてるんですが、彼らは性欲と睡眠欲を無くして作られているようです。どうも食欲のみで動いているようですね」
「そんな事するから壊れちゃったんじゃないんですかね……」
「多分そうなんでしょうねえ……」
効率重視のつもりだったのだろうか。
それが行きつく先はたいていろくなものではないというのに。
「あ、あの服には兵器会社のロゴがついているそうですよ」
窓の外にはゾンビ。
その全てのゾンビは兵器会社のロゴの入った服を着ている。
シュールだ。
「悪い事はできないものですね」
「本当に」
淡々と話す椚さんの言葉に、早川さんは静かに微笑んだ。
その微笑みに『いい人が怒るとこわい』という言葉をわたしは思い出したのだった。
時計が19時になる頃、1階のダイニングに全員が集まった。
テーブルの上には夕食が並んでいる。
パンにサラダ、シチューにステーキ。
ふわふわのパンの温かい匂いと、ステーキの上のバターの匂い。
そして何よりそのそばにあるワインの赤。
ピアノ曲が少し大きめの音量でかけられているのは仕方ない。
「美味しそうですね」
わたしが話しかけると、羽田さんは笑顔で返した。
「皆さんの好みが分かりませんから、とりあえず今日はお肉で。いいお肉なので菜食主義でない限り楽しめると思うんです」
食事を楽しむものとして受けとめているのだろう彼が、食事担当に選ばれたのは当然だ。
外では、日が沈み始めてゾンビ達の騒ぐ声がひどくなっている。
こんな中で希望を捨てずに誰かを助けるのはきっととても難しい。
だからわたし達の能力はサバイバルよりも娯楽を中心に考えられているのだろうと思う。
女神は、この世界でどのくらい生きるのかわたし達に伝えなかった。
寿命はあるのだろうが、それはきっと残り10年とか20年とかのスパンではない気がする。
もしそうなら、『年を取らない』というギフトは必要がないはずなのだ。
ここでどのくらい過ごさなければならないかはまだ分からない。
けれどそれは知らなくてもいい事なのだろう。
いよいよ凶暴になって家の壁を叩き始めたゾンビ達に、音楽の音をさらに大きくしながらそう感じていた。