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さらに情報公開がありました

「……それでは、僭越ではありますが、私がまとめ役を務めさせていただきます」


 そう言った早川さんの姿には哀愁が漂っていて、わたしが勝手に思っている早川さん中間管理職疑惑が強まった。


「8人も人間がいれば、お互いに気に入らない事もあるでしょうし、私の考え方が必ずしも正しいという事もないでしょう。ですので物事を進めたり決定したりするさいは、全員で話し合っていきたいと思いますが、結論が出ないときなど、どうしてもという時は私が独断で決定を下す事も承知しておいてください」


 わたし達がうなずくと、早川さんは眉をへにょりと下げて苦笑した。


「ただ、このチーム……チームと呼ばせていただきますが、悪い結果にならないよう、最大限配慮させていただきますので、どうかお力を貸していただければ幸いです」


 ぱちぱちぱち、と全員が小さく拍手をする。


「それでは改めて、これからについて乾杯を……」


 と、そのとき早川さんのメモが光った。

 なんとなく、いやな感じでその場の温かくまとまりかけた空気が凍りつく。


 ゆっくりと、早川さんがメモを開いた。

 そしてそこに書かれた内容を読んでいって……目がしらを押さえた。


 待って! 何があったの!?







「今、女神様からさらに情報公開がありました」


 はい、それは分かっています。


「わたし達はこの世界で年を取る事はないそうです」


 それは……いい事、なのだが、すでにみんなそれなりの年なので、これ以上年を取って体が動かなくなる、なんて心配がなくなるのは素直に嬉しい。嬉しいのだが、……この心の底から喜べない感じはなんなのだろう。


 もっと年を取っていれば、『33才、若いわね!!』とか喜べるんだろうか。


「それから……その、デリケートな問題で申し訳ないのですが、私達は今のところ子供を持つことができないようになっているそうです」


 わたしはすかさず手を上げた。


「それは、女性の場合、生理も止まるという事でしょうか」


 早川さんが目に見えて動揺する。

 申し訳ない。申し訳ないが、重要な問題なので恥じらってなどいられないのです。


「それは、はい、そのようです」


 よしッ……!!!


 小さくガッツポーズをしたわたしの隣で、春山さんも笑顔になった。

 椚さんと来見田さんもショックを受けた様子がないところを見ると、女性陣は問題なしのようだ。


「皆さんは、子供を欲しくはないのですか?」


「親戚や友人もいませんし、今から関係を作ると言ってもそもそもこの世界の住人じゃありませんし、子育てできる環境ではない気がします。その、いろんな意味で」


「わたしも正直、この世界に自分の子供を残していくのはちょっと……」


「概ね同意見です」


 そう考えるだろう人間を選んだという事もあるのだろうが、安全な日本を知っていれば、ここでの子育ては躊躇してしまうだろう。

 その上で、できないのだと最初に言われてしまえば思い切る事もできる。

 早川さんがわたしのほうを見たので、わたしは正直な今の気持ちを告げた。


「子供がどうこうというより、生理は諸悪の根源です」


 他の女性3人も、程度の差こそあれ全員がわたしを怪訝な目で見る。

 いいんです、理解されなくても。でも事実なのです、わたしにとっては。


 ふと、ホムンクルスを作っているのが人工子宮だとしたら、最初は女性の苦痛を和らげるための研究だったのかもしれないな、と思った。

 まあ、それで妊娠出産の苦痛は軽減されても毎月の生理の苦痛は和らがないのだけれど。


 それとも、生理の痛みはとっくの昔に乗り越えての研究だったのだろうか、と益体もない事を考えて、わたしはビールの残りを一気に飲み干した。







「また、他にも情報がありまして、この世界の人間はゾンビを倒す事で経験値を得てレベルアップをしているそうです。ただ、それを数値として見ることはできないそうですが」


 メモを見ながら早川さんが言う。

 灰谷さんが表情を明るくした。


「レベルアップ! やっぱりあったんですね」


「それが、私達にはゾンビを倒して経験値を得る、というのは当てはまらないようです」


「というと?」


 崎田さんが首を傾げて早川さんのほうを見る。

 メガネをかけてインテリっぽい見た目なのに農家だという彼は、意外に筋肉質だ。

 農家って大変だっていうもんね。


「使っていれば必要に合わせてレベルアップすると」


「うーーん、まあ、必要な時にレベルアップしていないよりはいいですよね」


「そうですね、ここは前向きに考えましょう」


「でも僕のバスコンはいつ開放されるんでしょうか……」


 悲しげに言った灰谷さんに、全員が笑ってほのぼのとした空気が戻る。


 かなり追い詰められてる世界だけれど、割と悪くないかも、と思えるようになってきたのが自分でも不思議だった。











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