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生き延びる力

 翌朝、わたし達は再び旧博物館へと案内された。


 そこで朝食を済ませたあと、ノトイさん達と一緒に武器を試しに船に乗る。

 昨日使った船着場とは違う場所に泊めてある船で、小型のジャンク船や手漕ぎボートが並んでいた。


 ここは、畑へ向かう船のみの船着場なのだという。


 ゾンビがいる中で畑をやるのは危なくないのだろうか。

 そう考えたが、それはとても浅はかな考えだった。


 船に乗って進んだ先には、魚の養殖場に似た囲いが浮かんでいる。

 その多くには、青々と美しい緑があった。


「パルムには多くの人間が住んでいますからな。その腹を満たすために、こうして魚や貝の養殖、水上に作った畑で野菜を育てているわけですが、これがなかなか追いつきませんで」


 ノトイさんはそう言って頭を撫でながら笑った。




 実はパルムでは食料よりも浄水装置のための機械部品が資源として重要視されているのだそうだ。

 常に必要なものではないが、パルムという街を支える生命線。

 あまり大っぴらに集めるわけにはいかないので、信用できる傭兵達にこっそり依頼しているらしい。


 バルトさんやレークスさんは、その信用できる傭兵のリストに入っていた。

 そのためパルムで必要とされる部品を知っていたわけだが、あまり警戒されていないと思ったらそういう訳があったのかと納得した。


 多分、バルトさん達と出会えたのもきっと、女神様が何かタイミングを図っていたのかもしれない。




 畑へ向かう川の上流と下流は、島への船着場を守る警備に押さえられている。

 岸から直接、船を出そうとすればそこにはゾンビが天然の防衛として存在する。


 畑泥棒は後を絶たないが、多くはその代価に命を支払うという。


 人間とは本当にたくましい。

 だがそれもゾンビの進化が始まればそれまでだ。


 この強くて静かな街が滅びるのは見たくない。

 わたしがそう思っている間に船は畑を過ぎて岸へ近づいた。


 そこにはぽけーーっと空を見上げるゾンビの姿がある。


 夜の間に岸へ寄ってきたゾンビ達だ。


「じゃあ、さっそくお願いしますよ」


 ノトイさんの言葉で銃を構えていた年嵩の警備兵がライフルを発砲する。

 サイレンサー付きとはいえそれなりにする音に、わたしはびくりと体をすくめる。


 弾は確実にゾンビの頭に当たった。

 ゾンビが倒れる。


「久々でしたが、なんとかなるもんですな」


 淡々と言った彼は、国の重要文化財もある博物館の警備を任されていた人物で、当然戦闘経験もあり、銃の扱いも慣れているそうだ。


「撃った感じはどうだね?」


「悪くありません」


 そう言ってもう1発撃つ。また倒れた。鮮やか。



 そして、これから川岸の船着場へ向かい、そこから徒歩で2時間くらい離れて試射を行う。

 そう聞いて、わたし達はげんなりした。

 歩くのはもう勘弁して欲しい。


 早川さんがそんなわたし達の様子を感じ取って、苦笑しながらノトイさんに訊ねた。


「これから見るものを決して口外しないとお約束いただけますか?」


「と言いますと?」


「わたし達はとある(つて)から便利なものを預かっています。それらを大勢に知られてしまうと面倒な事になりかねませんから、なるべくなら隠しておきたいのです。どうでしょう」


 ノトイさんは仲間の方を振り返った。


 ここに一緒に来ているのは、街の若手の議員1人と、警備兵が5人。

 全員が厳しい表情でうなずいた。


「誓いましょう」


「ありがとうございます。では灰谷さん、お願いします」


「はい」


 灰谷さんは岸辺にマイクロバスを出した。

 ノトイさん達があんぐりと口を開ける。


「船着場まで行かなくとも、誰か1人を船に残していれば問題ありませんよ。戻ってきたら、船を岸に寄せてくれれば安全に島へ渡れます」


「なんという……」


 マイクロバスに乗り込んで、まだ呆然としているノトイさん達。


 崎田さんが早川さんに話しかけた。


「この付近に居住地を作って、島から移住者を募るのはどうでしょう」


「悪くありませんね。この辺りはゾンビも少ないようですし。ノトイさん達に話を通しておきましょうか。まあ、ペンキが見つかれば、の話ですから、まだずっと先でしょうけれど」


 早川さんはわたし達1人1人を見回しながら確認する。


「皆さんもそれで構いませんか? 反対の人はいますか?」


 みんな笑って首を振った。

 反対はない。



 わたし達がいなくてもやっていける街。


 ゾンビが進化する事さえなければ、問題を1つ1つ解決して進んでいける街。


 わたしの出す家がなくても暮らしていけて。

 灰谷さんの出す車がなくても外へ出られて。

 羽田さんの出す食べ物がなくても困らない。

 

 そんな逞しい人たちを助けて支えるために、わたし達はきっとここにいる。

 そう思うのだ。









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