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商売をします

 バルトさん達の指名手配はあっさり取り消された。


 説得なんか必要なかった。


 崎田さんが大盤振る舞いでカラー写真付きの専門書を10冊取り出したところ、ノトイさんはその場で約束してくれたのだ。


 ノトイさんはご機嫌で、「これからも末永く仲良くしていきたい」と早川さんの背中を叩いた。




 バルトさん達の指名手配は無線によってパルムまで届いていたが、何度か商隊の護衛でやってきた事もある彼らの為人(ひととなり)を知っている人も中にはいて、あり得ない、何かおかしいと話していたらしい。


 その話を聞いていたノトイさんは、試しにとわたし達をこの部屋まで案内させたそうだ。

 部屋の外には大勢の兵士が武器を構えて、いつでも突入できる態勢でいるとか。


「わしが保証する、解散!」


 と言われて、兵士たちはさっさといなくなった。

 みんなお休みの日に駆り出されていたらしい。


 そして直後に収集された議会の面々もまた、『積まれた本の前には全ての罪が洗い流される』と断言した。


 大丈夫なのだろうか、この街。




 






 試射は街から離れた場所で明日行うと言われ、それではとわたし達は銃器類以外の取引をお願いした。


 パルムでは、土地の全ては住まいとして利用されており、物資の取引は日を決めて旧博物館(役所)のホールで行われる。

 次の市に参加させてもらうのも手だが、ここでは街との取引を優先したかった。


 


「市で売る方が儲けはあると思いますよ?」


「ええ。ですが我々はまたすぐに外へ出ますので」


「なるほど。なぜそんなに急がれるのかは分かりませんが、薬にしてもなんにしても、あれば必ず必要になるもの。まとめて、という事で安くはなりますが買い取らせていただきましょう」


「よろしくお願いします。銃器は試射ののちお引き渡ししますが、わたし達はここへは戻らずそのまま次の予定へ向かいますので、お支払いは次回、街へ寄ったさいに頂戴します」


 ノトイさんは驚いたように目を見開いた。


「次回?」


「はい。お渡しする武器を実際に使って、信頼できるとなればそれからで」


「しかしそれは随分と話がうますぎますな」


「そうですか? わたし達には些細な事ですよ。こちらの街を信じておりますので」


 早川さんの言う通り、それはわたし達には些細な事だ。

 なぜなら、安全で快適なマイホームでくつろぐ以上に大事な事なんて存在しないから。


「使ってみなければ本当にその価値があるかどうかも分からないでしょう。私どもはそれで結構です」


 すごいかっこいい事を言っているように聞こえるんだろう。

 早川さんが笑顔で話す隣で、わたし達は内心の申し訳なさを出すまいと必至だった。


 なんだか潤んだような目のノトイさん達。


 本当にごめんなさい。

 わたしは心の中で彼らに泣いて謝った。









 わたし達の今夜の宿は船の上だ。


 島外の人間はみな、船で宿泊するらしい。

 住む土地が足りなくて、船に住んでいる人もいるという。


 早くペンキを見つけて、早く居住地を作らないと。


 

 島では午前中のうちに料理を作り、午後はできるだけ静かに作業をして夜に備える。


 わたし達は冷めた料理を購入して早い晩御飯を食べた。

 日が落ちれば灯りひとつない夜がやってくる。


 戸の鍵をかけて、誰も外へ出ず、魑魅魍魎の蠢く世界に人々が怯える夜が。



 船の外を見ると、家や博物館があるはずの島は真っ暗で、まるで全てが死んだように気配がない。

 それは人間と夜との正しい在り方に違いない。



 暗い暗い闇の中、黒い黒い水の上で過ごす一夜は悪夢のようで、夜中恐怖と共に何度も目覚めては、わたし達はその度に遠い朝を思った。











 

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