パルム、中洲に密集する家
頂上へ向けてみっしりと家々が詰まっている。
にも関わらず、街はひどく静かだった。
時折子供の高い声や作業の音が聞こえるが、これだけの家があるにしてはあまりにも静かで、それは異様とさえ言えるほどだ。
夜になれば外出する者もなく、灯りもひとつとしてなくさらに静まりかえるらしい。
活気がない、というのとはまた違う静まり返った街。
パルムはそんな街だった。
島にある小さな船着場で木札を渡すと、ついてくるよう手招きされた。
盗賊達は船着場で警備をしていた自警団の男性に預けられた。
ゆっくりと坂を登って旧博物館まで案内される。
博物館は今、街の運営に関わる役所のような場所になっているらしい。
開けっぱなしのドアを過ぎると、遥か高いガラスの天井。
そして広々としたロビーの先の、緩やかなカーブを描く大階段。
展示物が全て仕舞われていてさえ、その建物自体がひとつの洗練された文化そのもののようだ。
入ってすぐの受付横の通路を奥へ進む。
大きなテーブルが置いてあるだけの広い部屋で、わたし達はここで待つように言われた。
しばらくしてやってきたのは、背の低い人の良さげなおじいちゃんだ。
「いやどうも初めまして。私がパルムの代表のノトイです。非常に興味深いものをお持ちいただいたと聞きましたが」
「そこまでのものかどうかは分かりかねますが、気に入っていただければ幸いです」
そう言った早川さんの目線の合図で、わたし達はテーブルの上に商品を並べる。
薬に機械部品、野菜に石鹸、そして本。
ノトイさんが1番興味を示したのは当然本だったけれど、わたし達はここからまだ他の品を出した。
革鎧、鎖鎧、カイトシールド、ガントレット、バスタードソード、十文字槍、ハンドガン、ライフル、防弾ベスト、バリスティックシールド……。
適当に各自の荷にしまったため、まとまりなく色々と出てくる。
二十歳かそこらの盗賊達では、機関銃やライフルを見てもあまり反応はなかった。
バルトさんでさえ、銃の類は子供の頃のおぼろげな記憶にあるだけらしい。
初期の頃はみな銃に頼りもしたが、そのうち弾がなくなり、エネルギーが切れ、銃本体が壊れ、と使用される事がなくなっていったという。
しかしノトイさんは違った。
彼はゾンビパニックが起きた時すでに博物館の館長としてそれなりの年齢だったのだ。
昔ながらの武器や防具、そして銃。
「これは……まだ使えるのですか。弾もありますか?」
慎重に、探るようにわたし達を見る。
「もちろんです」
「これらを私どもに販売していただけると?」
「はい。銃器類については、弾薬はある程度サービスでつけさせていただきます」
「……試してみても?」
「もちろんです。ああ、あれが必要ですよね。ええと、どうしましょうか。試射は場所を改めますよね? その時までにサイレンサーを用意しておきます。お声がけください」
「サイレンサーまで、ですか。一体これだけのものをどこから……いや失礼、不粋でしたな」
ノトイさんが汗を拭く。
きっと安全な武器工場でも見つけたのだと考えているに違いない。
武器工場は、いくつか確認されているそうだが、全ておそろしく強い大量のゾンビがうろつく場所にあるらしい。
多分兵器会社の直営の工場なのだろう。
「もしこれら全てを買い取らせていただきたいとなれば、いかほどになるでしょうかな」
現在、銃器類のみならず武器防具の類は貴重品なのだとレークスさんが言っていた。
日本刀の輝きに魅入られながら。
ゾンビと戦うのに使って壊れたり、人間同士で奪い合ったり。
地球産の武器防具よりもよっぽど性能がいいはずのこちらの兵器は軒並み姿を消している。
それを聞いてわたし達は、いくらでも高値がつけられそうだ、と笑った。
だが。
「ここに出した銃器類含む武器防具については、試供品扱いとして、無償とさせていただきます」
ノトイさんの眉がわずかに動く。
疑わしいと思われても仕方ない。
「かわりに、こちらで商売をする許可と、私達の仲間についてお力添えをいただきたい」
「と言いますと?」
「この5人……バルト、レークス、ニグル、イオナ、ナツはとある街で冤罪をかけられ逃亡しました。おそらくこちらにも手配が回っている事でしょう。それを破棄していただきたいのです」
「なるほど……しかしできたとしてもこのパルムの街のみとなりますが」
「構いません」
「彼らが無実だという証明はできますかな?」
「私達が信頼している。そういう事でいかがでしょう」
早川さんがにこにこと話す。
これだけの商品を提示できる商人をいらないと言えるのか、と。
わたし達が出したのは全て1つずつ。
薬も、本も、何もかも。
ここにいる11人がわたし達の全員だと知らなければ、暴力に訴える事もできないはずだ。
それは金の卵を生む鶏を殺すようなもの。
ノトイさんは苦笑して右手を差し出した。
「その条件で皆を説得してみましょう」
にこやかに早川さんと握手を交わしながら、ノトイさんは「ところで」と満面の笑みを浮かべた。
「お持ちの本はこれだけですかな? もし他にもあれば説得はさらに容易になると思うのですが」




