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漁夫の利を得ていいのは味方だけです

 1つ戻った先の拠点のツリーハウスはさらにひどい事になっていた。


 生垣はかなりの範囲で破壊され、道路のあちこちに傭兵たちのぼろぼろの遺体、血溜まり、そしてゾンビの死体が転がっている。


 ニグルさんが両の拳を握りしめ、怒りに体を震わせた。


「ゾンビを使って襲わせたか」


 バルトさんが顔をしかめる。

 だが激怒したような様子はない。


 多分それは、こんな事が初めてではないからだろう。


 誰でも思いつく事だ。

 手強い敵同士は喰いあわせ、漁夫の利を得る。


 引き裂かれ、バラバラになった体。

 内臓を食われた体、腸を引き摺り出された体。

 自分のものではない赤い血に塗れたゾンビの死体。


 予想以上の光景を見て、言葉を失ったわたし達にバルトさんが声をかけた。


「すまん、今日も手伝ってもらっても構わないか」


 早川さんが息を吐き出した。


「そうですね。急ぎましょう。次もある事ですし」


 道路の外、数キロ先の森の中には黄色い点がいくつもある。


 こんなに近くなければ、森ごと焼き払ってもよかったのに。

 わたしはそう思った。








 森と反対側に教会を建て、お墓を作る。

 それから道路から離れた場所にゾンビを埋めた。


 ゾンビが死んだあとどうなるのかは知らない。

 けれど、わたしはなんとなく手を合わせた。

 隣で異世界組はみんな手を合わせている。


 バルトさん達には嫌な顔をされるかもしれない。


 でも、ゾンビはただ生み出されて、与えられた条件の中で生きているだけだ。


 彼らにも魂があるのかは分からない。

 けれど、万物に魂は宿るのだとしたら、彼らにだってきっと生きる権利はある。


 女神はこの世界の人類にとても厳しい。

 もしかしたら、ゾンビの方がまだましだと思っているのかもしれない。


 そうだとしたら、きっと人間の1番の敵は人間だからだろう。


 祈りを終えた早川さんが「行きましょうか」と振り向くと、羽田さんが手を挙げた。


「提案があるんですが」


 全員が羽田さんの方を見る。


「ガスを撒きましょう」


 羽田さんはにっこりと人に好感を与える素敵な笑顔でそう言った。






 



 盗賊たちは森にあるツリーハウスの中にいる。

 その数を確認して、開いている窓から睡眠弾を撃ち込むことになった。


「本当は催涙弾とか強烈なやつで死ぬ思いとかさせてやりたいところですけどね」


 羽田さんはそんな事を笑顔で言う。

 だがわたしも同感だ。


 おそらく彼らと彼らの仲間のせいだろう、昨日は散々な思いをした。


 彼らが愚かな真似をしなければ、わたし達は遺体の埋葬なんていう非日常を経験する事もなかったのだ。


「うまく効いてくれればいいんですけどねえ」


 のんびりと早川さんが言ったのに、バルトさんが請け合う。


「まだ意識があって動けるようなら、今度こそ俺たちの出番だな」


「その時はお願いしますね」


 ツリーハウスは全滅を避けるため距離をおいて設置されている。

 全部で4つのツリーハウスに2〜3人ずつ中にいて、ハウスの外には見張りまでいた。


 早川さんが睡眠弾を撃ち、内部にガスを充満させる。

 外の見張りはライフルで始末した。


 バルトさんとレークスさん、崎田さんと羽田さんがハウスに乗り込んで行って、中の人間をロープで縛る。


 見張りの死体を埋めるのはわたし達女性陣とニグルさんだ。

 穴を掘って入れて土をかけるだけ。


 その間に次のハウスを片付ける。



 この作業で心配なのは、何かの拍子でゾンビが寄ってきたり、他にも盗賊の仲間がいて戻ってきたりしないかだ。



 それを解決したのはくるみちゃんだった。

 彼女のスーパー銭湯で使われていたインカムが、外へ出しても使用できたのだ。


 しかも、次の日には補充されているというありがたい仕様。



 おかげでわたし達は全員に行き渡る数のインカムを手にする事ができた。

 充電切れも怖くない。


 森の外では灰谷さんが周囲を警戒し、最悪の場合その破壊不可のボディを使って駆けつけてくれる事になっている。

 イオナさんとナツさんはまだ射撃の訓練中なので、灰谷さんの補助だ。



 こうしてわたし達は森の中にいた盗賊達を片付ける事ができた。

 話を聞くと、やはり昨日の盗賊達の仲間で、あの場所でしばらく商人を襲うつもりだったのだそうだ。


 通って行った商人が戻ってこないと怪しまれて、傭兵たちが捜索と討伐に乗り出すため、どんなに長くても1ヶ月。

 この森を拠点に、数日おきに交代で商人たちを待ち構えていたという。






 犠牲になったのは2カ所の拠点の傭兵たちと、商隊が1つだった。

 

 もう少し早ければ犠牲が出ずに済んだのか。

 そんな事を考えてもどうしようもないのに、ついくよくよとしてしまう。


 誰も彼も助けられるわけじゃない。

 ここへ来なかった可能性だってある。


 重苦しい空気の中、わたし達はようやく中洲の街パルムへと向けて出発した。












 


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