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みんな事情があるのです

 死体は生垣の外へ運んで、少し離れた場所に埋めた。


 障害物を片付ける事もそうだが、最後まで手間がかかる。


 この付近はゾンビがほとんど出ない場所だからいいが、そうでなければもっと大変だっただろう。

 そう思うとそこら辺に捨ててしまいたい衝動に駆られるが、放置すれば病気の原因にだってなるかもしれない。


 なにより、埋められずに放置された死体はゾンビを呼ぶ。


 臭いに引き寄せられるのだそうだ。


 わたし達はそれで嫌々ながらも埋葬を済ませた。

 成仏は祈らないが。


 やっている事を考えれば、死んだら皆仏とはとても思えない。

 それはわたしの精神が未熟だからだろうが、悪いとは感じない。



 きちんと手を合わせていたしおりさんの姿が眩しく感じられた。










「しかし大丈夫なのか?」


 バルトさんが心配そうにわたし達を見る。


「何がだ?」


 崎田さんがスコップを片付けながらバルトさんに視線をやった。


「お前達はみんな、平和な場所で生きていたんだろう? イオナもそうだが、安全地帯で暮らしている人間はたいていゾンビや盗賊とは無関係に過ごす。いきなり人を殺すハメになるというのは、辛くはないのか」


「いきなりじゃないぞ」


「どういう事だ?」


 崎田さんはスコップを軽トラの荷台に乗せ終わると、額の汗を拭う。


「俺たちはずっと考えてきたんだ。いつかこういう日が来るって。ゾンビ、あれも人型だしな」


「そうか」


「それに、この世界に来る時、俺たちは女神と取引をしている。この世界で頑張ってくれるなら、残してきた家族や大事な人に関して願いを聞いてくれる、ってな」


 そう。

 わたし達の転移はほぼ強制だった。

 来世の功徳となると言われたが、女神様はわたし達1人1人と話し合い、さらに望みを叶えてくれた。


 だから、わたし達にとってこれは仕事なのだ。


 絶対に失敗できない仕事。


 ああいった犯罪者達に甘い顔を見せて足を引っ張られるなんてあり得ない、大事な仕事。


「俺たちは誰1人欠けるわけにはいかないからな。何かあった時にためらうわけにはいかないんだ」


「ならいいんだが……」


「ああイオナさんは別だぞ。これは俺たちの事情で、誰かに押し付けるものではないし、そういう人がいるっていうのはいい事だと思う」


「あ、ああ、そういうわけじゃなかったんだが、すまん」


 恐縮したバルトさんに崎田さんは背中を叩いて笑う。


 その隣で、早川さんと羽田さん、くるみちゃんが辺りを見回しながら話している。


「ほんとにいませんね、ゾンビ」


「工場の近くに集まるようになっているか、でなければ……」


「工場の地下か、近い場所で製造されているか、ですね」


「そうすると、この辺りは比較的安全で間違いないという事でしょうか」


「おそらくそうでしょうねえ。灰谷さん!」


 早川さんは軽トラの隣でマイクロバスをいつでも発進できるようにしていた灰谷さんに声をかけた。


「はいはーーい」


「近くに人かゾンビはいますか?」


「いやあ、何にもいませんねえ。半径20キロくらい赤も黄色も青もなんもなしです」


「やはりそうですか。バルトさん、あの道路はどのくらい安全ですか? どのくらいの頻度でゾンビに襲われます?」


「ほとんど襲われる事はない。頻繁に襲われる道というのは廃棄されるからな」


「なるほど……では商人が行き来する頻度は?」


「冬はゾンビの動きが鈍くなるから毎週のように商隊が出るが、今の時期だと2ヶ月に1度だな」


「けっこう間が空きますね……。やはり危険だからですかね」


「ああ」


「では、今日は道路に戻って10キロ毎の拠点を目指しましょう。宿泊は、そこに人がいたらそのとき考えるという事で」


 全員が了解してうなずいた。


 その気になれば灰谷さんの車でも一晩は過ごせる。

 あまり見られたくないが、最悪の場合は家を出してそこへ逃げ込んでもいい。



 ふと気になって、わたしは早川さんにお願いした。


「万が一なんですけど、家や車の中に人がいて、その状態で消してしまった場合どうなるんでしょう?」


「……確認しておいたほうがいいですね。ちょっと待ってください」


 早川さんがちょっと黙ったあとにメモを取り出した。


 しばらくして返ってきた内容は、


『仲間として女神が認識していれば、次に出した家もしくは車の中に戻ってくる。そうでない場合は異界に放り出される』


 との事。

 怖い。


 仲間かどうかについては全員のパッドで確認できるし、鑑定のステータスにも表示があるそうだ。


 時々思うのだけれど、この世界の女神様は本当に容赦がない。

 わたし達に配慮してくれているのが嘘みたいに思えるほどだ。


 女神様からすれば、わたし達は地球から無理を言って借りてきた魂なので、あっさり死んだり苦しんで死んだりしたら地球の神様に申し訳が立たないらしい。

 次に何かあったときに助けてもらうのが難しくなる可能性もあるので、丁寧に面倒を見てくれているのだとか。


 わたしはそれを聞いたとき、まだ見ぬ地球の神々に心から感謝した。


 神様同士が良好な関係を保とうと頑張ってくれているおかげで、わたし達はこうしてなんとかやれている。

 本当にありがたい事です。









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