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商人達の道です

 機械工場の地図を作り、探している塗料が無いのを確認すると、わたし達は街へ向かった。


 ここから近い街は、規模は小さいが大きな川の中洲にあり安全なのだという。




 

 草原を進んでいくと大きな道路に出た。

 道路と言っても、あちこち壊れた古い大きな道だ。


  左右を高い生垣で囲われているが、2キロおきに馬車が入れるサイズの、蔦でびっしり覆われた扉があるのだという。


 わたし達はその扉を探して道に入った。


 ところどころ陥没し、または大きく波うち、アスファルトのヒビには植物が生えている。

 バルトさん達を雇う商人は、こういった道を通って街を渡って行く。


 ゾンビは多い地域と少ない地域があり、少ない地域の道路を遺伝子操作で成長が早くなった植物で囲いを作り、安全を確保する。


 10キロおきに木々を植え、その木がまだ若いうちは近くの森で、木々が大きく育てば高い位置にツリーハウスを作って夜を明かす。


 他にも、人工物は夜のうちにゾンビに壊される事が確実なので、生垣で何重にも囲った空地を作り、育つのを待つ方法もある。

 生垣が十分に育てば、そこに小さな建物を建てるのだ。

 

 何年も何年もかけて、人々は植物を育て、手入れをして道を繋げてきた。

 通称、『商人達の道』。



 だがそうやって苦心した休憩場所を賊に占拠される事もある。

 それを防ぐため、常駐する傭兵を雇い、定期的に道を使用して入れ替える。


 街の外を行くのは並大抵の事ではない。

 だがそれを引き受けて街を繋ぐ商人達は人々から敬意を払われる。


 イオナさんの父親も商人だったそうだ。


 だが行商の最中に行方不明になった。

 後日壊れた馬車と争った跡が発見され、死体は見つからないまま、無理を続けた母も死亡。

 別の街の商人が後見人となり、イオナさんがお店を継いでニグルさんと2人でなんとかやってきたらしい。



 これから向かう中洲の街の名はパルム。

 小さな島に多くの人々がひしめきあって暮らしている街。

 食料のほとんどを食品工場と自然の恵みに頼っている。


 土地が狭すぎて、農業をする余地がないのがその理由だ。


 食品工場からは距離があるものの、森が近くて川があるのでなんとかやれているらしいとは、以前仕事で訪れた事のあるバルトさんとレークスさんの(げん)だ。








 


 草原から道路へと入ると、カーナビで近くに誰もいないのを確認して電気自動車に乗り換える予定だった。

 道路の上なら走行音の少ないもののほうがいいと灰谷さんが言ったからだ。


 しかしカーナビの範囲を大きく広げると、道の先に黄色い点がいくつも現れた。

 

「なんかいますねえ」


 灰谷さんが困ったように運転席でカーナビを操作する。


「赤がゾンビで青が人間、黄色は……」


 メニュー操作で説明画面を呼び出すと、灰谷さんは続ける。


「危険人物、あるいは敵対者。多くは犯罪者」


「ああ……」


「仕方ありませんねえ」


 早川さんがため息をつく。

 そして作業服のポケットに銃を入れた。


「まずは車で近づいてみましょうか。敵対的と言っても、話せばもしかしたら争いは回避できるかもしれませんし」


 ムリだと分かっていてもとりあえず話し合ってみる。

 21世紀はじめの日本に生きる身としては、いきなり攻撃はできない。


 せめてアメリカくらい自衛の責任が個人にあれば、「フリーズ(動くな)!」ぐらいはできたかもしれないけど。


 でも突然、銃を突きつけた時点でもう敵な気もする。


 難しいなあ、と思っていると、灰谷さんがマイクロバスタイプの電気自動車を出した。


「機関銃を設置し直したら出発しますんで、とりあえず移動してください」


「あ、機関銃、この車のと同じで良ければすぐ出しますよ」


 屋根の機関銃はのどかさんが出して、灰谷さんが女神様からのl能力で取り付ける。

 もし能力がなければ、時間もかかるし音も出るし、取り付けるだけでも大変だっただろう。


 準備が済むと、わたし達はゆっくりと出発した。


 しばらく進むと道路が木箱や鉄の板で封鎖されている。

 トゲトゲしい装飾がしてあって、世紀末感満載だ。


「思ったんですが」


 その背後に見え隠れする人影を見て、わたしはふと気になった事を口にした。


「人類の絶滅を防ぎたいのであれば、女神様としてはアレも殺しては欲しくないのでしょうか」


「いや、それは……どうでしょう」


「正当防衛なら見逃してくれるとは思うんですけどねえ」


 するとその時、メモがピカリと光った。


「なんて言ってます?」


 みんな興味津々で早川さんを見つめる。

 早川さんは一瞬へにょりと眉を下げて、それからいつもの表情に戻るとメモから顔を上げた。


「『犯罪者を放って置くと、人類の未来が妨げられるので、種としての強さや生存可能性が高くとも気にせず一掃してください』との事です」


「良かったあ」


「さすが女神様!」


「すっごいハッキリしてるよね」


 ホッとして喜び合うわたし達をよそに、早川さんは困ったように小さく笑う。


「いい、のかなあ」


 いいのです。

 女神様のお許しも出たところでご挨拶をいたしましょう!










 

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